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私の呟きで絶望したアルチェの顔は、それまで見たこともない、あり得ないほどの醜悪な顔だった。
釣り上がった目は、射殺そうとするかのように私を睨み、眉間には年若いのに深く皺を寄せている。悔しいからか唇を噛み締めている為、そこからは血が流れてきていた。
(どれだけ悔しいの?)
そもそも、今日彼女が昼休憩の時、相手は誰かわからなかったけれど、退学になりそうな理由を小声ではあるけれど、叩きつけるように話していた。それが要因なのであれば、こんなことになったのも自業自得と言える。
彼女が悔しがるという考えを持つ事自体、おかしな話だと私は思う。
悔しがる資格もアルチェには有りはしない。
未だに睨みつけるアルチェを、放って立ち去りたいのは山々で、先程から何度も何度も試みている私だが、実はどうやら腰が抜けてしまって立てないのだ。
足に全く力が入らない。
こんな事は初めてで、対処の仕方も分からない。
唯一助けを求められそうな、一番近くに居るエルマール様は、私の片手を持ち上げたまま、微動だにせずアルチェを睨んでいる。
外から見たら、階段の手摺に掴まったまま、私を睨むアルチェを睨むエルマール様を見上げる私だ。
ややこしい
頭の中で説明文のように展開させた文字を見て、考えるんじゃなかったと後悔した。
その時、エルマール様に声が掛けられた。
「エル!クルーズ伯爵令嬢は、立てないのではないか?」
「!」
その声にエルマール様が反応して、漸く私の懇願する顔を見て下さった。
でも真顔。
ちょっと怖い。
だけどマリオネットにされたとはいえ、助けてくれたのは事実。
漸く視線を私に向けてくれたのだ、言うべきことはちゃんと言おうと思い、私は口を開いた。
「カンテラ伯爵令息様、助けて頂きありがとうございます」
「⋯⋯ん、」
エルマール様は、私の言葉に朝の挨拶と変わらない返事をして下さったけれど、そのままだった。
えっと、立てないのではないかと、先程カイル殿下に指摘されましたよね?
私の無言の問いかけにも、エルマール様は微動だにしない。それはそうだ、専属侍女のユリアにすら、私は「あ、うん」の呼吸ができないのに、隣の席だというだけで、エルマール様と無言の意思疎通などできるわけがない。
そんな事を考えつつ、何とか自力で立とうと試みていた私は、急にフワリと自分の体が宙に浮いたのを感じた。
「「えっ?」」
驚いたのは私とエルマール様。同時に驚きの声が漏れた。
あろうことか、いつの間にか、私は恐れ多くも隣国の第二王子殿下に、王女様のように抱き上げられて、その場を移動することになっていた。
エルマール様は王子殿下と並んで歩いているのだけれど、私の手は離さないままだった。




