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メイリンの顔色はとても青く、普段の闊達な彼女とはあまりにもかけ離れていた。
何かに怯えているような様子に、私のほうが青くなる。
「メイリン、どうしたの?どうしてそう思ったの?」
私の質問にハッとしたように、目を開いたけれどその目は直ぐに落ち着かないように左右上下に動く、明らかな挙動不審だった。
そんな彼女の肩に手を置いて私は落ち着かせるように言った。もう隠しては於けないと思った。
「お話は頂いているわ、まだ正式なお返事は待ってもらっているところよ」
「⋯⋯やっぱり。断りたくても断れないのでしょう?」
「ええっ?」
どうして、そんなふうに思っているのだろう。
私は思わず大げさなほどに大きく首を左右に振った。ブンブンと音が出たかもしれない。それほど本気で首を振ったのだ。
だってケビン様は強要などしていない。
私にまだ嫁ぐ覚悟が出来ていないだけだ。
それも正直いえば、カティの婚約を聞いてかなり天秤は傾いている。ずるい考え方かもしれないけれど、《《一人じゃない》》と思えた事が、私に勇気を与えてくれた。カティが一人のつもりで振り絞った勇気を、決断力のない私はそれを⋯。本当にずるいわね私って、ごめんねカティ。でもそれが本心なの。
頭の中でカティに謝罪しながらも、ただ事ではないメイリンに、話しをさせようと追い詰める。
おそらく、メイリンは今私と同じ気持ちだと思った。
「メイリン、勇気を出すのに人の手を借りてはいけないのかしら?」
「えっ?」
「私ね、実は伯爵令嬢っていっても、そこそこな家柄なのよ。だからそこそこにしか育ってないのねきっと。両親が悪いわけではないわ。私自身がそう思って生きてきたからなのかもしれない。だからね勇気がないの。人にお任せばかりなのよ」
「レニファ⋯」
「私にもっと勇気があれば、アルチェに対抗出来たはずなの。人の手を借りずさっさと婚約破棄できたはずよね。影で“蠱毒令嬢”なんて言われ続けても、何のアクションも起こさなかったのは、ただ勇気がなかったからよ。ある程度だけ声を上げて、聞いてもらえなかったと諦めたの。誰か気づいて、誰か助けてって声を上げずに救いを求めるなんて、どれだけズルいのかしらね。どれほど傷ついているのかなんて、察しろって方が無理なのに」
私は、アーノルドと婚約していた時を思い出しながら、あの不甲斐ない日々を、自分を悲劇のヒロインの様に、私が私を扱っていた日々をメイリンに吐露した。
「あの時に、自分は変わらなきゃくらい思っていたはずなのに、結局変わっていないのよ。そのせいでユリアは怪我をしてしまったわ。今回もね、私はズルいから一人で決断できなかったの。でもカティに勇気を少しだけお裾分けしてもらえたらって思うのよ。あなたもそうなんでしょう?」
「レニファ、あなた知って⋯」
私はもう一度頭を左右に振った。
「《《ちゃんと》》は知らないわ。でも正義感の強いあなたが考えそうなことは、期間は短いけれどあなたの友人だもの、私にだって分かるわ。カイル殿下に婚約を打診されているのでしょう?」
私の問いかけに、メイリンは目を見開き驚きながらも、その目に涙を溢れさせ頷いた。
「私、私はお話をもらって、ずっと考えてたの」
「いつお話があったの?」
「カティが領地に行ったと聞いた日の夜に、お父様から」
「そう」
あの日からお茶会の前日まで、メイリンは何も変わった様子はなかった。
ということは、とてもいい条件で打診があった事が想像できる。
メイリンの家にもメイリンの為にも、そうであって欲しいと思っていたから私は安堵した。
隣国とはいえ王族からの話しを、伯爵家が断る事は、王家でも通さない限り無理な話なのだ。
だからカイル殿下は、それが嫌で恋として正直に押し通そうとしたのだろう。
でもそれはあの方の立場なら無理な話だった。
「メイリンはどう思っているの?」
「私は、迷っていたの。殿下は迷うなんて選択肢を我が家にも私にも与えてくれたの。だからそれに甘えていたのよ。正直にいえば怖いって思ったの。そんな私が恥ずかしくてレニファにも相談できなかった。でも昨日お茶会でカティが隣国に行くって聞いて、カティが行くなら私も行こうって思った時、まさか私のせいでカティは婚約《《させられたのかな》》って思って。私がカティの人生を変えてしまったのかと思ったら、益々怖くなって。それでひょっとしたらレニファもかもしれないと思うと、もう立つのもやっとで⋯」
メイリンは、元々正義感の強い人だから、私と同じようにカティが行くなら、心強いからそれに便乗しようとした自分が許せなかったのかもしれない。
それが、ズルい私との違いだ。
しかも、メイリンは、エルマール様の気持ちを知らない。だから尚更責任を感じることになったのかもしれない。
私はメイリンに全部話してしまおうと思った。
これ以上、メイリンのいらぬ罪悪感を増幅させてはいけない。
「ねぇ、メイリン。あなたが知らないことを私は知ってるの。今まで黙っててごめんなさい」
「レニファ?」
まだ涙の溢れるメイリンに謝罪して、彼女の涙をハンカチで拭きながら私が言うと、メイリンは不思議そうに首を傾げた。
ごめんなさい、ケビン様。
私は黙ってる事が出来ませんでした。
心の中で謝罪して、私はケビン様から聞いた事をメイリンに話し始めた。




