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魔女の幸福  作者: Hoeplow
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メテルの目覚めは最悪だった

見慣れない天井は、一度だけ見たことがあるものだと思い出す

何をどう考えてもここはクロフィルにあるクァルガの家だ

無理矢理眠らされた記憶はあるので、その後ここに連れてこられたのだろう

左手の薬指には相変わらず魔法を封じる為の指輪が嵌められている

間違いない、これは誘拐事件だ

彼女は大きな溜め息をつきながら、ゆっくりと上体を起こした

寝ていたのは広いベッドで、二人は優に眠れるだろう

まだぼんやりとする頭を抱えて部屋を見回した彼女は息を呑む




「何、で……これ……」




もう悪阻は終わったはずだが、久しぶりに吐き気がした

ベッドの側の小さなテーブルに置かれた鳥の形のランプ、これは可愛くて気に入っている

見慣れた本棚の中には両親に買ってもらった彼女にとって宝物の本やなけなしのお金で買った古い魔導書がいつもどおりの順番で並んでいた

彼女は震える足で壁にぴったりとくっつけられて置かれている机に近づく

机の上に置かれた紙は彼女が自身の家を出た日そのままに置かれていた

かつて家の中で魔法を試して焦がした机の角もそのままだ

一人には広すぎるベッド以外は全て、配置も何もかもレガンドにある彼女の寝室そっくりそのままだった




「どうして」


「おはよう、よく寝てたみたいだね」




開けられたままだった部屋の扉

その先の廊下からクァルガは彼女をジッと見つめ笑っていた

人間、本当に怖い時は一切の声が出ないものだ

どこで間違えたのか、メテルには分からなかった

直近で言えばきっと彼が研究所に来た時点でとっとと魔法を使って逃げるべきだったというのは分かる

あの時の判断の遅さが今の状況を生み出しているのは確実だからだ

クァルガはメテルをベッドに座らせてからその隣に腰掛け彼女の頬に触れる

愛しそうに見つめてくるその目はメテルの知らない顔だった




「この部屋は気に入ってもらえた?」


「……部屋の趣味は良い、でも場所の趣味が悪い」


「きっと君もここが気に入るよ、ここはのどかで良い村だ」


「これ、誘拐だけど」



メテルがそう言うと彼は不思議そうな顔をした

本当に理解ができていないようだ

彼は狂っている、と彼女はその時やっと理解した

しかし何故彼がこんなにも狂ってしまったのかは分からない

震えている彼女の身体をクァルガは優しく抱き締めた




「震えてる、寒い?」


「平気だから、触らないで」


「メテルの控えめなところは可愛いけど、俺には甘えてほしいな」




駄目だ、この男とは話が通じない

メテルはまるで異国の人と話している気分だった

魔法の研究の為に外国語も学んだ彼女からすれば、何なら異国の人のほうがまだ話が通じる

同じ言葉を話しているはずなのに、どうして彼は話を聞いてくれないのか

メテルを抱き締めたまま彼は彼女の背中をなぞる

撫でられた場所がゾクリと疼いた




「遠慮しないで良いよ、寒いなら俺が温めてあげるから」




クァルガはそう言って彼女の頬に口付けを落とす

それから”やめてくれ”と言おうとした彼女の口を塞いだ




「おかえり、メテル」




彼は相変わらず綺麗な顔で笑っている

メテルにはもう、逃げ場は無かった

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