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お父様の執務室~
「それで、レニファはどうしたいんだ?」
「迷っています」
「迷う?」
「はい、メイリンの気持ちを慮るには、何が大事なのか。客観的に見ればカイル殿下とのお話は良縁ですよね?でもメイリンにとってはどうなのかが、私にはわからないので迷っています」
お父様からの質問に私は目を伏せて答えた。
本当にどうしようかな?
ずっとメイリンの笑顔が浮かんでいる。
「いやレニファ。私が聞きたいのは、私の大事な娘の縁談のことだが?」
「えっ?」
お父様の言葉に、私は伏せていた視線を上げた。
そこには優しい眼差しのお父様がいて、隣にもお母様が微笑んでいた。
「姉上、姉上はケビン様をどう思ったの?」
「私?」
「うん、姉上の縁談の話でしょう?」
「そ、そうね。そうだったかも」
何だかショーンに話をされると、今日のケビン様のお願いが、私への求婚に変化していくように思えてきた。
「レニファは、ケビン君との話をどう思ったんだ」
お父様が質問の言葉を変えてきた。
それが不思議で、私は少し首を傾げた。
「ケビン君のお願いと婚約は別で考える事なのだろう?そう彼は言っていたと、先程レニファが言ったじゃないか」
「そう言われたわ」
「あぁ、だったら我が家が検討するのはレニファの婚約が先だね。レニファがどうしたいか聞いて私が判断するものだ。私はレニファの父親だから」
「そうね、レニファ。あなたの前の婚約者は、とんでもない人だったから。今回はあなたの気持ちを先に私も聞きたいわ」
お母様はそう言って少し目を伏せた。
きっと過去の事を思い出したのかもしれない。お母様の時とは、少し状況は違うけれど、お母様は《《2度目》》も、叔母に婚約を壊された経緯がある。
私を心配するのは当たり前なのかもしれない。
そう考えたとき、ケビン様のあの眩しい笑顔が頭に浮かんだ。
すると勝手に顔が条件反射のように赤くなる。
「まぁレニファ、あなたそんな顔も出来るのね」
お母様の感嘆の声に、私の顔色は益々反応してしまう。こんなことアーノルドの時には経験していない。
「レニファ、婚約の返事は早くしなければならないだろう?そちらを先によく考えるんだ。それから互いの友人のことを《《二人》》で考えることもできるだろう?彼はきっとそう思って、婚約のことは別で考えて欲しいのだと私は思ったよ」
「二人で考える為?」
「そうだ、一人でも隣国に嫁いでいける覚悟を先ず考えなさい。私達はお前の気持ちと意思を尊重するから。わかったね」
「はい、お父様」
それで家族会議なるものは終了したけれど、その後のショーンは、昼食の時、余程楽しかったのだろう、ケビン様との会話で出た乗馬の話を両親に興奮して話していた。
ショーンは兄が欲しかったのだろうか?
少しだけ寂しい気持ちが湧いた。
そしてふと思う。アーノルドはショーンと話したりしなかった。
私の家族と良好な関係を結ぶ気はなかったのだろうな。
そんな事を思い出したら、アルチェとの事がなくても、アーノルドとはいつか破綻していた気がした。
婚約してそして婚姻すれば家族になる。何よりも大事な家族になるなら、お互いの家族も大事にするべきだ。
貴族の婚姻は特に家と家を結びつけるもの。
そんな当たり前の理を、私は忘れていたのかしら?
いいえ、忘れていたのはアーノルドとアルチェよ。そしてそれに私はいつの間にか引き摺られていたみたい。
あの二人の行為は単純に私を侮辱しただけではなく、クルーズ伯爵家を侮辱していたのだと、そんな当たり前のことを私は漸く思い出した。
◇◇◇
その日の夜、私はなかなか寝付けなかった。
ベッドの上で目を閉じたまま寝返りをうち、打つたびに目を開ける。
暗い部屋を目に映しそして目を閉じて寝返り。
それを何度か繰り返したあと、仰向けになって目を開けた。
暗い部屋の中、天井を見上げて掛布から両手を出し胸の所で重ねてみた。
お父様は、私の気持ちを尊重すると言った。
ケビン様は、私を好ましく思っていると言ってくれた。
お母様は私の気持ちを聞きたいと言った。
ショーンはとても楽しそうだった。
私の気持ち。
二人で話したお茶会を思い出す。
ケビン様とは、今日初めて《《ちゃんと》》話したのに、私はスムーズに自分を出せた。
そうだ、今日私は自然体だった。
ケビン様は隣国の侯爵家のご令息だ。
本当なら恐縮して言葉を選ぶべき相手なのに、私って言いたい放題ではなかったかしら?
ケビン様の困った顔、笑った顔が思い浮かぶ。
そして私もケビン様を確かに好ましく思った。
あんなに困ったお願いをされたのに、私は今日楽しかった。ケビン様との会話はとても楽しかった!
私は胸に重ねていた手を外して、ベッドに半身を起こした。
暗い部屋に目が慣れてきて、サイドテーブルに目が移る。
水差しから水を一杯、乾いた喉が潤って行く時、美味しいお茶を二人で飲んだ時を思い出した。
『うん、美味いな』
ケビン様の言葉と眩しい笑顔がもう一度頭に浮かんだ。




