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「は?誘拐?」
今日の我が家のシェフのランチボックスは、パンなしだった。
友人とおかずを交換し合うことを聞いたシェフは、いつもボックスの中身をおかずで埋め尽くすの。だからパンは別に籠に入れてユリアは持ってきていた。
リズはそれを知らなかったようで、今は地面にのめり込むのではないかというほど、肩を落として落ち込んでいる。
メイリンの侍女から、お裾分けでもらったパンを握りしめているけれど、大丈夫かしら?
そんなリズを私が只管見つめていたのは、彼女が心配というのはもちろんだけど、もう一つメイリンの怒り具合がすごくて怖かったからだ。とてもじゃないが直視できない。
昨日のアルチェの事を話していたのだけど、話すのではなかったと後悔している。
何かしら刑が確定したら、王都の街にも発表されると思って、他の事を誤魔化すためにアルチェの話しをしてしまった。
発表まで待てばよかった⋯。
なんかつい元凶のカイル殿下を恨みそう。
八つ当たりだけど。
「ユリアも気の毒に」
メイリンのその言葉で、怒りは少し収まったかと思い、彼女の方を見る。
顔に心配と書いてあるように感じるほど、メイリンは感情を顕にしてた。
「メイリン、心配ありがとう」
「当然よ、レニファの大事な侍女じゃない」
「うん、でもね今回の事で少し反省もしたわ」
「反省?」
「そう、お母様は私の専属をね、学園に入る時に増やすと仰ったのに、私がユリアだけでいいって言ったものだから、彼女に沢山の負担を強いていたのに気付いたの。まぁ、あ、うんの呼吸はちょっとまだまだだったけどね」
「そっか、でも反省したなら増やすのでしょう?」
「えぇそのつもり、ほら候補はいるもの」
「⋯⋯お嬢様」
私の言葉に、リズがちゃんと反応してくれた。
リズには、これから頑張ってもらわないといけないから、落ち込まれても困るのよ。
「私もユリアさんみたいになれるように頑張ります」
リズは立ち上がって、握りしめていたパンを急いで食べ始めた。良かった。
「それにしても、誘拐なんて馬鹿なこと考えたのね」
「お母様は、叔母が考えたんだろうって言ってたけど。多分ね、本人にも伯父にも、そして子爵にも言ってなかったのだと思うわ。そうでなければいくらアルチェでも、堂々と王都で自分を晒したりしないでしょう」
「そうね、いくらあの子が愚かでも、流石に誘拐何て考えそうではないし⋯カティが居なくて良かったかもしれないわ。あの女が王都に居ると思っただけで気に病みそうだもの」
「そっか、それもそうね」
私はそこまでは考えられなかったけど、流石メイリンだわ。
「そういえば、あなたの元婚約者様、婚約したらしいわよ、ね?」
「そうなの?」
メイリンが言いながら、自分の侍女に同意を求めるように言ったから、私もそちらを向いて聞いてみると、彼女は頷いていた。
すごいな、侍女って。
噂を熟知しているのかしら?
そう思っていたら、相手はその侍女の従妹だそうだ。
従妹嫌な響きね。
「もうアルチェはいないから、今度こそ婚約者に誠実であってほしいわ」
まぁそもそも、私の婚約者でなければアーノルドは狙われなかったのだから、気の毒かもしれない。
それでも、メイリンの侍女の従妹さんの為にも、アーノルドの誠実さを切に願うわ。




