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恩人の彼の勘違い  作者: maruko


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 全く心の準備が出来ていなかった。

 突然私の視界に現れたケビン様は、近頃私の前に見え隠れして、辟易していたご令嬢を伴っていた。


 言葉が出ない。


 そして、どうして二人は連れ立っているのかしら?


 私が気にすることじゃない?

 そうよね。

 きっとそうよ。


 勝手に脳内で完結して「ごきげんよう」と言って踵を返して立ち去ろうとしたのに、ミーティナ様が見逃してくれなかった。


「まぁクルーズ伯爵令嬢様、ごきげんよう」


 どうして返事をするのよ!

 挨拶をされたら挨拶を返す。

 それは基本中の基本だけど、私とミーティナ様は今、そんな挨拶ができるほど普通の関係ではない。


 カイル殿下のうざ絡みが煽りになって、彼女が私とエルマール様の仲を変に曲解して考えているのだ。

 ライバル認定している蠱毒令嬢が、目の前にいる事に、何かを思ったのか、普段はユーシュリー様を介しての口撃を、まさかこの図書館という、静寂必須な中で実行しようと思っているのかしら?


 私はミーティナ様の挨拶に、体を硬直させた。


「そんな髪型をして、どなたの気を引きたいのかしら?」

「えっ?⋯どういう意味ですか?」


 言わなければいいのに、つい応戦してしまった。私の馬鹿。


「いいじゃないか、とても似合うと思う」


 不穏な空気を醸し出した令嬢二人の間に、ケビン様のおっとりとした声が入り込む。

 昨日の明るいケビン様の声とは違って、私は少し戸惑ってしまった。


 バツが悪かったのか、ミーティナ様は「そうですわね」とケビン様に相槌を打つのに留めていた。

 私もそれ以上は言うつもりもなかったから、とにかく二人から離れよう。

 そう思って再び立ち去ろうとしたのに、またもやミーティナ様は目敏かった。


「それ、オードン王国の書物ですわね。どうしてクルーズ嬢が?」


 しまった!と思った時はもう遅い。

 ケビン様に対しても恥ずかしかったけど、ミーティナ様が絶対に勘違いをする事が分かってしまう。


「少し調べものをしているだけです。もうよろしいでしょうか?ここでは私語厳禁ですわ。失礼いたします」


 頭を軽く下げて、ユリアを連れてその場をとにかく急いで立ち去った。

 だけど、もう本を読む気にはなれなくて、かといって先程の場所に本を返しに向かう勇気もなかった。


 仕方なく司書の所に行って、5冊の本を借りることにした。貸し出し禁止じゃなくて良かったけれど、5冊の本は荷物になる。

 本を持ったまま、街歩きもできなくて、私とユリアは一旦馬車に戻ることにした。


「お嬢様、どうされますか?」


 馬車に本を置いた時、ユリアが尋ねてきた。


 今日、図書館へ向かう馬車の中で、ユリアと今日の予定を話していた。

 本をどれくらい読むのか全く予想がつかなかった為、午前中図書館で読書に勤しみ、お昼頃休憩を兼ねて、休日に出る噴水広場の屋台で、お昼を購入して、公園で食事をしよう。午後からは、読書の続きをするか、折角外出したのだからショッピングをしようか?それは休憩のときに話しましょう、なんて言っていた。


 予定は未定とはよく言ったものだわ。

 まさか1日の予定を、30分で覆されるなんて思いもよらなかった。


 屋台⋯⋯まだ時間も早い為、きっと準備中だわ。

 それに、全然お腹なんて空いていない。


 どうしたものか⋯。


 このまま家に帰って、借りた本を読む。

 そんな気にはなれなかった。


 これからのことを考えていた時、耳障りな声が聞こえた。

 私の名前を呼んでいるのは聞こえているけれど、返事はしたくない。


 それは私がよく知る人物で、二度と会いたくないと思っていた人。

 どうしてこんなところにいるのだろう?


「あっ!」

「ユリア!」

「お嬢様!」


 私を庇ったユリアが、押されて地面に倒れてしまった。

 タバコでも吸っていたのか、離れていた御者がこちらに急ぎ足でやって来るのが見えた。


「何をするの!アルチェ!」

「うるさいわね!あんたのせいでしょ」


 アルチェは修道院に入れられたと聞いたのに、どうしてここにいるのだろう。


 倒れたユリアを抱き起こしながら、今日は厄日だったのかもしれないと思った私は、外出したことを後悔した。







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