表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恩人の彼の勘違い  作者: maruko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

41

 学園に向かう馬車がいつものように、ゆっくりとクルーズ伯爵邸を出発する。

 馬車の小窓から見える外の景色も、馬車の速度も変わらない。

 違うのは、いつも馬車に同伴していたユリアの姿が、メイドのリズに変わっている事だ。


 彼女は初めて学園に行くらしい。

 昨夜から緊張していたのだと、今朝私の髪を漉きながら教えてくれた。


 今も、学園に持って行く荷物の確認を再度行っている。

 出かける前も何度もしていたから、相当落ち着かないのだと分かる。


「リズ、そんなに気負わないで。忘れ物があっても御者に頼めば直ぐに取りに帰ってくれるわ。それに、忘れて困るのはランチボックスくらいよ」


 落ち着かせようと思って、声を掛けて見たけれど、今度は「ランチボックス、ランチボックス」とブツブツ言いながら、ランチボックスを確認する始末だった。

 これは声をかけない方が良かったのかしら?


 そうこうしているうちに、学園に到着して、私とリザは学舎の入り口で別れた。


「大丈夫かしら?」


 体中から緊張を発しながら、リズは侍女待機部屋の方へと向かっていた。その背を見つめて私が心配の声を呟いていたら、肩をポンと叩かれた。


「おはよう、レニファ」

「おはよう、メイリン」


 メイリンに挨拶をされて、私も先程のリズのように、体中に緊張が走る。

 普通ってどうだったかしら?

 知っているのに、何も知らぬふりをするのが辛いなんて、友人相手だと取り繕うことが難しい事を私は初めて知る。


 昨日、ケビン様にカイル殿下の事は、暫くメイリンには言わないで欲しいと頼まれたのだ。

 はじめのお願いとは、真逆の事を頼まれて困惑する私だったけど、どうやらお父様の指摘で殿下は色々と考え直したらしい。

 殿下が自分で動くそうだから、それまでは知らないふりをする事になった。


 なったのだけど、それならばはじめから聞かなければよかったと、今更ながら思う私。

 隠し事をするのが辛い。


 そう思った時、カティが遅いなと気付いた。

 大体、こうやってメイリンと挨拶をしている頃に、カティもやってくるのに、今日はまだ来ていないようだった。


「カティは、遅いのかな?」

「昨日から、領地に戻ったの」

「えっ!そうなの?領地で何かあったのかしら?」

「それは聞いていないわ。暫くお休みするって今朝手紙が届いただけだから。何かあったのかしらね」


 そんな会話をしながら教室に辿り着く。


 カティは、どうしたのかな?

 カティの事も気がかりだけど、私は今日の昼休憩をメイリンと二人だと言うことに気付いて、ちゃんと普通にしていられるか、其方のほうが心配で、授業中もその事に気を取られていた。



 ◇◇◇



 昼休憩を穴場の東屋で取るために、メイリンと歩いていた私は、学舎を出た所で呼び止められた。

 朝からそんな予感はヒシヒシと感じていた。

 それというのも、ルベラ公爵令嬢の友人という名の取り巻きのナルシー子爵令嬢が、小休憩の度に私を睨んで来るからだった。


「クルーズ伯爵令嬢、昨日は挨拶もなしにいつの間にか図書館から居なくなっていたけれど、失礼ではなくて?」


 どうして図書館を出る事を、ルベラ公爵令嬢に断らなければならないのか、よく分からないことを言われた。

 それに、あの場を離れる時に、私は「失礼します」と言ったと思うのだけど?


 それを言うと、どうやら礼のしかたが気に食わないと言うことらしい。

 学園ではないのだから、公爵令嬢のミーティナ様に、略式でもきちんとした礼をしなければならなかったそうだ。


 一理あるかな?


 そう思って謝罪しようと思ったのだけど、メイリンに止められた。


「ルベラ公爵令嬢、ご指摘の事ですが、それは場所を考えればレニファは間違っていないと思います。図書館は私語厳禁。確かあそこでは礼を取らなくても良かったはずです」


 メイリンの指摘にミーティナ様の眉の端がクイッと上がるのが見える。

 ちょっと怖い。


 そしてその怖さのままメイリンを、品定めするかのように、腕を組みながら上から下へと視線を這わせているその姿。

 ミーティナ様⋯公爵令嬢ですよね?

 何だか、アルチェが私を蔑んでいた時のように見えるわ。


 こんな方だったかな?

 益々怖い。


「ルベラ公爵令嬢様。そのお姿とても嘆かわしい。《《お友達》》はお選びになった方がよろしいです」


 メイリンの言葉に、ミーティナ様は苛立ったように手を振り上げたその時、突然そのまま固まった。


「どうされたのですか!ミーティナ様、こんな無礼な人、成敗しなきゃ!」


 ナルシー子爵令嬢が、固まったミーティナ様を煽ったけれど、私は何故ミーティナ様が固まったのか気付いてしまった。


 丁度、私達の後ろには学舎がある。


 私は確かめる為に、後ろをそっと振り向いた。


 (やっぱり)


「わ、わたくし、私は、何て⋯⋯酷い」


 固まっていた体から、力が抜けたように振り上げた手を降ろしたミーティナ様。

 それから彼女は、そのまま逃げる様に立ち去った。ユシュリー様は驚いて追いかけて行く。

 その後ろ姿を、メイリンは唖然として見ていたけれど。


 ミーティナ様はきっと、学舎の窓に写ったご自分の姿が目に入ったのでしょう。


 良かった⋯彼女の矜持が手を振り下ろす前に目覚めてくれて。


「メイリン、行こう。お腹空いたね」

「え、えぇ行こうか、レニファ」


 昼食前の珍騒動を、学舎の屋上からこっそりカイル殿下が見ていた事は、あとでケビン様が教えてくれた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ