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魔女の幸福  作者: Hoeplow
7/15

07

それからは度々クァルガがメテルの家に顔を出すようになった

頻度で言えば一ヵ月から二ヵ月に一回程度だ

クロフィルに帰る為にちょうど良い宿泊場所が欲しかったのだろう、ということに気づいたのは割とすぐのことだった

レガンドで都合の良い場所が欲しかっただけで、そのうえで釣り易くキープし易そうなメテルに目をつけたのだ

実際異性にモテないので”他の男と付き合うからもう会わない”なんてことになるわけもない

料理の腕もそこらの一般人よりは上手な自信がある、難しい調理も魔法で解決できるからだ

何故毎度”そういうコト”もしてくるのかは分からないが、サヤテもメテルのことを醜女だと言っておきながら金で買おうとしたこともあるので、男はそんなものなのかもしれないなという結論になった

美人と付き合うには金がかかるが、醜女ならば放置しても良いと思われている

本当に都合が良かったのだろうな、と思いながらメテルは鍋をかき混ぜていた

後ろのダイニングテーブルの側にはクァルガが座っている




「アンタ、家に帰る頻度高いね」


「メテルに会いたいからだよ」


「嘘つく必要無いから、アンタがアタシに興味無いのも知ってるし……はい、今日は本当に大したもの無いから、スープとパンだけ」




エウラが望んだ魔法の研究は最近になってやっと終わりが見えてきた

どうもこうも古代メリメラ魔法の限られた語彙で再現するのは難しい

しかしながら、かなりやりがいのある研究で、ついつい買い物を忘れていたのだ

そんなタイミングでこの男がいつもどおり突然家に来たので、仕方なくスープとパンだけ用意したのだった




「文句があるなら可愛げがあって尽くしてくれるような女の子の家に行けば」


「何でそんなこと言うのかな」


「あのね、アタシももう分かってんだよ、アンタの本性」




クァルガは悲しそうな顔をするが、どうせそれも演技だとメテルは知っている

メテルが彼とこんな関係になってから、一度街で彼を見かけたことがあるのだ

彼にお似合いな綺麗な女と二人で並んで歩いていた

それだけならばメテルもそんなものだと流せたが、その女はサヤテの屋敷で彼に催淫剤を盛った侍女だったのだ

流石に節操が無さすぎるだろう、とあの時はほとほと呆れた

彼と接しているうちに分かったことだが、彼は薄っすらと他人を見下しているようである

見下している、というよりは嫌っているのほうが正しいかもしれない

一見人好きするその表情に騙されるが、ふとした瞬間に見せる顔は酷く冷たいもので

優しい口調なだけで、会話の主導権を自分に持っていくのも上手い

メテルが断ろうとしても、結局はいつも彼の思いどおりに事が運ばれるのだ

魔法が使えないと言っていたが、その分剣に優れていることを誇りに思っている

そして容姿が優れていることも自覚しているし、プライドが高いということも分かった

そうは言ってもメテルは彼の見た目にしか興味が無いので、多少性格が終わっていたところで何かが変わるわけではない

こうしていつもどおり二人で過ごし、彼は次の日の朝にメテルの家を出て行った

さて次はいつ来るのだろうか、とメテルが思った矢先

更に次の日、彼はまたメテルの家に来た

その頬には大きな痣ができている




「アンタ、何したんだい」




珍しく酷く冷たい目をした彼にメテルは問いかける




「vwd:de:knz」




何も答えない彼の頬に彼女は触れ、魔法を唱える

すると彼の頬から痣が消えた

メテルは意地の悪そうな顔で彼に笑う




「ほら、痣も消えたしお気に入りの綺麗な女の子の家にでも行けば?もういつもの色男に戻ったから捨てられることも無いだろう?」




普段の彼はクロフィルに行った後にメテルの家に来ることは無い

きっと別の家に寄っているのだろう、とは予想していた

しかし今日はこの痣のせいで行けなかったのだろう

プライドの高い彼のことだから、人に弱みを見せるのは屈辱なのかもしれない

メテルの所に来たのも、ここならば痣を消せると分かっての行動のはずだ

彼はフッと笑うとメテルに口付けた




「俺、そこまで薄情じゃないけど」


「い、いきなり何するんだい!?」


「治してくれたから、お礼に」


「こんッの顔だけナルシスト男!!思い上がるんじゃないよッ!!」


「そう、大概これで皆許してくれるけどな」


「アンタらみたいに貞操観念ゆるゆる人種じゃないわけ、アタシは」




いやまぁ付き合っているわけでもないこの男と何度も寝てる時点で自分の貞操観念も緩いかもしれない、とメテルは一瞬迷ったがそれでも相手はこの男だけだ

何人もの相手をしている人々と同族ではないと思う

とっとと出て行けばいいものをクァルガは一向に出て行く様子が無いので、仕方なくメテルは彼の為に紅茶を用意する

甘党の彼の為に用意しておいた蜂蜜の瓶を棚から出しながら”ああなんて都合の良い女”と彼女は内心自身を嘲り笑った




「それで?ここに残るからには痣の理由を教えてもらうけど?」




紅茶と蜂蜜を載せたお盆をダイニングテーブルに運び、メテルはクァルガの向かいに座る

彼は自身のカップにメテルが信じられない量の蜂蜜を入れてから紅茶を飲み始めた

彼は何も言わず、部屋に沈黙が流れる

別に無理に話す必要は無いが、流石のメテルも理由は気になるので彼が口を開くのを待った

あれは間違いなく殴られた痕だ

王子の近衛をやっている彼が一般人の拳を避けられないわけがない




「…………母親」




大きく溜め息をついてから彼はそう呟いた

一切の感情が見えないその表情は、メテルが初めて見るものだ

クロフィルの家に一人住む母親に殴られたということだろう




「随分元気な母親だね」


「昔からだ、最近は病気も患ってたし油断してた」


「ふぅん……」




暗い瞳には怒りを浮かべている

メテルは初めて彼の素の表情を見た気がした

昔からだ、ということはつまり彼は母親から虐待を受けていたのだろう

世の中にはそういった親もいるということはメテルも知っている

幸いメテルの親はそういった親ではなかった

強すぎる魔力を持ったメテルは物心がついた頃には周りから気味悪がられていたが、それでも両親だけはずっと味方でいてくれた

素晴らしい才能だと言って魔法に関する本を買い与えたり、時には外泊になることも厭わずレガンドのような大きな街の図書館まで連れていってくれた

今の自分があるのは両親のおかげだと感謝している

成人した時にレガンドで働くことの背中を押してくれたのも両親だ

メテルの住んでいた村よりもレガンドのほうが人も多いのできっと気の合う友人もできるし、魔法の研究も捗るだろうと言って送り出してくれた

地元はレガンドからかなり離れており滅多に里帰りはできないが、それでも手紙のやり取りはよくしている

もし近くに住んでいたならばきっともっと会いに帰っていただろう




「……けど、何でそれならそんなに帰るんだい?」


「病気で苦しんでるのは良い気味だからね」




クァルガはそう言って笑った

彼にとってここまでの本音を人に見せたのは初めてだ

かなり都合の良い女だったがこれでもうこの家は寄れないな、と彼は苦笑いを浮かべる

人間とは浅はかで、興味があるのは彼の上っ面だけだ

顔が良い、性格が良い、立場がある、そんなところにしか興味が無い

だから彼も相手の上っ面しか見ないことにした

メテルは彼の本性を知っていると言っていたが、親が病魔に苦しむ様子を見て楽しむような腐った性格をしているとは思っていないはずだ

正直母親に殴られたことで怒りを燻ぶらせていた

誰かに愚痴を零したい気持ちだったが、そんなことをすればきっと彼に幻滅するだろう

ならば一番切られても良い相手の所にでも行くかと来たのがメテルの家だ

料理は上手いし、取り繕おうとして取り繕えていない素直な性格はそれなりに可愛げがあるが、如何せん見た目が好みではない

とてもじゃないが連れて歩くには相応しくない女だ

こんな女を連れて歩いていたらきっと好奇の目で見られるだろう




「そりゃそうだろうね、嫌いな相手が苦しんでる様を見るのは楽しい」




クァルガは目線を上げ、あっけらかんとそう言ったメテルの顔をジッと見てきた

何か変なことを言っただろうかと彼女は焦る

相変わらず何を考えているか分からない男だが、今はさっぱり分からなかった

ただ、そんな真剣な目で見つめないでほしい

彼女はどんどん顔に熱が集まってくるのを感じ、カップを持って慌てて流し台の方へ向かった

ポットの中に魔法でお湯を用意し、二煎目の紅茶を用意する

そして自身のカップに注いだ紅茶をその場で飲み始めた

チラリとダイニングテーブルを見ると彼はまだメテルを見つめている




「な、何だい!?何か変なこと言ったかい!?文句があるなら言ってみな!!」


「いや……引かないのか?」


「何を!?アンタって肝心な事は言葉数少なくして誤魔化すけど、それ悪い癖だよ」


「親に対してこんなこと考えるなんて、腐ってるだろ」


「えぇ……親とか関係ある?所詮は別の人間だし、嫌なことしてくる相手に遠慮は要らないだろ」


「君の親もそういうタイプなのか?」


「いや、滅茶苦茶優しいけど……だからって全部の家庭がそうとは限らないの知ってるしね」




紅茶のお代わりは、と彼女がポットを差し出すと彼はカップを持ち上げる

それからは何の会話も無く二人は向かい合って紅茶を飲んだ

飲み干した時、メテルは壁にかけていた買い物用の袋を手に取り彼に振り返った




「しょうがないからアンタの好きな物作ってやる、何が食べたいんだい」


「買い物に行くのか」


「食べたい物次第だけど、いつもどおりアンタは家で待っててくれたら良いし」


「いや、俺も行くよ、良かったら一緒に歩きながら決めさせてほしいな」


「……どういう風の吹き回し?」




知り合ってからそれなりに経つが、市場で出会った日以降はメテルは彼と外出したことが無かった

それ以降はメテルが買い物に出ると言おうと彼は一緒に来なかったからだ

どうせこんな可愛げの無い女とは一緒に歩きたくないのだろうな、とは思うがそれは仕方がないことなのでメテルも気にしていない

それなのに彼は突然買い物についてくると言った

何だか変だな、とは思ったが彼が買い物袋を取り上げてしまったのでメテルは仕方なく大人しく彼とともに市場へ向かったのだった

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