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ケビン様の説明とお願いは、素直に聞けば私にとってはとても良い話のように思えた。
ただなんとなくだけど、素直に聞けない私も心の中にいて、迷ってしまった。
そんな迷う私に、ケビン様は自身の釣書をテーブルの上に置いた。
「これ、僕の身上書。先程話したようにあまり時間がないから、できれば早めに返事が欲しいんだ。クルーズ伯爵には敢えて、打診はしない。してしまったら決定になってしまうだろう?だが、今の話は全て伯爵に話してもらって構わない。良い返事を待ってるから」
ケビン様はそう言って、私達二人の初めてのお茶会は終了した。
二人でそのまま食堂へと行き、昼食は和やかな雰囲気で楽しいひと時を過ごせた。
意外にも彼は雄弁で、お父様もお母様もそしてショーンまでもを楽しませて、滞在している王宮へと帰って行った。
ケビン様の馬車を見送ったあと、私はお父様に時間を取って欲しいとお願いする。
「じゃあ執務室へ行こうか」
私はユリアに預けていたケビン様の釣書を、目で確認してお父様と一緒に執務室へ行く。
お母様もショーンも付いてきていて、何だかこの行列もつい笑ってしまう。
執務室ではいつものように、私とショーンが一緒に座り、お父様とお母様が対面に座った。
「さて、レニファ。聞こうか」
「はい、まずこちらを」
ユリアに目配せするとケビン様の釣書を渡してくれたので、そのままお父様へと渡した。
「ほう」
お父様は、釣書を開いて感嘆の声を上げた。
そしてケビン様の意向を理解したようだった。
「私に話しがないということは、何かしら別の話しが絡んでいると言うことかな?」
「⋯はい、そうですね。お願い事をされました」
「その交換条件と言うことか?」
「いえ、それは切り離して考えても良いと言われています」
「フム」
ケビン様は私に切実なお願い事をされた。
だが婚約の打診とは関係ないとも言われてしまった。一層交換条件のほうが幾分か気が楽に思えるお願い事だった。
「お父様も、カイル殿下たちがこの国に留学してきた目的を聞いていらっしゃいますよね」
「あぁ、婚約者探しだろう?」
「はい、本当にそれが目的でいらしたようです。ですが我が国の高位貴族の方々は、カイル殿下の意向を分かってくださらなかったようです。ひょっとしたら分かっていても、説得するつもりだったようだとケビン様はそう仰られました」
「フム」
カイル殿下が、態々この国に婚約者を捜しに来たのは、自国の王位継承争いを沈静化する為だった。そうでなければ、自国で探しても良かったのだ。
どの家を選んでも、カイル殿下を押し上げようとする家は、その選んだ家を取り込もうと躍起になる。そんな背景にもウンザリして、国外で探すことに決めたのに、隣国の方々は、こちらの国の高位貴族にも既に接触していたようで、はじめはお見合いも数件してみたが、どのご令嬢も必ず継承の話をする為、お見合いの打診から逃げ回るのも大変だったのだとケビン様は話してくれた。
だからもうこの国では、婚約者探しをするのをカイル殿下はとうに諦めていたのだという。
「もういっそ結婚などしない方がいいとまで仰っていたそうです」
「そんなにか?我が国の高位貴族の方々にも困ったものだな。他国の継承などに関わっては、国家間の問題にも成りかねんのに」
「はい、その事も懸念されていたようです」
元々、ケビン様達にもこの国で婚約者を見つけてくれたら嬉しいというだけの要望で、絶対に見つけてほしいと言うものではなかった。その背景にあったのは、カイル殿下の母である隣国の王妃様が他国のご出身で、若い頃は誰も知りあいのいない国に来て、とても辛かったとカイル殿下は聞いたことがあった為、もし可能ならケビン様達も婚約者をこの国で見つけてもらえたらという要望だったそうだ。
だからこの国で婚約者をカイル殿下が探すのを諦めたならば、もう留学してきた意味もない為、帰国しても良かったのだが、それを決心したのが半年前だったそうだ。
それならあと半年で卒業に至るため、当初の予定通り卒業後に帰国と言うことになった。
そんな時、エルマール様が真剣な面持ちでカイル殿下に相談を持ちかけた。
それが、アルチェをどうにかして欲しいというものだった。
自分が想いを寄せる令嬢には、婚約者がいた為、エルマール様もこの国で婚約者を見つけることは諦めていたのだという。だが、好きな人の婚約者というのは気になるもので、少し調べてみると、婚約者はアルチェと良い仲になっていて、しかもそのエルマール様の好きな人は、とんでもない噂をばら撒かれていて孤立している。そんな男との婚約を何とか破棄するように出来ないかと思ったそうだ。
その時のエルマール様は、自分が後釜になりたいとかそういう野心はなく、純粋にそのご令嬢を助けてあげたかったそうだ。
そして、思ったよりも屑だった為、簡単にその婚約者もアルチェも排除できた。
だがここで、カイル殿下はエルマール様にそのご令嬢と懇意になるように頑張れと応援しようとしたが、それはエルマール様に断られた。
エルマール様は、カイル殿下がこの国で婚約者を見つけないのであれば、エルマール様がそのご令嬢と婚約できたとしても、婚約者は後ろ盾もなくたった一人で他国に行くことになる。
家格が伯爵家のエルマール様では、娘を守れる充分な力もないと、ご令嬢の家が考えれば、婚約は難しいのではないかとカイル様に言ったらしい。
「それは、ご令嬢の家の考え方次第ですわね」
私の考えをケビン様に述べると彼も頷いた。
その時私は思い出した。カイル殿下が私の方からエルマール様にアプローチして欲しいと執拗く言っていたことを、そしてその言っていた意味も漸くわかった気がした。
どうあっても一歩踏み出せないエルマール様にきっかけをと思ったのかもしれない。
でもそれは、勘違いの上の人違いだ。
根本から間違えられた私って⋯⋯。
ケビン様の説明で、裏側がわかったものの、その時私の心の中にヒューっと木枯らしが吹いた気がした。




