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翌日学園に向かう馬車の中で、私は何度も溜息を吐いてユリアに呆れられていた。
でもしょうがないのよ。
学園では、おそらくアルチェがカフェで鉢合わせたあの出来事を、きっと自分にいい様に吹聴しているのが目に見えるよう。
でもお母様達に言われた通り、私は何もしないと決めたから、言われっ放しのフルボッコ決定だもの。憂鬱になるのはしょうがないでしょう?
と、ユリアに目で訴えてみた。
変わらず呆れた瞳が私を見つめているだけだった。
馬車停めでも、そこから学舎に入るまでの廊下でも、学舎の入り口でユリアと別れた時も、いつもと何ら変わりはなかった。
おかしい、そう思ったのは教室までの廊下を歩いている時だった。
ヒソヒソとされるのは慣れているし、今日は覚悟もしていた。
だけどそのヒソヒソが、何となくいつもと違うような気がしたのだ。
まぁでも、ヒソヒソと噂されているのには変わらない。
私は教室に入ると、自分の席に座り、既に席に着いている、隣の人物に挨拶をした。
「おはようございます」
「ん、」
私の隣の席の彼は、今までもこうだった。
今日に限ったことではない。
教室に入るまでのいつもと違う感覚が、彼のいつもの返事で気持ちが戻された様な気がする。
(やっぱり気のせいよね?)
授業前の教室内。
このAクラスの人数は20名。
いつもあちらこちらに2、3人ずつが集まって、お喋りしている令嬢達が視界に入る。私は一度もそのお喋りに参加したことはないけれど⋯あっ!1年生のとき2週間ほどは、私も仲間に入れてもらっていた様な気がする。
たった1、2年前の出来事が、遥か昔のように思えるわ。
でも、そのお喋りの様子もいつもと違う気がして、変わらないのは⋯隣の席の彼だけだった。
◇◇◇
「何かおかしいわ」
「お嬢様もですか?」
「ユリアも何か感じる?」
「はい」
学園の昼休憩は、昼食も挟む為、友人のいないボッチの私は、お昼休みはいつもユリアと、学舎の裏側にある、知る人ぞ知る穴場の東屋で過ごしている。ここを教えてくれたのは、この学園の卒業生のユリアだ。
本当に穴場で彼女も学生の時、煩わしい事から逃げる為に、よくここを利用していたと聞いた。ちなみにその煩わしいことは、教えてもらえてない。
今日もいつものように、我が家の料理長が作ったランチボックスを広げて、食べながら午前中の事を考えていた。そしてやはりおかしいと思い、ユリアの前で確信の呟きをすると、彼女もまた同じように感じていたようだった。
「侍女待機室では、いつも他家の侍女等が、色々と情報をくださるのですが「ちょっと待って」え?」
「ユリア、あなた他家の侍女から嫌味を言われたり意地悪されたりしていないの?」
「まさか!そんな事されたりした事はないです」
嫌われ者の私の侍女だから、てっきりユリアも学園の侍女待機室で、意地悪をされてるものと私は思い込んでいた。その事をちゃんと聞いたことはなかったけれど、いつも申し訳ないなと思っていたから、意外だとは思ったけれど、安堵もした。
「良かった、それなら早く教えて欲しかったわ、いっつもユリアに申し訳ないなと思っていたのよ」
「まぁ!それは申し訳ありません。てっきり待機室で仕入れた話をお嬢様にもしていたので、知っているとばかり思っていたものですから」
「えっ?貴方がくれるアルチェの話って、待機室からだったの?」
「そうですわ、皆さんお嬢様のことを“蠱毒令嬢”などと蔑んだりなどしておりません。皆誰が悪いか位承知しております。偶にアホな侍女もいますが、そういう者は直ぐに外れ者にされますので、私は安泰です。皆さんお嬢様を気遣っておいでです。ですが主には意見など言えないですから、相槌などは打っているそうです」
侍女たちの真実を聞いて、私は目から鱗だった。それに、少し気持ちが上を向く。
見てくれている人はちゃんと見てくれているのだと、勇気が湧いてきた。
ちょっと力強く両手で拳を握り、良しとばかりに胸元で揺らした。
「何されてるんですか!」
私の子供っぽい仕草に、朝の馬車の中と同じく呆れた目をするユリア。
ところで、話しの続きを聞きたいのだけど、そう思っていたら、少し騒がしい声が聞こえた。
それはどうやらアルチェの声の様で、まさかこちらに来る気じゃないでしょうねと慄き、ユリアと顔を見合わせて、慌てて東屋の柱の影に身を潜めた。
東屋まではやって来なかったけれど、極近くにいる事は声の大きさでわかる。
「どうして私が退学しなきゃならないのよ!」
アルチェの声に、私は思わず声を上げそうになった。




