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「おめでとう!でいいのよね」
メイリンが戯けて言う。
彼女らしくて思わず笑ったが、私はしっかりと頷いた。
「憂いが取り除けたわね」
カティも穏やかに微笑んでくれた。
ようやくセコズ伯爵とアーノルドがサインしてくれて、晴れて私は彼との婚約を破棄するに至った。
セコズ伯爵夫人が渋っていたのは、破棄になって慰謝料を私に払う事が嫌だっただけだ。
金額については、あまり高望みはしていなかった。セコズ伯爵家側は、アルチェが従姉妹という事を突いてきたからだった。
それでも伯爵は、嫌がり止める夫人を叱責して、お父様が提示した金額を支払う書類にもサインした。
「なぁんか、体が急に軽くなったわ」
「わかるわー」
私の言葉にすかさずカティが同意する。
思わず二人で見合って笑った。
そんな私とカティを、微笑ましそうに見ていたメイリンが、急に不機嫌な顔でボソッと呟く。
「ねぇ来たわよ」
私の後方を見ているメイリンの言葉に、振り向かなくても誰が居るのか分かった。
私のもう一つの憂いが今日もやって来た。
「やぁ、クルーズ伯爵令嬢。とうとう婚約破棄成立したらしいね」
昨日提出したばかりの、婚約破棄の事を知る人は限られている。今話しかけているこの方は、王国に巨大なツテがある人物だ。
「オードン王国、第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
私達は食堂の椅子から立ち上がり、声をかけられた私が代表で挨拶をすると、それに合わせてメイリンとカティも頭を下げる。
学園の食堂で、こんな仰々しい挨拶など普通はしない。これは、彼に少しでも牽制したい私の心の現れだ。
最近、とにかく私はこの方に絡まれる。
その絡み方が私の心を抉り捲くるのだ。
エルマール様は、あれからも私に対する態度は全く変わらない。いや以前は隣の席だったから、曲がりなりにも朝の挨拶や帰りの挨拶は出来ていた。エルマール様は「ん、」の一言だったけど。だが今は席も離れているから、態々彼のところまで行って挨拶する必要はない。
元々彼からされることはなかった。私から挨拶しなければ、お互い挨拶すら交わすことのないクラスメイトなのだ。
偶々クラスの授業の時に、班を組む事になっても、彼はとことん私を避けているように感じていた。それはメイリンも感じたことだから、私の勘違いではない。
それにメイリンと話してみて気付いたのだが、エルマール様は明るく気さくな方らしい。
全く知らなかった。
メイリン曰く、あの教室でその事を知らないのは私だけだろうと言われた。
そんな私にカイル殿下は、しきりにエルマール様との仲を取り持とうとするのだ。
しかも、カイル殿下が動いている事を、エルマール様に秘密にしろと仰る。そろそろこんなやり取りも噂になるけど、大丈夫なのだろうか?
「クルーズ伯爵令嬢、君には名呼びを許すよ。そんな長い口上は堅苦しい。ところで今日もエルを誘ってくれていないのかい?」
「あの、何度も申しますが、私とカンテラ伯爵令息様は気軽に誘い会えるような関係ではありません」
「あいつ、奥手だからなぁ。なぁケビン」
カイル殿下は隣にいる、もう一人の側近のケビン・ローザン侯爵令息に話しかけている。
彼等は私の一つ上になるから、この方とも私は顔見知り程度の関係だ。
「いえ、それはそういう問題ではなくて。カンテラ伯爵令息は、私には1ミリも興味はないと思います」
私がきっぱりはっきり言っても、殿下は軽く溜息を吐いて首を左右に振るだけ。
いい加減このやり取りも終わりにしたい。
それに今現在、エルマール様はユシュリー子爵令嬢やルベラ公爵令嬢と昼食をともにしているのだ。
奥手の問題では絶対ないと私は断固言いたい。
カイル殿下勘違いの思い込みが激しすぎる。
そして今日もこの会話の最後には、なし崩しにカイル殿下が、私達の隣に座り食事を始める。
王族と食事なんて!
最近では、折角の昼休憩が苦行と化している。
数日前までは、これにアーノルドが絡んできていたから一つ憂いは減ったのだけど。
カイル殿下の憂いはどうやって払えばいいのか、私にはまだ方法が見つかっていなかった。




