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恩人の彼の勘違い  作者: maruko


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 地面に倒れているユリアを抱き起こすと、倒れた拍子に反射的に手を付いたのだろう、掌から血が流れていた。


「ユリア、血が流れてる。ちょっと待ってね」


 急いでポケットからハンカチを取り出して、傷に直接結び目が当たらないように、とりあえずの止血のつもりで、ぎゅっとハンカチで掌を縛る。

 早く傷を洗って消毒をしなければならないのに、アルチェが五月蝿い。


 今は、走ってきた御者が、地面に蹲る私達を庇って、アルチェの前に立ちはだかってくれている。

 その御者にアルチェがさっきから悪態を吐いているのだ。


 それにしても、アルチェは一人なのだろうか?


 アルチェは学園を退学して、他の学園に編入しようとしたけれど断られたと聞いていた。成績は悪くなかったが、やはりカティの元婚約者と画策していた事が、編入書類に記載されていた為、どこの学園もアルチェを受け入れてくれなかったらしい。


 どう考えても彼女の自業自得だけど、他責思考にある彼女は、おそらく誰かのせいにしたいのだろう。そしてその相手はきっと私なのだ。

 理由は従姉妹だから?

 馬鹿馬鹿しい。


「そこを退きなさいって言ってるでしょう!御者は馬車に乗ってればいいのよ!何降りてきてるのよ!」


 全くもって何て言い草だろう。

 それにアルチェの五月蠅さに反応して、周りに人が集まってきている。

 他の学園に編入できないアルチェには、もう縁談も望めないし、やろうとしたことが悪質だと、アルチェの父であるマーカー子爵にも見限られて、修道院に送られたと聞いていたのだけど、本当に如何してここにいるのだろうか?

 まさか脱走してきたとか?


 怖い⋯。


 思わず脱走したアルチェなら何を仕出かしてもおかしくないと思い立ったら、急に恐怖を覚えた。


 その時アルチェの背後から、見知らぬ男の人が顔を覗かせた。


「アルチェ、騒ぎを起こすならめんどう見きれないぞ」

「伯父様。だって⋯あの女のせいなのよ!伯父様もお母様から聞いたでしょう?」


 アルチェのその言葉で、見知らぬ人が誰か私には予想がついた。

 この男性はお母様の兄で、私の伯父に当たるゲットン伯爵だ。

 伯爵が現れたら、御者では太刀打ちなんて出来ない、不敬罪で捕まってしまう。


 私はユリアを起こして自分も立ち上がり、御者の肩を叩いた。


「ありがとう、もういいのよ。あなたは下がって」

「ですが、お嬢様」

「あなたが、どうにかされてしまう方が、私にとってはよっぽど辛いわ。流石に他家の貴族令嬢に暴力で訴えたりはしないはずよ(常識があればね)」


 私は御者を下がらせ、伯父に当たるゲットン伯爵の前に出て、一応頭を下げる事にした。相手は一応伯爵なのだ。悔しいけど身分はあちらの方が高い。


「何だ?お前は。ん、その髪色はマティリアの娘か」

「はい、ゲットン伯爵。初めまして、レニファ・クルーズですわ」


 挨拶をして一応もう一度下げたくないけど、頭を下げた。

 横でアルチェが、まだいうか!と思えるほどに、私への悪口を言い続けてる。

 よくもまぁ次から次へと出るものだと、思わず感心してしまう。


「ふうん、マティリアの娘ねぇ。生意気そうなところが母親そっくりだな」


 きっとゲットン伯爵である伯父も、お母様の言うように、アルチェの母である叔母と同じで、聞きたくないことは聞こえないらしい。それと聞いても自分の都合のいいように曲解するのだろう。

 それで、お母様は散々な目にあってきたのだ。


 伯父が、ちゃんとした聞く耳を持っていれば、アルチェとは絶対に距離を取るはずだから。


 そんな事を考えていたら、私は伯父に腕を取られた。


「おい!お前アルチェに何かしたのか?したんだろう?何をした!言ってみろ」


 大人の男の人に、怒鳴られるのは正直怖くて足が震えた。でも私は何もしていない。

 ここに居ただけだ。


「何もしておりません」

「何だと?しらばっくれるつもりか?」

「本当に何もしておりません。皆様に聞いてみたらどうですか?」

「は?」


 そうして伯父は、周りを見る。

 アルチェの怒声で、人だかりが出来ている。

 それを承知で、こちらに来ていたのではないのだろうか?

 そんな事はすっぽり脳内から抜けちゃったのかしら?

 周りを見回して、侮蔑の眼差しを受け止めた伯父は「フン!」と言って、アルチェを連れてその場を立ち去ろうとした。


 でもそれは叶わなかった。


「拘束しろ!」


 突然大きな声とともに、私達は騎士に囲まれた。

 呆然としている私の目の前で、伯父とアルチェが激しく抵抗しながら、騎士たちに拘束された。


「大丈夫?レニファ嬢」


 心配そうな顔で私に声を掛けるケビン様。 


 如何して、ここにあなたがいるの?

 ミーティナ様は?


 頭に浮かぶ疑問は声にならなかった。

 ケビン様が、震えている私の手を、ぎゅっと握ってくれたからだった。







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