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ドゴッ、という大きな音が部屋に響く
サヤテの屋敷、メテルを連れてきたクァルガがイフティラに魔法の氷で殴られたからだ
あまりの強さに彼の身体は後ろに吹っ飛ぶ
イフティラの後ろに立っているサヤテも彼のことを恐ろしい顔で見下ろしていた
メテルはその様子を困った顔で見ている
「メテル!!貴女本当にこの男で良いの!?だからこの歳で特定の相手がいない顔の良い男はクズしかいないって私貴女に忠告したわよね!?」
「メテル、君が顔の良い男を好きなのは私も知っているがやっぱり私にしないか?金ならいくらでも出すから……」
「ごめんなさい……」
倒れているクァルガそっちのけでイフティラとサヤテはメテルに詰め寄った
彼女は肩を縮こませ謝る
「貴女まさか脅されてるんじゃないでしょうね、大体おかしいのよ貴女が誘拐されるって、その前に魔法で撃退できるでしょう?」
「その……魔法抑制の指輪を、つけられて……」
「とんでもないクズじゃないの!!貴女の腕力じゃ抵抗できないに決まってるわよ!!」
「腕力で抵抗というか……睡眠薬をぉ……」
「睡眠薬ですって!?あぁメテル、貴女洗脳されてるのよ、悪いことは言わないからあんな顔だけ犯罪男はやめなさい、どうしてもって言うなら私がサヤテの顔を貴女好みに変えてあげるから、ね?」
「イフティラ……君、私のこと呼び捨てに……ゴホン、そうだメテル、私だって別に顔が良くなるなら喜んで変えるぞ、それにお金はある、君に不自由はさせない……確かに彼は王子の近衛だしそれなりの立場だろうが私だって」
「クァルガは今無職なんです……」
メテルの発言にイフティラとサヤテはついに白目をむいた
昔からの付き合いのせいで、メテルはこの二人に嘘をつくのが苦手だった
こうやって詰められればついつい余計な事を言ってしまう
ようやく起き上がったクァルガが彼女に近づこうとしたが、再びイフティラの魔法で殴られ阻まれた
「やめましょうよメテル、絶対にあの男だけは駄目」
「でもぉ……」
「メテル、私に至らない点があれば言ってくれ、その都度直す、だから私と」
「もう、真名あげちゃって……」
正確に言えば強奪に近い形だが、最終的にはメテル自身の意志で渡したことにしても良いだろう
クァルガが実家まで押し寄せ勝手に真名をとった、という話だけは絶対に今してはいけないと彼女にも分かっていた
イフティラとサヤテは息を呑む
「クァルガの真名も貰っちゃった……」
「と、取り返しがつかないじゃないの、このお馬鹿ぁぁっ!!!!!!!」
イフティラの今日一番の叫びに彼女の腕の中で寝ていた赤子が目を覚ました
彼は大声で泣き始め、イフティラは慌てて彼に謝りながらあやす
そう、もう取り返しはつかないのだ
メテルは殴られた腹を押さえながら何とか立ち上がろうとするクァルガをチラリと見た
彼とこの屋敷で出会ってしまった時点でもう取り返しはつかなかったのだろう
それほどに初めて見た彼はメテルにとって理想の男そのものだったのだから
知れば知る程彼はクズで、けれど本当はただ母親に愛されたかった可哀想な子どもで
メテルが彼の外見に惹かれた一方で、彼は彼を肯定するメテルのたった一言でメテルを愛してくれた
人を好きになる理由とは、意外と単純なものだ




