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いつもと何か違う視線の中、私は学舎の玄関へと向かう為、階段を下りていた。
2段ほど下りたその時、不意に腕を掴まれる。
「えっ!」
「キャッ!」
声を上げたとき、私の頬に何かが触れた。
それが髪だと気付いたのは、必死に階段の手摺にしがみつく、アルチェを見た時だった。
そして私の腕を掴んでいるのは⋯隣の席の彼。
隣国オードン王国の伯爵令息、エルマール様だ。
私の手を握っている彼の形の良い額には、少し汗が滲んでいて、走って来た事を物語っている。
そして焦ったような顔をしているのが、少し面白かった。いつも淡々いや飄々としている彼が、挨拶でも「ん、」の一言しか言わない彼が、焦るという感情を面に出している事が、不謹慎にも可愛いと私には思えたの。
状況から察するなら、いくら鈍い私でも分かる。
アルチェが私に害を為そうとして、エルマール様が助けてくれたのだ。
まさか階段から突き落とそうとした?
今まさにそれに気付いて、膝が嘲笑ったように震える。
害を為そうとしたまでは気付いたけれど、その行動が命を脅かすほどの物だとは、あとからジワリと実感してしまったのだ。
ヘナヘナとその場に崩折れる私を、腕を掴んだままのエルマール様。
彼には助け起こすという概念が無い様で、階段の縁に座り込んだ私のダランとした手を無理に掴むエルマール様という構図。
傍から見たら私が、糸の切れたマリオネットの様に見えるだろう。
その時、アルチェが叫んだ。
「何なのよ!何なの何なの、あんた何なのよ!」
周りには、帰ろうとする生徒たちが集まっている。衆人環視の中で、アルチェは普段決して見せない本来の彼女を晒したのだ。
そして、その事に気付かない彼女は尚も続けていた。
「あんたは大人しく私から男を奪われればいいだけなのに!何反撃してんのよ!母親を見習いなさいよね!あんたの母親は大人しく男を取られていたのに。どうしてあんたは⋯」
それまでアルチェの言葉を、馬鹿馬鹿しいと俯いて聞いていた私は、急に黙ったアルチェを不思議に思い顔を上げる。
すると、漸くアルチェは周囲に気付いたようで、自分の醜態を晒した事を、どうやって取り繕うかとでも考えているのか、それともどうにもならないと自分の迂闊さを後悔しているのか。彼女は顔面蒼白になっていた。
だけど、その想像したどちらでもなかったようで、周りを見て蒼白になっていたアルチェは、開き直ったのか私をギロリと睨み唇を噛んだ。
どうやら、これも私のせいにしたいらしい。
でも⋯。
「もう無理よ」
私の心の呟きが口から漏れて、奇しくもアルチェに引導を渡していた。




