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学園の食堂は、入学した頃数回だけ訪れたことがあった。貴族の子女が通う学園だから味はとても美味しい。
メインからデザートまでをワンプレートにして、皆同じメニューを自分で受け取り席に着く。
以前その途中でアルチェに、言いがかりの様な演技をされて、私はプレートをアルチェに渡さなければならない羽目になったことがあった。
それが続いてからは、食堂に来る事はなかった。
久しぶりに訪れた食堂は賑やかで、ユリアと穴場の東屋で食事をすることに慣れてしまった私には、少々煩く感じた。
そして⋯会いたくない人にも出会した。
「レニファ!」
「⋯⋯」
「怪我をしたって聞いた、大丈夫なのか?」
私の怪我は、アルチェの暴走によるものだけど、それをアーノルドに心配されるのは、些か苛ついてしまうのは、私が狭量なのだろうか?
正直言えば返答すらしたくない。
そんな私の気持ちを分かってくれたのか、アーノルドの前にメイリンが立ちはだかってくれた。
「ちょっと!セコズ伯爵令息!レニファはあなたと話したく無さそうよ!もう関係ないんだからとっとと立ち去ったらどうかしら?」
伯爵令嬢にしては、少々荒い言葉でメイリンはアーノルドに冷たく言い放つ。
「関係なくはない!レニファは私の婚約者だ」
あー言っちゃった。
アーノルドが、婚約が破棄されていない事を宣言してしまった。
「えっ!本当なのレニファ?」
「えぇ、サインしてくれないの」
メイリンが尋ねたことに正直に答えると、周囲にいた人たちがざわついた。
「まぁ!図々しい!厚顔無恥とはあなたの事ね。自分のした事忘れちゃったのかしら?まさか本当に?厚顔無恥な上に健忘症?」
アーノルドに言い放つメイリンは、とても手厳しい人だと、私はこの友人になったばかりの令嬢に心の中で拍手喝采した。なんていい人なのだろう。
アーノルドは、メイリンの言葉と周囲の視線に耐えられなかったのか、悔しそうに唇を噛み、その場から立ち去ってくれた。意外な事に、アーノルドに連れ立っていた数人の令息たちも、彼に続いていた。
「あの人、あんな事があっても友人関係は途絶えていないのね」
私は何だか、悔しい気持ちが湧く。
この約2年、アルチェの事があって、学園で孤立していた私は友人と呼べる人はいなかった。
勇気を出して話しかけても悉く距離を置かれ、その都度傷ついてとうとう諦めたのに、彼は醜聞が広がっても変わらない友人関係を築けているのが⋯ただ単に羨ましくて不公平だと思ってしまった。
そんな私の醜い心を、何も言わずわかってくれたのは、やはり同じ被害にあっていたからなのだろうか?
「レニファ、わかるわ。私もメイリンがいなかったら一人だったもの」
カティがそう言ってくれて、何となく二人で見つめ合った。
「私の家は裕福ではなかったから、彼の家から援助してもらわなければ学園にも通えなかったの」
ポツリと話し始めたカティは、アルチェの登場で私よりももっと辛い目にあっていたことを、私は全く知らないでいた。
ミスラン子爵家は、小さくない領地を賜っていたが、私達が幼い頃自然災害により領地の半分以上が、水没してしまったらしい。
それは教科書にも載っていた災害だったため、それがミスラン子爵領だと私は知らなかった。
その災害でかなりの借金を背負ったミスラン子爵家に、援助を申し入れたのが、件の伯爵家でその時にカティは婚約を結んだそうだ。
だが彼は学園に入る前もカティを、物のように扱っていて、友人を作ることも、幼馴染のメイリンと会話することも禁じたそうだ。
何故そんな事を伯爵令息はしたのか、学園に入学してからカティは教えられた。
伯爵令息は、カティをお飾りの妻にして、全てを彼女に押し付け自分は愛人と遊んで暮らすのが目的だった。そんなカティに友人がいれば、逃れるすべを見つけるかもしれない。だから孤立させることにしたのだと、笑っていっていたそうだ。
件の伯爵令息はクズ中のクズだった。
アーノルドなんて可愛いものだ。
その愛人候補として伯爵令息が目を付けたのがアルチェだったが、アルチェはその上を行く屑だった。
アルチェが愛人なんてするわけがない。
アルチェが狙ったのはあくまでも正妻。
実家が援助を受けているカティは、どうせ令息からは逃げられないのだから、カティの評判を落として、婚約破棄をさせて自分が後釜に入ったあとに、援助の代償としてカティを“お飾りの愛人”にする予定だったそうだ。
お飾りの愛人って何?
思わず聞いてしまった私に、カティではなくメイリンが答えてくれた。
「要は、あの令息とあの女が婚姻して、二人が遊んで暮らす間、カティに家の事を全部させるつもりだったらしいわ。お飾りの愛人だから、子を作る事もしないって、あの女は言ってたけど、令息はどうだったかは知らない」
「酷いっ」
「でしょう」
私はメイリンと頷き合って、カティの背中を労るように擦った。
「そういえばその令息は?」
「企みがバレたから退学よ。多分こんな計画を立てていることがバレたから、二人は退学になったんじゃないかしら?」
「なるほど」
アルチェの退学理由の真実が分かった。
そりゃあ、学生の頃からそんな事を画策する人物、恐ろしすぎて排除したくなるわ。




