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薄紫のドレスに、胸元と裾には細かい金糸の刺繍。
ケビン様の用意してくれたドレスを身に纏い、鏡の前に立つ私に長めの白い手袋をユリアが着けてくれる。
お母様譲りのピンクベージュの髪を、今夜はシニヨンスタイルで纏めて、後れ毛の調整をしているのはリズだ。
今夜は私達の卒業記念パーティが、学園の会場で行われる。
もうすぐ、ケビン様が私を迎えに来てくれる。
ケビン様と婚約して約一年。
学園を卒業したケビン様は、一旦はオードン王国に帰国したけれど、直ぐに戻ってきて、クルーズ伯爵家の領地で、お父様の手伝いをしてくれていた。
彼のスケジュールは多忙で、月の半分はこの国で過ごし、残りの半分はオードン王国へと帰国して、カイル殿下の側近を務めている。
それもこれも、我がクルーズ伯爵家の、特産とも言えなかったお茶を、特産品にするべくお父様に協力してくれていたからだ。
元々領地だけで消費していたお茶の、販路を隣国にしたいとケビン様が提案してくれた。それが共同事業という事になり、茶畑を増やすことから始めなければならなかった。
無謀というほかない。
でも、ケビン様やそのお父様のローザン侯爵の尽力で、順調のようで私もホッとしている。取ってつけたような、婚約のメリットをここまで真剣に形にしてくれる事に感謝しかない。
留学したカティからは、ケビン様経由で月に1回は手紙が届く。
彼女は花嫁修業も兼ねて、既にカンテラ伯爵家で生活している。
そういえば、1年前の卒業パーティの時、私とケビン様の婚約が発表された。
その時に、カイル殿下がさらっとついでの様に、エルマール様とカティの婚約も発表したのだ。
二人は、卒業生ではなかったから、本来なら出席する予定はなかったが、ルベラ公爵令嬢が出席できないのを見越して発表したのだ。
その次の日には、カティとエルマール様は、カイル殿下やケビン様よりも一足先にオードン王国へと旅立った。
そのせいで、私とメイリンの家にミーティナ様とユシュリー様が、突撃してきて大変ではあったけど、友人の幸せのために喜んで代わりに罵倒を受けました。
その時の事を思い出すと笑ってしまっていた。
「お嬢様、どうされました?」
「フフッ、1年前の事を思い出していたの」
「あぁ、ルベラ公爵令嬢ですか。あの方もようやく諦められたのでしょうかね」
「侍女待機室では、どんな話になってるの?」
実は、先日ルベラ公爵令嬢が、4歳ほど離れた伯爵家の嫡男と婚約したと聞いたのだ。
ユリアとリズは私の問いに顔を見合わせてから、笑顔で教えてくれた。
「とても喜んでいたそうです。そう見えないようにご令嬢は、皆の前ではツンツンされていますけど。1年前にケビン様に叱られてから、随分大人しく過ごされていましたから」
1年前に私のところへ突撃してきて、嫌味やら罵倒やらを繰り返していたミーティナ様を、ケビン様が一喝してくれた。それ以降絡まれることもなくなったのだけど、正直少々気の毒でもあった。
彼女は彼女なりに、エルマール様の事が本当に好きで、アタックし続けていたのだと思うから。
「お嬢様、そろそろお見えになるのでは?」
「そうね」
部屋を出てエントランスに向かっていると、馬車の到着する音が聞こえた。
私はゆっくりと階段を降りる。
エントランスに入ってきたケビン様が、こちらを見て、あの殺人級の笑顔をこちらに向ける。
「レニファ、ゆっくり降りておいで」
アレッ?既視感
そう感じながら、私はケビン様の言う事を聞く。
ゆっくり
ゆっくり
降りた先には、私と合わせた衣装のケビン様。
「卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
私が微笑んでお礼を言うと、さり気なく腕に私の手を添える。
「さぁ行こうか」
「はい」
今日のパーティでは、このためだけにこちらに来た、カイル殿下とメイリンの婚約が発表される。
思えば殿下は、アーノルドとアルチェの事で、鬱々とした日々を過ごしていた私を、開放してくれた恩人でもある。
カイル殿下の勘違いで色々と迷惑も被ったこともあったけど、結果的にケビン様と婚約できたのも、殿下のおかげでもある。
「気をつけて」
馬車のステップを気にして、ケビン様が優しく声をかけてくれる。
車窓から見える景色はいつもと同じだけれど、それも今日で見納め。
明日私はケビン様とオードン王国へ向かう。
その先にはきっと幸せが待っているのだと、私は素直に信じられる。
だってケビン様と一緒だから。
end
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