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クルーズ伯爵家の居間では、お父様が言い難そうな様子で、私の顔をじっと見ては目を逸らすというのを何度か繰り返し、私の不安を煽っていた。
そもそも、お父様が勘違いしたカイル様の話を鵜呑みにして、私にエルマール様への想いに期待を膨らませるように誘導した事を私は未だに根に持っている。
お父様を決してそんなつもりはなかっただろうし、恨むのはお門違いかもしれないが、私の恋にもなり得なかった、あのどこか甘酸っぱい気持ちを霧散させた責任は取って欲しいと思ってしまう。
今はもう、エルマール様には欠片も気持ちは残っていないけれど、そのあとのカイル殿下のうざ絡みまでお父様のせいのような気がしていて⋯まぁ所謂八つ当たりだ。
そんな事があったから、お父様のこの様子は、私にとっては新たな火種のような気がして慄いてしまう。
またもや、何か問題でも起きたの?
腹黒で有能だと思っていたお父様だったけれど、最近では実はポンコツの部類ではないかと私は疑っている。
そんなお父様に発破をかけたのはお母様だった。
「トニー、いい加減にして!なんて煮え切らない態度なの!レニファにさっさと話しなさいな」
「いや、だって⋯」
二人のやり取りを見て、私と弟のショーンは顔を見合わせた。
絶対何かある!
それも困った事に決まってる!
私は盛大な溜め息とともに、煮え切らないとお母様に言われたお父様に、早く言えとばかりに咳払いをした。するとショーンが合いの手のように咳払いを繰り返す。
お父様は、妻だけではなく、子供二人にまで呆れた態度を示されて、とうとう観念して口を開いた。
「はぁーーーー!んっ、んっ」
「んっんっ!」
「お、おい!お前たちまで⋯分かった。⋯よし!腹を決めよう!レニファ、明日の休日、我が家に隣国のローザン侯爵令息様が来訪される。時間は昼食前を予定しているから、準備をしておくように」
「はぁ?」
お父様の言葉が信じられず、思わず聞き返した私に、返答もせずにお父様はさっさとその場を立ち去った。
(どうして、ケビン様が?)
先週辺りまでは、カイル殿下に絡まれていたので、側近であるケビン様とも顔を合わせていたけれど、私とケビン様の接点はそれだけだ。
私達は挨拶を交わしたことはあっただろうか?
そんな事を考えなければわからないほど、会話をした記憶が私には皆無だった。
どう考えても不安しかない私は、その日あまりよく眠れなかった。
◇◇◇
次の日は朝からユリアが煩かった。
あまり寝付けなかった私は、そんなユリアをぼんやり見ていたら、凄い形相で小言を言われる。
「お嬢様!ちゃっちゃとお顔を洗ってシャキッとしてくださいませ!ご来訪まであまり時間はないのですよ!」
「ただ来るだけでしょう?何故そんなに怖い顔で走り回ってるのよ」
「何言ってるんですか!旦那様にはお見合いと伺っております」
「はぁ?」
私は一気に眠気が吹っ飛んだ。
昨夜お父様は、そんなことなど一言も言っていない。それをユリアに告げると、鼻で笑われた。
「フッ。お嬢様その辺はお察ししなければなりません」
「何をよ」
「あまり親しくもない男性が、家を通じてではなく、旦那様に直接訪いの打診をされたんですよ?お見合い以外で来訪されるのなら、お嬢様と直接来訪を約束するのでは?」
ユリアが自信満々にそう言ったけれど、そんなものなの?いや、でもケビン様は私に直接話す事はできなかったはず、特に最近はカイル殿下を避ける為に、東屋の場所で昼休憩を過ごしていたのだから。
そうユリアに言うと、一瞬考える素振りをしたけれど、やはり急かすのは変わらなかった。
「そうですね、ひょっとしたらお見合いではないかもしれませんが、そんな事はこの際《《どうでもいいです》》!兎に角若い男性がお嬢様に話があると来られるのですから。勘違いでも何でもなくそれは事実です。でしたら着飾らなければ、ねっ!」
最後の“ねっ”に眼力まで加えて、ユリアはいそいそと私の今日の装いをチェックし始めた。
そして、ユリアの懸念は当たらずとも遠からずだった事で、私の運命は動き出す事になった。




