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魔女の幸福  作者: Hoeplow
4/15

04

結局舞踏会は最後まで問題無く行われ、お開きの時間となる

クァルガと別れた後はずっとサヤテに付きっきりだった

最後に行った主賓の挨拶の際もずっとサヤテは彼女を側に置き、その身を守っていた

レガンドでは顔も名も知れたメテルが側に居るだけで、無茶な奇襲をしかけようとする人間への抑止力となるのだ

サヤテと来賓たちを見送った後、客室で元の服に着替え終わり広間に戻ったメテルの腰にサヤテは再び手を回した




「メテル、今夜はもう帰るのかい」


「えぇ、本日はご依頼いただきありがとうございました」


「自警団に聞いたけどお金に困っているみたいだね、もしもう少しこの屋敷に残ってくれるなら君個人に対して報酬を払うんだけどな」




サヤテのじっとりとした言い方に、メテルは寒気がした

メテル個人に対しての報酬、というと自警団を通さずにメテルに依頼をしたいということだ

自警団を通せば報酬の2割が手数料として差し引かれ、残りの8割がメテルのもとに残る

しかしながらその分依頼の選別をしてくれるのが自警団だ

人道に反する依頼や怪しい人物からの依頼は弾いてくれる

わざわざこんな言い方をした時点でこの男が何を考えているのか明らかで、メテルは反吐が出そうだった

どれだけ金を積まれても、その依頼は絶対に受けるつもりはない

問題はどうやって断るかだ

彼のプライドを傷つけないように、されどしっかりと断らなければならない




「すみません、メテルさんは今日俺と約束があって」




後ろから聞こえてきた声はクァルガのものだった

メテルが驚いて振り返ると彼は優しく微笑んでいる

隣のサヤテは酷く不機嫌そうだ

彼のお気に入りの侍女がしたことを思えば、彼がクァルガのことが気に食わないのもメテルには分かる




「エウラ様がメテルさんのことを大変気に入られて、魔法について聞いてくるように頼まれたんです……そうそう、引き合わせてくださった貴方にも感謝してましたよ」


「そ、そうか……ならばメテルも行ってくると良い、また今度ゆっくり話そう」




エウラが感謝していた、という言葉だけでサヤテが一気に上機嫌になった

この時ばかりはこの男の見栄っ張りな性格にメテルも感謝する

クァルガはサヤテに礼を言ってからメテルに手を差し伸べた




「それでは、行きましょうか」


「…………はい」




考える、とは言ったものの彼と夕食に出かけるつもりはなかったというのに

返事をせずにしれっと帰ってしまおうと思っていた計画が崩れていく

自警団で報酬を受け取ってから買い物を済ませたらとっとと家に帰って魔法の研究に打ち込もうと思っていたのだ

しかしそれをサヤテの前で口にするとより面倒臭いことになるだろう

メテルはクァルガの手を取り、サヤテに一礼してから屋敷の外に出た




「……あの、助けていただいたことは感謝しているのですが、自警団に報酬を貰いに行かなければならないので今日は難しいかと」


「報酬の受け取りはそんなに時間はかからないでしょう?」


「家に一切の食材が無いので、買い物にも行こうかと思っていて」


「重たい物持ちますよ、まだまだ時間はありますし、それから夕食に行きましょう」


「いや、見ず知らずの方に家を教えたくないので」


「レガンドの自警団の事務所は確かこっちにありましたよね?行きましょうか」




怖い

何故彼がそこまで自分に固執してくるのかメテルには分からない

これは本当にエウラから魔法の話を聞いてこいの命令をされているのかもしれないな、と仕方なくメテルは彼について歩いていく

自警団の事務所に着くと彼は何故かメテルと一緒に中まで入ってきた




「クァルガ!!」


「久しぶり、団長」




自警団長は彼の姿を見つけると驚き、嬉しそうな顔を見せる

なるほど、昔はこの自警団に所属していたのか

だから事務所の場所も知っていたのだな、とメテルは納得した

レガンドはハタナ王国の中でも一番大きい街なので、自警団に所属する人間の数も多い

だからメテルが知らない団員は数多く存在するので、彼を知らなかったことも不思議ではない




「どうだ最近、噂によると王子の近衛になったんだろ、出世頭だよなぁ!!俺も鼻が高いぜ!!」


「団長に鍛えられたからですよ、難しい依頼もどんどん回してくれたし、城で働く為の人脈だって……今の俺は団長のおかげです」


「そんなこと言って、お前は昔から要領が良い奴だよな」




これで美味いもの食べろ、と団長は財布から金を取り出しクァルガに渡している

あの誰にでも厳しい団長が、ここまでの砕けた笑顔を見せることは滅多に無い

断るクァルガに彼は無理矢理金を握らせていた

困ったように、されどはにかみながらお礼を言うクァルガにメテルはやはり胡散臭さを感じる

あまりにも人が良すぎる、絶対に裏があるはずだ

少し引き気味にその光景を見ていたメテルに団長は気づき、笑顔のまま話しかけてくる




「メテル、今日はサヤテさんの依頼を受けてくれてありがとうな、報酬持ってくるから少し待ってろ」


「ええ、お願いします」



団長が事務所の裏に消えていくと、クァルガは困ったような笑顔でメテルに振り返った




「お金いただきました、美味しい物食べろって」


「団長に気に入られてるみたいですね」


「何か食べたい物はありますか?無ければ俺の馴染みのお店にしようかと思うんですけど……」




夕食に行くとは言っていないのに、何故そこまで話を進められているのかメテルには分からない

目の前の男が得体の知れない化け物に見えてきた

返事に困っていると団長が報酬の入った袋を持って裏から出てくる

メテルが礼を言いながら受け取ると、彼は不思議そうにクァルガと彼女を交互に見た




「ところで何で二人でいるんだ?」


「俺が今日メテルさんを食事に誘ったんです、サヤテさんの屋敷でお世話になって」


「何だそれなら早く言わねぇか!!ほら、もう一枚持ってけ!!」


「いや、俺がメテルさんにお礼をする……」


「メテルにもいつも頑張ってもらってるからな、二人で良いモン食ってこい」




笑顔で更に金を渡してくる団長にクァルガは断るも無理矢理握らされている

気がつけばどんどん外堀が埋められて、これはもう食事に行くしかなくなってきたな、とメテルはしかめ面をした

しかし団長は完全に好意で言ってくれているのだ、しかめ面は良くない

彼女は慌てて笑顔を作り顔に貼りつけた

団長に礼を言ってクァルガと二人で事務所を後にする

彼はそのままメテルの手を引き自身の行きつけだという店に連れていった

テーブルを挟んで二人は座り、酒の入ったグラスをぶつけ合う

小気味のいい音が鳴り、メテルはそのままグラスを呷った

運ばれてくる料理もどれも美味しく、良い店を知れたことに彼女は感謝する




「……これ、美味しい」


「カラカラ鳥ですか、俺も好きなんですよ」


「噂は聞いたことあったんですけど、本当に塩で包んで焼くと柔らかくなるんですね……これ、家で作れるか……?」




カラカラ鳥とは体内に水分が少なく、その肉は骨のように硬い

しかし塩で包んで焼くと柔らかくなり、非常に美味なのだ

その噂をメテルも聞いたことはあったが、今までカラカラ鳥を提供している大衆食堂に出会えたことがなく今日初めて食べた

彼女はあまりの美味しさに頬が緩むのを止められていない




「家で作るって……カラカラ鳥の塩包みをですか?」


「ええ、美味しいですし」


「メテルさんは良い奥さんになりそうですね」


「はあぁっ!!!?」




好みの顔の男にこんな笑顔でこんな台詞を言われたらたまったものではない

メテルは素っ頓狂な声を上げ、つい立ち上がってしまった




「な、ななな、何をっ!!!!」


「俺は全然料理ができないので、憧れます」


「コイツぅ……何なんだ本当に……」




ニッコリと笑ったままメテルを見つめてくるクァルガ

彼女は座り直して照れ隠しからグラスを呷る




「メテルさんは俺に無いものをたくさん持っていて、憧れます」


「…………アナタこそ、恵まれてると思うけど」


「俺、魔法使えないんですよ」




その言葉にメテルの動きが止まった

魔法が使えない、というのはこの国でかなり稀なことだ

簡単な魔法ならば誰もが使えるこの国では、魔法は生活の基盤となっている

水も、火も、魔法で起こすのが一般的だ

メテルのように魔法を自由に創り扱える人間も稀だが、一切使えない人間など実在するかどうかの話だった

しかしなるほど、ならばこの男が王子の近衛になれるわけだと彼女は納得する




「なら、アナタは武器の扱いに長けているのでしょう?」


「流石、よくご存知ですね」


「アタシは包丁すら使えないから」




魔女は武器を持つことができない

理由は分からない、世界の理だった

武器の才能に優れた者は魔法の才能が、魔法の才能が優れた者は武器の才能が欠けている

それ故にメテルは包丁も使えない

代わりに風魔法で食材を切っている




「だから、魔法の話を聞いてみたくて……少し強引でしたよね?すみません」


「べ、別に……少しは驚きましたけど……それで、何が聞きたいんです?」




魔法はメテルにとって生きる理由だ

それが使えないクァルガに彼女はほんの少しだけ同情してしまった

そんな彼女にクァルガは満面の笑みを見せる

彼からの質問に答えているうちにあっという間に時間は流れていき、お開きの時間になった

緊張からか飲み過ぎたようで、少し酔っ払い上機嫌な彼女の腕をクァルガは掴む




「送っていきます」


「それはアンタに迷惑だし……」


「酔っぱらった女性を一人で帰すような真似しませんよ、家はどっちですか?」


「こっち……」




ふわふわとする気持ちのままメテルは家路をたどる

家の前まで辿り着き、彼女は鞄から鍵を取り出し扉を開けた




「今日はありがとうございました、楽しかったです」


「びゃ」




クァルガは家に入ろうとしたメテルの手を取り、その甲に軽いキスをする

驚きのあまり彼女の口から間抜けな声が漏れた

慌てて手を引っ込め家に入り、扉の陰から顔だけ出す




「お、おやすみなさい!!今日はご馳走様!!お達者で!!」




もう二度と会うことはないので、と心の中で付け加えてから彼女は乱暴に扉を閉めた

いつもの家、一人きりの部屋

彼女はホッと息をつき、その場に力無くへたり込んだ

顔だけでなく性格も良い人だった、胡散臭いと思っていたがその実最後まで紳士的な対応をしてくれた

ずっと気を張っていたが、もう少し信頼しても良かったかもしれない




「まぁでも、もう二度と会わないだろうし」




エウラの為の魔法が完成すれば王城で会うことになるかもしれないが、こうやって食事を共にするような日は二度と来ないだろう

メテルの人生で交わるタイプではない人だ、今日が例外なだけ

目覚ましい活躍、要領の良い人付き合い、彼はメテルが自分に無いものを持っているので憧れると言ったが彼のほうこそメテルに無いものを持っている

皆からも好かれる日なたに咲く花のようなものだ、お伽噺で悪役になる魔女とは違うのだ




「良い人だったな……」




良い思い出になった

今度友人に会った時、話を聞いてもらおう

顔が良くて性格も良い男もいたのだと言えば、彼女は驚くだろうか

メテルは頬を叩き、気合いを入れて立ち上がる

結局行き損ねたので明日こそ買い物に行こう、と彼女は入浴の為の準備を始めたのだった

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