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魔女の幸福  作者: Hoeplow
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02

「やぁやぁやぁメテル!!君が来てくれると心強いよ!!」




魔法の研究に没頭しすぎたメテルは気がつけば貯金が底を突きかけていた

自警団の依頼を受けに行っても友人がいないので、何だか受けるのが億劫になっていたのだ

更には最近はずっと寂しさが燻ぶっていて、それを直視しない為にもひたすらに魔法の研究をしていたのだ

友人に会いに行けば良いのだろうが、彼女は今子どもを身籠っており気軽には会いに行き辛かった

そんなこんなで気がつけば明日食べる物を買うお金すら無くなっており、慌てて自警団に駆け込み依頼を手に入れた

メテルほどの魔女ならばどんな依頼でもこなせる為、自警団としてもありがたい存在だ

今回はメテルの暮らす街レガンドでも有数の富豪であるサヤテ・ヴァヤンの護衛だった

メテルはこれまでも何度もサヤテの依頼を受けたことがあるので、彼は館に来た彼女のことを見つけると喜びの抱擁を交わそうとする




「ご機嫌よう、サヤテ様」


「相変わらずツレないね、メテル」




彼の腕をかわしながらメテルは着ていたワンピースの裾を両手で持ち上げ挨拶をする

そんなメテルの態度に彼は笑ってから彼女の腰に手を回した




「お戯れを」


「良いじゃないか」




サヤテの太く毛深い腕に力が籠められる

吐きそうになる気持ちをメテルは何とか抑えた

彼は決してメテルに気があるわけではないのだ

他の人間を、特に女性を自分よりも下の生き物だと考えている

だから何をしても良いのだと思っているのだ

何なら彼が彼女のことを醜女だと言い触らしていることもメテルは知っている




「……今日のご依頼は護衛だと聞いていますが」


「そうなんだよ、今日はうちで舞踏会を開くんだけどね……最近、私のことを殺そうと企む連中が多いんだ」




それはそうでしょうね、とメテルは内心吐き捨てた

サヤテは富豪だが、それは彼があくどい商売で稼いだからだ

つまり昔からの貴族ではなく、一代で成り上がった男である

そしてその分、彼には敵が多い

性格が良ければここまで多くなかっただろうが、正直性格も最悪だ




「今日はアディク王子も来るというのに、全く……」




ぶつくさと文句を言っている口からは唾が飛んでいる

メテルのことを醜女と言ってまわっているが、この男も大概だと彼女は思っていた

この男が仮にとんでもなく顔が良ければ、これまた彼の敵を減らしただろう

そう、あの男のように顔が良ければきっと、皆が見惚れるし、汚してはいけないような気がして殺そうだなんて思わない

そこまで考えてからメテルは自分が廊下の向こうから歩いてくる男に見惚れていることに気がついた

艶のある金髪は片側だけ前髪が上げられている流行りの髪型で、キリっとした眉はよく整えられている

吊り上がった眉と比べて優しく垂れた薄い水色の目はしつこくない二重、柔らかな笑みを浮かべた口元は程よい分厚さでまるで芸術品のような顔の男だとメテルは感心した

メテルは顔の良い男が好きだ、これまで好きになった人物も皆顔で好きになった

ただし顔の良い男はメテルを好きになることは無いし、そもそもメテルが認めるほど顔が良い男は滅多にお目にかかれないので、これまで人と付き合ったことが無い

まるでお伽噺に出てくる王子のような見た目の彼は王家の近衛兵の制服を着ていた

先ほどサヤテが言っていた王子アディクの護衛で来たのだろう




「サヤテさん、そちらの女性は」




困ったことに声も良い、ついでに言うと香水なのか良い匂いもする

ここまで完璧に好みな男に出会ったのは初めてでメテルは呆気にとられた

それからすぐ我に返り、自身の心の内を悟られないようにする為彼女は無表情を意識する

友人からもすぐに表情に出るから気をつけろと言われているのだ




「彼女はメテル・アヴィヤス、私の護衛として雇った魔女だよ」


「あぁ、貴女が噂の!!レガンドにお住まいだとは聞いていたので、いつかお会いできればとは思っていました……なるほど、お可愛らしい方ですね」




胡散臭い男だ、とメテルは即座に彼の認識を改めた

顔は良い、が、如何せん胡散臭い

悲しきかな自身に対して”可愛い”と形容してくる男がいるわけがない、とメテルは思っている




「クァルガ・ソルデストです、お目にかかれて光栄です、メテルさん」


「本日はよろしくお願い致します」




クァルガは笑顔で手を差し出してきたが、メテルはそれを無視してお辞儀だけした

しかし彼はそれを気にするでもなく笑顔のまま手を引く

ますます胡散臭い男だとメテルは感じた

クァルガはサヤテに警備の打ち合わせを申し出て、サヤテは了承し応接室へ向かっていく

その間もメテルは彼に腰を抱かれたままだ

正直そろそろ解放してほしいところだが、この男の機嫌を損ねると面倒臭いことは分かっているので耐え続けるしかない

悔しきかなサヤテの依頼は報酬が高いので、この男の仕事が出禁となるとメテルの生活も危機に瀕するのだ

だから、こうして、腰を抱くフリをしながらその更に下の部分に触れられても黙るしかない

屈辱的だが、生きる方法はこれだけしかないのだから

メテルは唇を噛みしめそうになり、慌てて再び無表情を心掛ける

打ち合わせの内容は主にアディクの為に用意した客室の警備についてであり、メテルには関係の無い話だった

そんな時、侍女が一人ワゴンを押して客室に入ってきた

ワゴンの上にはポットとカップが載っている

彼女がポットからカップへ紅茶を注ぎサヤテの前に置くと、彼はそのカップをメテルに渡した




「als:gen:gif:bnt:scn:dan」




メテルはカップに向けて古代ミチリガ魔法を唱える

するとカップの中の紅茶が一度だけ柔らかく光を放った

それを確認したメテルはカップをサヤテに返す

そんな彼女の様子をクァルガは驚いた顔で見ていた




「失礼ですが、今のは?」


「毒が入ってないかの確認だ、メテルが来てくれた時はいつも頼んでいてね、君の分もさせよう……ほら、メテル」




サヤテは得意気にそう言って、クァルガの前に置かれたカップを持ち上げ自身のすぐ隣にいるメテルに渡す

この男の見栄の為に何故関係も無い人間の分までメテルが確認しなければならないのか

国民の大半が使える古代メリメラ魔法と違って、古代ミチリガ魔法は魔女にしか使えない高度な魔法だ

そのうえ消費する魔力も多い

この程度の魔法、メテルの膨大な魔力量にはどうということはないが、それでも癪に障る

そもそもこの魔法を創ったのもメテルだ、何故この男は自分の功績のように得意気に語るのか

これもお金の為だ、と諦めてメテルはカップを受け取り同じ魔法をかける

すると先ほどと違いカップの中は光らなかった、毒だ

光らないカップにサヤテは憤った顔をする




「vwd:aln:het:gif」




メテルはカップを机に置き、それに向けて再度古代ミチリガ魔法を唱える

カップの中、紅茶がぐるぐると回り始め渦の中心からピンク色の液体が丸く浮き上がった

彼女は自身の鞄から小さな小瓶を取り出し、浮き上がったその液体に近づける

小瓶の蓋を開けると、液体は吸い込まれるように小瓶に入っていった

蓋を閉め傾けるとトプンと音が鳴る

ほんの少しだけとろみのあるピンク色の液体、ついでに先ほど小瓶に入る直前甘い香りがした




「なるほど……サヤテ様、先ほどの侍女は解雇したほうが良いかと」


「し、しかし彼女が毒を盛ったとは限らないのではないだろうか、罰するなら他の者を」




メテルは一瞬だけ冷めた目をして、再び無表情を心掛ける

すぐ表情に出るこの癖をどうにかしたい

サヤテの焦り方を見る限り、あの侍女は彼のお気に入りなのだろう

チラリとしか見ていないが、綺麗な顔をした女性だったなと思い出す

ついでにメリハリのある身体をしていたような気がするな、と思ってからメテルは溜め息をつきそうになりグッと堪えた




「これは、催淫剤ですよ」




メテルがそう言うとサヤテの顔色が一瞬にして変わる

悔し気に顔を歪ませ、彼は立ち上がり乱暴に扉を開け応接室から出て行った

クァルガと二人残され、メテルは気まずくて仕方がない

彼女は目も合わさずにカップをクァルガの前に滑らせる




「毒は取り除きました、飲んでも大丈夫です」




どうせ飲みたくはないだろうが、と思いながらメテルは自分の前のカップも念の為に毒の確認をする

何の問題も無く光り、彼女はカップに口をつけた

すると向かいに座るクァルガも紅茶を飲んでおり、メテルは驚き紅茶が気管に入る

慌ててカップを机に置き直し咳き込み続ける彼女の隣にクァルガは移動するとその背にそっと触れた

メテルが見上げると彼は心配そうな顔でこちらを見つめている




「大丈夫ですか……あぁ、喋らないで、落ち着いて、息を吐いて、そう……落ち着きましたか?」


「…………すみません、ありがとうございます」




背中をさするクァルガの手はサヤテの時と違い嫌悪感が無い

彼のことが好みだからだろう、我ながら単純なものだとメテルは自分自身に呆れた

もしこれがサヤテならむせる勢いそのまま吐いていたかもしれない

体臭も臭いし、息も臭いし、追い打ちをかけられるだけだ




「もう大丈夫なので」




まだ背中に手を置いているクァルガからメテルは距離を取る

いくら顔が良くて自身の好みに対して完璧な王子様そのものだとしても、胡散臭い男に絆されてはいけない

大体、何故毒を取り除いた後の紅茶をそのまま飲んだのか

その時点で胡散臭さが増した

メテルは自分の魔法に絶対の自信があるので自身の魔法で毒を取り除いたならば飲むが、これまで同じ方法で渡しても飲んだ人間は見たことがなかったのだ

それはつまり彼らがメテルの魔法を信じていないということの表れで、彼女の誇りはその度に少しずつ傷つけられていた




「……よく飲みましたね、毒が取り除かれたと言っても不安になるでしょうに」


「まさか、メテルさんほどの方が言うんですから大丈夫だと安心できたんですよ、確認してくださってありがとうございました」


「依頼主に言われて従っただけなので、お礼ならサヤテ様へお伝えください」




人好きする笑顔でお礼を言われ、メテルは目を逸らす

どうせ今日限りの付き合いだ、無理に仲良くする必要は無い

ここまで好みの男に出会うことは無いのでお近づきになりたい気持ちが全く無いと言えば嘘になるが、どうせこういう男には既にお姫様のような女性がいるはずである

先ほどの綺麗な侍女ですら無理矢理手に入れようとするほどの男だ、好きになったところで良い結末は望めない

目を逸らしたまま押し黙った彼女をクァルガは変わらず人の良さそうな笑みのまま見つめていた

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