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挨拶を交わしたクラスメイトの子爵令嬢とエルマール様が、会話をしながら廊下を歩いている姿を、その後ろから見つめながら私はゆっくりと歩いていた。
二人は時折笑っていて、離れているから視界には入っても会話は聞こえない。けれど二人とも楽しそうに見える。
後を付けているみたいで嫌だけど、行き先が教室という同じ場所なのだからしょうがない。
それに、まだゆっくりとしか歩けないから、立ち止まると授業開始に間に合わなかったらどうしようなんて考える。
私をたくさんの人が追い越して行く。
その中の一人が私に気付いて挨拶をしてくれた。
「クルーズ伯爵令嬢、おはようございます。体は大丈夫ですか?持ちますよ」
「おはようございます、エドラー伯爵令嬢。ご心配頂きありがとうございます。大丈夫ですよ、あっごめんなさい、ありがとう。助かります」
エドラー伯爵令嬢は、ゆっくりとしか歩けない私の鞄を手に取ってくれた。
向かい合って話した彼女にお礼を言って、前の方を向くとエルマール様と子爵令嬢がこちらを見ていた。
「アレッ?カンテラ伯爵令息様、ユシュリーおはようございます!」
「「おはようございます」」
エドラー伯爵令嬢の元気な声は、少し先を歩く二人に届き、彼等もまた挨拶を返している。
その当たり前の光景を私はぼんやりと眺めていた。
そして何故か彼等は私達が近付くのを待っている。
待たなくてもいいのに⋯。
そう思うけれど声には出せない。
エドラー伯爵令嬢は、私の鞄を持ち、しかも私の手を取って歩いてくれるとても親切なご令嬢だと思った。そんな彼女と私がとうとう彼等に追いついた。
「おはようございます」
「ん、」
「おはようございます、クルーズ伯爵令嬢。大変でしたね」
私の挨拶にクラスメイトの子爵令嬢は、心配付きで返してくれたけれど、エルマール様はいつも通りの「ん、」だった。
その時、私は理解した。
彼の中で私は、ちゃんとした挨拶すら返すに値しない人物なのだと。
“蠱毒令嬢”と影で言われて、誰からも挨拶すらしてもらえなかった私に、「ん、」だけではあるけれど、唯一返事をしてくれていたエルマール様に、私は心の中でホッとしてたのだ。
少なくとも彼は私を嫌っていないのだと思っていた。
階段でも、医務室でも親切に思えた行動は、ただ単純に彼の正義感だったのだろう。
昨夜のお父様の言葉に、私は少し、いえ多いに期待してしまっていたのだ。
でも私ではなかった。
今、当の本人から現実を叩きつけられた。
だったら私は“孤独”でよかったのかもしれない。
勝手に期待した私は、惨めで滑稽だ。
彼は何も悪くないのに。
こんな事を思われるなんて迷惑だろう。
そう思いながら私は教室に辿り着いた。
後ろの扉から入った私を、エドラー伯爵令嬢は、私の席ではない所へと導く。
「カンテラ伯爵令息様が、クルーズ伯爵令嬢が、足を痛めているからって提案してくださったのよ」
私の席は、後ろの扉から一番近い場所へと、休んでいる間に移されていた。
子爵令嬢の言葉を聞き、顔には出さないように気をつけて、私はエルマール様にお礼を言った。
「お気遣いありがとうございます。カンテラ伯爵令息様」
「ん、」
私は席まで彼から遠ざけられていた。




