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次の日、私は朝の仕度に来たユリアに出掛けることを告げた。
「ユリア、今日は早めの時間に出かけたいの。服装は軽めでお願い」
「どちらに行かれるのですか?」
「⋯王立図書館に、ちょっとね」
心の中をユリアに見透かされそうで、少し躊躇ったけれど、外出はユリアが必ず一緒なので伝えないわけには行かない。それにお父様への報告と外出の許可も、ユリアにお願いしないといけないから伝えたけれど、いつものように直ぐに返事がない。
顔を拭いたタオルを渡すと、ようやく「畏まりました」と返事があった。その間は何?
いやだ、絶対ユリアにはバレてしまっている。
良いのだけれど良くない。
恥ずかしい気持ちが湧いてくるけど、絶対に表情に出したくなくて必死に堪えた。
昨夜、色々と考えた私は、ケビン様からの婚約の話を前向きに考えようと思った。
ただ、もう一つ踏ん切りがつかない。
前向きなのに決め手がない、そんな感じなのだ。一生を決める事を経った1日で決断したくないというのもある。
時間がないのは理解できた。
それでも自分に納得させたかった。
だから覚悟を決める為に、私の知らない事を知ろうと考えたの。
だけど我がクルーズ伯爵家は、隣国とあまり関係は深くない。
詳しい事業などは知らないけれど、隣国の話題を家で聞いたことがないから、あったとしても浅いのだろう。
それに、私は家の図書室は子供の頃からよく利用しているので、隣国関連の物が一つしかないのを知っている。
それは隣国の地図で、書物に至っては一つも置いてないのだ。
それでは、話しにならない。
だから図書館で隣国の事を調べてみたいと思った。
ユリアの用意してくれた服は、簡素でも質の良いクリーム色のワンピースで私のお気に入りの服だ。
袖を通しながら、いつもはあまり考えないのに、アクセサリーを付けたいと思った。
「ユリア、お祖母様から頂いたブローチをつけようかしら?」
16歳の誕生日に、前クルーズ伯爵夫人の祖母から、戯けたように「形見分けよ」と怖い事を言われて頂いた琥珀のブローチ。
今日の装いには地味な合わせになるけれど、行き先は図書館だ。
丁度いいなと思った。
「お嬢様、髪はどうされますか?」
本を読むなら、サイドの髪が落ちるのは避けたい。邪魔になりそうだ。
それに⋯いつもしない髪型をしてみたいと思った。
“蠱毒令嬢”と言われていたときは、何もかもを諦めていた節もあって、おしゃれをしようなんて気にならなかった。
でも最近は、ちょっと違う。
髪型も服装もそれなりに気を使うようにもなっていた。
それが今日は特に、あれもこれもと気に掛かる。
「サイドを纏めてみようかな、どうかしら?」
「⋯お似合いになると思います」
そうして、私とユリアはやったことのない髪型に挑戦した。
両サイドを編み込んで、後ろでつなげて結ぶ。
結び目に髪飾りをユリアが嵌めてくれた。
この髪型は学園でよく見る髪型だった。
したことのなかった私は、とても時間の掛かるものと思っていたけれど、ユリアはあっという間に整えてくれた。
「どうでしょうか?」
「ユリア、すごいわ。言ったらできるなんて、流石ユリアね」
「いえ、この髪型はご令嬢の定番だそうですよ、侍女待機室で説明だけですけど、習った事があったので」
「凄いのね、侍女待機室って」
私は学園の侍女待機室には行ったことがないし、基本的に馬車停りで見かけない限り、他の方の侍女や侍従は分からない。
想像もできないけれど、思わずどんな部屋なのだろうと考えてしまった。
◇◇◇
王立図書館は、連休2日目だからなのか人が多くて座る場所を確保するのが大変だった。
高位貴族の方は、個室の予約をしているらしいけれど、私のようなそこそこな伯爵令嬢には、予約自体分不相応だ。
入り口で受付をして、司書に本の位置を尋ねた。
「オードン王国関連ですか?具体的にはどのような内容でしょうか?」
「オードン王国を知りたいと思ったのですが、何を読めばいいかも分からなくて。地図しか見たことがないのです」
「なるほど。では3-6辺りから奥にお進みください。その辺りが隣国が扱う書籍や隣国について書かれた書物になっています。それ以上に詳しい物は別の場所になりますので」
「わかりました、ありがとうございます」
言われた場所へと向かうと、思ったよりも量が多くて目眩がしそうだった。
裕に100冊はあると思われた。
どうしてこんなにあるのだろう。
そしてどこから手を付ければいいの?
どうしていいかわからないままに、本の背表紙を見ていく。
一応大陸語で書かれているものばかりで、オードン王国の言語ではなかった。
そう思った時、閃いた。
「ユリア、オードン王国の言葉ってわかるかしら?」
「いえ、私には⋯」
「私もさっぱりだから、じゃあ背表紙で読めない物を探しましょう」
「読めないものですか?」
「えぇ、オードン語を見てみたいなと思ったの」
私が閃いたのは、馴染みのないオードン語の言葉に慣れようと思ったのだ。
喩え読めなくても、その文字に触れ合って見たかった。
ユリアが2冊程手に取り、私が3冊持ったところで、先程受付で確保した読む場所へと向かっていたら、後ろから声が掛けられた。
「レニファ嬢?」
「えっ?」
振り向いた先には、昨日から私を悩ませているケビン様が立っていて、彼の後ろにはルベラ公爵令嬢が居るのが見えた。




