4
カフェに行った日は、学園の連休の1日目だったから、次の日も休みの私は朝から婚約破棄後に自分はどうすれば良いかと考えていた。
父にプレゼントする為に、窓辺の椅子に腰掛け刺繍をしながら考える。刺繍の得意な私は考え事をしながらでも、手は勝手に動いてくれるのだ。
今私は学園の2年生、あと1年と少し残っている。
アーノルドと婚約破棄したあと、皆の誤解が解ければいいけれど、今のままで、このまま友人もいないまま学生生活を送るなら、行くだけ無駄の様な気もしてくる。
友人の一人もいない社交が壊滅的な私に、新しい縁談など来るはずないし、それなら女学園の方に編入してもいいかもしれない。
王国には、王立でいくつかの学園があるし、今の学園に固執する必要もない。今まで在籍していたのは、単純にアーノルドがいたからだ。
別にアーノルドが好きだとか嫌いだとか一緒にいたいとか、そんな感情ではない。
アーノルドの母であるセコズ伯爵夫人が、婚約者は一緒にいるべし離れるなんて以ての外と言ったからだ。
その台詞は私にではなく、アーノルドの方に重々言い聞かせて欲しかった。
今の状況を夫人は分かっているのだろうか?
同じ家格でもある為、私は母から家政を習っている。夫人とは偶に会うこともあるが、その時はいつもアーノルドは澄まして夫人の隣に居る。
「気付いていないだろうなぁ」
アーノルドに似ている夫人の顔を思い浮かべて私はボソリと呟いた。
「お嬢様、休憩されますか?」
「そうね、一息つきましょう」
刺繍道具を一旦脇に避け、ユリアの淹れてくれたお茶を一口飲む。
窓の外では昨日と同じく青空が広がっている。
「今日も晴れてるわね」
「左様にございます」
ユリアが、刺繍の糸を揃えながら相槌を打ってくれる。
それに微笑んで、ふたくち目を飲もうとカップを口に近づけた時、外で怒鳴る声が聞こえた。
耳を澄ますとアーノルドの声だ。
彼と会う約束は昨日で、今日は何も約束していない。何を勝手に来てくれちゃってるのかと、どうせ具にも付かない言い訳を並べに来たのだろうと、放って置く事にした。
昨夜の時点で、私の両親から完全に不信を買っているアーノルドは、先触れがないなら通すなと言われているはずだ。
あとで慌てて言い訳するなら、嘘など吐かなければ良かったのに本当に愚かだ。
彼が何故こんなに必死か私は知っている。
アルチェの父の二の舞いに、なりたくないに他ならないからだ。
その事を知った時に、アルチェから離れれば良かったのにね。
私は愚かなアーノルドの怒鳴り声を遠くに聞きながら、美味しいお茶を堪能していた。




