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魔女の幸福  作者: Hoeplow
9/15

09

翌日、家の掃除をしてからメテルの鳥に乗って二人はレガンドの街へ戻った

どうせならハタナ城まで送るとメテルは申し出たがクァルガはそれを断り一泊すると言う

食べたい物があるかと彼女が聞けば初めて家に来た日に食べたカラカラ鳥が食べたいと答えるので二人で市場にカラカラ鳥の肉と塩を買いに行き、家に帰って並んで料理をした

向かい合って食事をして、並んで眠る

悪くない日々だったな、とメテルは翌朝隣で眠るクァルガの頭を撫でながら淡い笑みを浮かべた

彼はもう里帰りの理由が無い、きっとこんな頻繁に来ることは無くなるはずだ




「達者でね」




見送りに来た乗合馬車の停留所、別れ際にメテルがそう言うと彼は不思議そうな顔をした




「何でそんなこと言うの?」


「もう里帰りもないし、わざわざうちに来ることも無いだろ」


「レガンドには遊びに来るよ」


「あぁそうか他の女もレガンドにいるし」


「俺を愛してくれるって言っただろ」




ニッコリと笑った彼のその目にメテルは一瞬寒気がした

何か、まずいことをした気がする

その時、馬車が停留所に入ってきた

彼はそれじゃあまたね、と言ってメテルに一度口付けを落とし馬車に乗り込んだ

一人停留所に残されたメテルは溜め息をつく

彼も母親が亡くなったばかりで少し混乱しているのだろう、わざわざメテルを選ばなくても彼に相応しい女性がいるはずだ

どうせまた来ると言ったって来ないはずだと決めつけて彼女は家に帰った

それからはひたすら魔法の研究に熱中した

そのかいあってエウラの為の魔法がついに完成したのだ

居ても立っても居られなくなり彼女は一番早く飛べる鳥に跨りハタナ城に向かった

しかしその日は残念ながらエウラが体調を崩しており、次の日に謁見の約束を取り付けることとなったのだ

レガンドに帰っても良いがせっかくなら城下町ハタルムに泊まるのもありかもしれない、と彼女は安い宿を見つけ泊まることにした

レガンドとはまた違った街の雰囲気を楽しみながら、夕食を食べられる大衆食堂を探す

多くの人で賑わう食堂を見つけ彼女が入るとカウンター席に通された

カラカラ鳥の塩包みがあったので頼んでみると、レガンドの店で食べた物と違い鳥にスパイスが振られていた

また違った美味しさに、今度家でこれも再現してみようと思いながら舌鼓を打っていた時だ




「しかしクァルガの奴もやるよな」




やけに騒がしかった彼女の後ろのテーブルから気になる名前が聞こえてきてメテルの意識はそっちに引っ張られた

どうも後ろのテーブルの男たちは城の兵士たちのようだ

メテルは一瞬ギクリとしたが、声を聞く限り名前が挙がった本人は居なさそうで彼女は胸を撫で下ろした

相変わらず本人のいない場所で話が出るような人気者で可哀想にな、と彼にほんの少し同情する




「聞いたぜ、アイツついに婚約するんだろ」


「そうそう、しかもエウラ様の妹君だと」


「エウラ様によく似ていらっしゃるらしいよな」


「アイツ、エウラ様のことかなり敬仰してたもんな、それにしても一般兵から王子の近衛まで登りつめて王子妃の妹君と結婚とは俺たち一般兵の星だよなぁ」




ほうほう、エウラ様の妹君とね

メテルはカラカラ鳥の骨をしがみながら頷いた

エウラに似ているのならばそれはもう可憐な姫君だろう

きっと彼の隣に立っても遜色が無い、というよりも並べば絵画のように美しいかもしれない

その光景は見てみたいな、と思ったがただの遊び相手がそんな高貴な結婚式に呼んでもらえるわけがないので諦めるしかないなと彼女は酒を呷った

まだ一杯目にも関わらず今日は酔いが回っている

きっと連日寝ずに魔法の研究をしていたので疲れているのだろう

とっとと宿に帰って明日に備えて眠ることにしよう、と彼女は決めた

ちょうど皿の上の肉も全て食べ切ったことなので、会計を済ませて店の外に出る

夜風が酔った身体に気持ち良い

宿に帰ると入浴を済ませて泥のように眠った

翌朝、起きた時にメテルは薄い吐き気を感じた

たったの一杯しか飲まなかったが二日酔いかもしれないな、と思いながら登城の準備を済ませ宿から出る

門番に声をかけると、彼は既にアディクから話を聞いていたようでにこやかにメテルを応接間に通した

しばらくするとアディクとエウラが変わらず仲睦まじい様子で部屋に入ってきたのでメテルは立ち上がり頭を下げる




「頭を上げてメテル、昨日はせっかく来てくれたのに体調をくずしていてごめんなさい」


「お気遣い痛み入ります、お加減はいかがですか?」


「もう平気よ、よくあることなの」




座りましょう、と既にソファに着席したエウラに言われメテルも座る

彼女は目を輝かせてメテルを見ていた

そんな彼女を隣のアディクは愛しそうに見ている

メテルはそんな二人に一枚の紙を差し出した

彼女の家で一番上等な紙にしたが、それでも茶色じみた紙で申し訳ない気持ちになる

真っ白の紙を買うほどの余裕は彼女には無い

そこには古代メリメラ魔法の呪文が書かれていた

彼女がその呪文を読み上げると応接間の中の空気がキラキラと輝く




「遅くなり申し訳ございません、こちらの呪文をお持ちしました」


「嬉しいわメテル!!何て素敵なの!!」


「エウラ様の魔力量でもお身体に負担の無いよう構築しております」




キャスラ、とメテルが普遍的な解除の呪文を唱えると空気の中の輝きが消えた

それを見たエウラが紙に書かれた文字を読み上げていく




「トアル:ルクト:ドレア:フェイ:メルゾ:ウラ:シーア:ゼグダ……ビシャオ」




古代メリメラ魔法は序詩と呪文の二つで構成されており、古代ミチリガ魔法よりも発動に多くの語句を必要とする

それは術者の身体に負担をかけないようにする為だ

序詩というのはイメージを具現化するための詩であり、呪文とはその具現化したイメージを術者から放つものだ

高度な魔法になるほどイメージは難しくなる

すなわち序詩が必要になるのだが、メテルのように魔法に優れた者たちは序詩を必要としない場合がある

呪文を唱える瞬間にイメージを具現化し、放つのだ

重すぎる魔法の負荷はその身を滅ぼす為、その負荷を減らすのが序詩だった

エウラの身体が丈夫ではないのはメテルにも分かっていたので、今回の魔法はかなり序詩が長くなっている

エウラが紙に書かれた魔法を読み上げ終わると、部屋は再び輝き始めた




「嬉しい……!!私にもできたわアディク!!」


「凄いじゃないかエウラ、上手だね」


「故郷が寂しくなっても思い出せるわ、本当に嬉しい」




目を潤ませるエウラの頭をアディクは撫でる

隣国とはいえ異国の地に一人きり、それも簡単に里帰りできるような立場ではない

彼女の心細さはメテルに計り知れないほどだ

エウラは立ち上がりメテルの隣に座り彼女の手を握った




「あのねメテル、本当に感謝するわ……それでね、これは提案なのだけど……レガンドの中心地に大きな屋敷が一軒建っているのを知っている?」


「貴族の方が住まわれていたけれど没落して売りに出したあの屋敷ですか?」


「ええ、それでね、その……貴女は何も要らないと言っていたけれど、そこの屋敷を渡したいの……それから、城に勤める魔女や魔法使いを貴女に預けたくて……つまり、私たちが出資をするからレガンドに研究所を作らない?貴女の才能を埋もれさせておくのは国としての損失だとアディクと話していたの」


「それは……あまりにもアタシに都合が良すぎます、そこまでしていただくのは」


「それなら私からの命令にしてしまおう、ほらねエウラ、彼女はきっと断ると言っただろう?だから私が同席すると言ったんだ」


「もうっ!!私は女の子二人でお話ししたいって言ったのに!!」




むくれた様子のエウラにアディクは声を上げて笑う

あまりにも自分に都合の良い展開にメテルは困った顔をした

確かに一人で研究するよりも他の魔法使いや魔女がいたほうが捗るものだ

レガンドの屋敷の広さを考えると研究所として申し分ない

城から預かる魔法使いや魔女の住む場所も賄えるだろう




「メテル、あくまでも私たちが出資するのは最初だけだ、国民が頑張って生み出してくれた税金を無駄にするわけにはいかないからね……だから君は私たちや人々の役に立つ魔法を創ってそれを売ってほしい、私たちはそれに対する対価を払うし、それをまた研究費に充てられるだろう?私もエウラも君ならできると思っているんだ」


「それにここに魔法を売りに来てくれたら私もまたメテルに会えるから嬉しいわ、視察でレガンドにも会いに行けるし」




たった一度、メテルが彼らに会ったのはたった一度だけだ

それでもメテルの魔法の技術を信じてくれた

メテルの創った魔法で笑顔になってくれた

彼女は熱くなった目頭を指で押さえる

それから立ち上がり、ワンピースの裾を摘まみ最も深い礼をした




「……この御恩は決して無駄にいたしません、必ず国の役に立つ魔法を創造いたします」




これからもずっと人々を笑顔にできる魔法を創っていこう、とメテルは決心した

そんな彼女にアディクとエウラは優しく微笑んだのだった

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