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エルマール様にどんな顔をして会えばいいのだろう?
そんな私の些細な悩みは、全く心配などする必要の無い物だった。何故なら翌日から、私は学園を休む事になっていたからだ。それを知ったのは、怪我をした次の日だった。
夜寝る前に飲んだ薬湯は、私の体に合っていたのか、痛みを和らげて深い眠りに就かせてくれた。夜に少し熱が上がった事も、その為に汗をかいた私を、お母様が侍女等とともに体を拭いてくれていたことも、何にも知らずにぐっすりと寝ていた。
起きたのはいつもよりも遅い時間だった。
既にベッドのサイドテーブルには、洗顔用のぬるま湯の入った器とタオルが置かれていて、ユリアは湿布や包帯、鋏などを乗せたワゴンを、ベッドの足近くに運んでいる所だった。
「ユリア?」
いつもは、私が起きて返事をするまで部屋には入らないユリアが、部屋にいる事が珍しくて尋ねるように呼びかけた。
その時、時計が目に入り、私は慌てて起き上がろうとすると、ユリアが止める。
「だめですよ、まだ動いてはいけません!」
「そんな!遅刻してしまうわ」
「えっ!⋯⋯お嬢様、さては昨夜の旦那様のお話し聞いていらっしゃいませんでしたね」
ジト目でこちらを見るユリアに、私はタジタジになる。
お父様の話?何?聞いていなかったと言われれば、きっとそうなのだろうと思う。
お父様は、動いては行けないと仰ったのだろうか?
私が頭の中の疑問符を向けるようにユリアを見ると、彼女は溜息を吐いて教えてくれた。
溜息⋯呆れられてる。
「旦那様が、お嬢様の状態を書いた診断書と、私の拙いメモをご覧になって、お嬢様が歩けるようになるまで、学園はお休みさせると仰っていましたよ。その間に第二王子殿下の真意なども、探ってみるとも仰っていました」
「あらっ、そうだったの。ごめんなさい」
私が素直に謝ると、ユリアは足の包帯を取り、腫れた脹脛と足首を丁寧に拭いてくれた。
ユリアが、丁寧にしてくれたにもかかわらず痛みが走る。
「いっ」
「申し訳ありません」
「だ、大丈夫よ」
申し訳なさそうに拭き上げてから、新しい湿布を貼って包帯でグルグル巻にしたユリア。
「少しキツめに巻くように言われていますので、もう少し我慢してくださいね」
それから私は、ユリアから寝ている間の熱の事などを聞かされて、爆睡していたのだと分かった。
その事をユリアに言うと、昨日まではアルチェの事でちゃんと眠れていなかったのでは?と言われた。思い当たる節もあるから黙って頷いたのだけど、その時、昨夜聞いたエルマール様の婚約者探しという話を思い出し、私は自分の気持ちが落ち着く期間を与えられた事に安堵した。
私が何とか歩けるようになるまで一週間かかった。
その間にアルチェの姿は学園から消えていた。
彼女の事は、お父様からはまだ詳しく聞かされないまま、私は学園に復帰する事になった。
◇◇◇
久しぶりに学園に着いた私。
異変は馬車を下りて直ぐに感じた。
「お嬢様、大丈夫そうですか?」
「えぇ、段差を下りるのも大丈夫そうね。まだゆっくりしか進めないけど」
御者の手を借りて馬車を降りる私に、ユリアが心配そうに声を掛けて、それに返事をしたあと、学舎の方へ体が向くと、その場にいた皆の視線が私に集まっていた。
その視線が怖くて、思わずビクリとした私。
そんな私に声が掛けられた。
「クルーズ伯爵令嬢、おはようございます。お怪我はもうよろしいのですか?」
「えっ!えぇ大丈夫です、おはようございます。あの、お気遣いありがとうございます」
それを皮切りに、次々と声が掛けられて私は面食らってしまった。
こんなに沢山もの人に話しかけられることが、学園に入ってからあっただろうか?
皆が声を掛けてくれる中、戸惑いながらゆっくりと歩いて学舎の入り口まで向かう。
「ユリア、あんなにたくさんの人に話しかけられて緊張しちゃった」
「お嬢様⋯⋯」
私の言葉に、ユリアが後ろから返事を返したけれど、その言葉には憐憫が混じっているのが分かる。
その時、私の瞳が第二王子殿下御一行様達を捉えた。
途端にエルマール様の婚約者という言葉が脳内に広がる。自分が婚約者になったわけでもないのに、勝手に顔が赤くなる。
その時、私の瞳は余計なものまで映した。
「カンテラ伯爵令息様、おはようございます」
「おはようございます」
第二王子殿下と離れたエルマール様に、朝の挨拶をしたのはクラスメイトの令嬢だった。
エルマール様が「ん、」以外の言葉で挨拶をする所を私は初めて目撃した。




