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魔女の幸福  作者: Hoeplow
5/15

05

「メテルさん、奇遇ですね」


「げぇ……」




クァルガと夕食に出かけた日から二日後の昼過ぎ

市場に買い物に来ていたメテルに声をかけたのは、もうハタナ城に帰ったはずのクァルガだった

彼は相変わらず人好きのする笑みを浮かべている




「まだ城に帰ってなかったんですか」


「エウラ様が熱を出されて、まだサヤテさんの屋敷に滞在しているんですよ」


「そんな……ご病気ですか?」


「いえ、舞踏会で疲れてしまったようで……あの方はお身体があまり強くない方なので」




エウラが一曲踊っただけで頬が上気していた姿をメテルは思い出す

病気でもなく、疲労からくる発熱ならば休むしかない

見栄で生きているサヤテのことなので、きっと手厚い対応をしているはずだ




「メテルさんは買い物みたいですね……その袋は?」




クァルガが不思議そうに見つめていたのはメテルの足元に置かれた重そうな袋だ

市場に買い物に来るにはあまりにも大きすぎる袋




「塩です」


「塩……を、そんなに買ったんですか?」


「日常で使う分と、あと……その……カラカラ鳥を焼いてみようと思って」


「この間の料理は随分気に入ってもらえたみたいですね、嬉しい限りです」


「えぇ、どうもありがとうございました、ではこれで」




これ以上この男に関わると危険な気がしてメテルは早急に立ち去ろうとする

しかし彼女が持ち上げようとした塩の入った袋をクァルガがあっさりと持ち上げてしまい、彼は歩き出した

やはりこの間家まで送ってもらったのは悪手だったと後悔してももう遅い

彼はメテルの家に向かって迷いなく歩いていた

しかし正直重たい袋を持たなくても良いのは楽だな、と思ったのも事実だ

世の中の男性とお付き合いしている女性たちが羨ましくなる

どれだけ魔法が使えても身体能力を伸ばすことはできない

仮に筋力を上げる魔法を創ったとしても身体がその負荷に耐えられないからだ

地道に鍛える他に力をつける方法は無いが、そんな時間があるなら魔法の研究をしたいのがメテルである

そんなことを考えているうちに二人はあっという間に家の前まで着いた




「俺も食べたいな、メテルさんの手料理」


「えぇ……」


「……やっぱり図々しいですよね」




予想外の要求にメテルは険しい顔になる

しかしクァルガにこのうえなく悲し気な顔を向けられ彼女は言葉に詰まった

ここまで重たい荷物を彼が運んでくれたのは事実だ

ついでに言うとこの間夕食をご馳走になった

メテルは深い溜め息をつく




「……初めて作りますし、美味しいとは限りませんよ」


「まさか、きっと美味しいはずですよ、あんな魔法を創れるならきっと料理も上手なんでしょう?」


「家、汚いし」


「研究熱心なところも素敵ですよね」


「あぁもう、分かった、入りな」




もう取り繕うのも面倒臭くなったメテルは素の口調で彼に入るよう促す

粗暴な言葉遣いであることは把握しているが、元からこうなので今更直せない

彼はそんな言葉遣いに少し驚いたような顔をしてから、すぐに嬉しそうに笑った




「ありがとうございます、それとやっと素を見せてくれて嬉しいです」


「ぐ……」


「塩はどこに置いたら良いですか?」




流石にここまでの態度を取られると、メテルも彼が自分に気があるのではないかと思ってしまう

そんな訳が無い、こんな魅力の無い自分を好きになる訳が無いと気を引き締めて彼女は家に入った

彼は料理ができないと言っていたので椅子に座って待つようメテルが言うと、それを断り隣で興味深そうに彼女が料理をしている様を見てくるではないか

何しろ魔法が使えない彼にとってメテルが高度な魔法を用いて料理する様子が興味深いらしい

途中彼が突然魔法で氷を作れないかと聞き出し、何事かと思えばサヤテに貰ったという酒瓶を鞄から取り出した

冷やすと美味しいと言って渡された、と言うので仕方なく桶に氷とともに瓶を突っ込む

それにしても一昨日見た時は嫌われていたというのにもう篭絡したのか、とメテルは呆れた

カラカラ鳥を卵白と塩を混ぜたもので包み、魔法で余熱しておいた窯に入れる

卵黄は勿体無いので砂糖とミルクと混ぜ一度火にかけてから、少しずつ凍るように古代ミチリガ魔法をかけた

古代メリメラ魔法では一瞬でしか凍らせることしかできないからだ

このデザートを作るなら少しずつ凍らせることが重要だ、それから途中に何度か混ぜることも

そうこうしているとカラカラ鳥が焼き上がり、メテルは塩を叩き割る

美味しそうな匂いが部屋に広がった

サラダとパンとともにダイニングテーブルに広げ、二人は向かい合って座った

サヤテから貰ったという酒もよく冷えており、グラスに注ぐと良い匂いがする

二人は乾杯をして、グラスを呷った

果物を手順に沿って複数回発酵させたうえ最後は熟成までさせる手間のかかった酒は、その手間の分だけ美味である

口の中で炭酸が弾けるのをメテルは楽しんでいた

向かいのクァルガはカラカラ鳥にフォークを刺している




「美味しい……凄いですね、本当、何でもできるんじゃないですか」


「そうかい、それは良かったけど……いい加減お世辞ばっかり言うのやめたら?その畏まった口調も」


「お世辞じゃないですけどね……けれど、君がそう言うならもう少し砕けた話し方をしようか、メテル?」


「ぐ……馴れ馴れしいね、いきなり」


「代わりにクァルガって呼んでくれて良いよ、そうしてくれると嬉しい」




この男の強引さに毎回流されている気がするので、メテルは口を閉ざした

それから自身もカラカラ鳥にフォークを刺し口に運ぶ

一昨日食べた物と遜色ない出来だ

我ながら良い物を作れるようになった、と彼女は満面の笑みを浮かべる

他愛無い話とともに食事は進んでいった

新しく分かったのは彼がレガンドの近くにあるクロフィルの村の出身であることぐらいだ

実家には今は彼の母親が一人で暮らしているらしい

様子を見に度々里帰りしているらしく、そのついでにレガンドに寄ることも多いそうだ

ハタナ城からクロフィルに行くなら確かにレガンドで一泊するのがちょうど良い

そうでなければ野宿するしかないからだ

野生動物の多いこの辺りで野宿をするのはあまり得策とは言えない

もう会うことは無いと決めつけるのは早計だったかもしれないな、と彼女は酒を飲みながら思った

それにしても美味しい酒だ、サヤテの用意したものならばきっと高いのだろう

食事を終え、メテルは作っていたデザートを出す

よく冷えたアイスクリームを一口食べたクァルガの目が輝いた

メテルが今まで見た彼の表情のどれも嘘臭さがあったが、その時ばかりは本当に美味しいのだとよく分かる顔をしていた

聞けば彼は甘い物に目が無いのだと言う

古代ミチリガ魔法を使ったアイスクリームを作れるのは流石にメテルぐらいなので、好きなだけ食べろと言うと彼は更に喜んだ顔をする

代わりにメテルは残っていた酒を全て貰うことにした

彼女は甘いものよりも酒が好きなので、良い取引だ

今度サヤテに会った時にどこで買えるのか、それから値段はどれぐらいなのか聞いてみよう、と彼女は自分のグラスに酒を注いだ

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