EP 8
イケオジ竜王・デュークの参戦。〜ラーメンの具にされそうだったので、適当に褒めたらパトロンになりました〜
「すぅ……はぁ……極楽、極楽……」
二人のエリート(リバロンさんとルーベンスさん)による『第一回・お世話係マウント合戦』から数日。
彼らは暗黙の了解でシフトを組み、私の花壇には常に最高級のお水と、完璧な温度管理が提供されるようになっていた。
さらにはキャルルちゃんとスアイさんによる鉄壁の警備体制。
私のニート生活は、いよいよ盤石なものになりつつあった。
今日も日差しが心地いい。
お腹もいっぱいだし、一眠りしようかな……と目を閉じた、その時だった。
『――ほう。これが最近、ポポロ村の連中を狂わせているという未知の魔植物か』
ドスッ、と。
大地が微かに揺れるほどの重厚な足音が響いた。
「……ん?」
見上げると、そこには見上げるほど長身の『イケオジ』が立っていた。
仕立ての良いスリーピースのスーツに、オールバックに撫で付けた髪。口元には太い葉巻をくわえ、紫色の煙をくゆらせている。
マフィアのボスか、はたまた大企業の会長か。とにかく『圧倒的な強者のオーラ』が全身からダダ漏れになっている。
彼は調停者の一角である竜王デューク。
普段はラーメン屋台を引いているという謎の趣味を持つ、この世界の実質的なトップに君臨する存在だ(※私はただのメロンなのでそんなことは知らない)。
「ほう……なるほど、妙に甘い香りがする。だが、これだけ丸々と太っていれば……」
イケオジは葉巻を指に挟み、値踏みするように私を見下ろした。
「数日煮込めば、極上の豚骨スープの『隠し味』になるかもしれんな」
(えっ)
煮込む? 豚骨スープの隠し味?
待って待って、私、食べられるの!?
「……リバロン! ルーベンス! 誰かー!!」と叫ぼうとしたが、今日は二人とも本業(宰相と魔将軍)の都合で、午後までシフトに入っていない。キャルルちゃんたちも買い出しだ。
つまり、今、このイケオジと私は完全に一対一。
ゴクリ、と私は生唾(?)を飲み込んだ。
普通なら絶望する場面だ。だが、私の前世の『ブラック企業サバイバル本能』が、別の解決策を弾き出した。
(この人、めっちゃ偉い役員とか社長のオーラが出てる……! そういうおじさんには、とりあえず『大物感』を褒めて気分良くさせるのが一番よ!)
「たべるの……だめっ……」
私は短い根っこをバタバタさせて、必死にイケオジの視線を惹きつけた。
そして、上目遣い(※メロンの模様です)で、とびきり甘い声を放つ!
「おじちゃん……とっても、かっこいいから……しずく、たべなくても……つよい、よ……?」
「……なに?」
デュークさんが、ピクリと眉を動かした。
「おじちゃん……いいにおい。おしごと、いつもがんばってて……おっきくて、かっこいいの……♡」
「…………」
ふわぁん……♡
私の体から、ベビーメロロンの最終兵器『チャームの香り(※オジサン特効)』が放たれた。
「しずく……おじちゃんと、いっしょに……ぽかぽか、したいな……? だめ……?」
沈黙。
竜王デュークは、葉巻を持ったまま完全にフリーズしていた。
(あ、あれ? 効いてない? やっぱり社長クラスには、ペーペーのヨイショじゃ通じなかった!?)
私が内心焦っていると。
ポトリ、と。
デュークさんの指から、火のついた葉巻が落ちた。
「……信じられん」
彼は低く、地鳴りのような声で呟いた。
「我が竜王の覇気を前にして、泣き叫ぶことも、命乞いすることもなく……ただ、『一緒に日向ぼっこがしたい』だと……?」
デュークさんは、この世界の調停者だ。
彼に近づく者は、力を恐れて平伏するか、あるいは私欲のためにすり寄ってくる者ばかり。さらに天界の女神からは、面倒な世界の管理業務ばかり押し付けられていた。
つまり彼は、『誰からも無条件で癒やされたことがない、究極の孤独なイケオジ』だったのである。
「……ふっ。ふははははっ!! 傑作だ! まさか、この私に『お仕事頑張っててえらい』などとぬかす命が、この世に存在したとはな!」
デュークさんは腹を抱えて豪快に笑い出すと、ドサリと私の花壇の横にあぐらをかいて座り込んだ。
「いいだろう。スープの隠し味にするのはやめだ。代わりに……」
彼は懐から、巨大な宝石のようなものを取り出した。
それは、周囲の気温を常に最適な状態に保つ『古代竜の魔宝石』。国が一つ買えるほどの超絶レアアイテムだ。
「これをやろう。これがあれば、お前は冬の寒さも夏の暑さも気にせず、永遠に快適な光合成ができる。……どうだ?」
「えっ!? ほんとに!? やったーっ!!」
私は短い根っこをバタバタさせて大喜びした。
エアコン(魔導具)完備! これで私のニート生活の質がさらに爆上がりする!
「おじちゃん、だーいすきっ♡ しずく、ずーっとここで、ぽかぽかしてるね!」
「……っ!」
私が無邪気に喜ぶと、デュークさんは口元を手で覆い、わずかに顔を赤らめた。
「……あぁ、そうしろ。何があっても、この私が『パトロン』としてお前を守ってやる。だから……また、たまにはこうして、俺の愚痴(ラーメンの湯切りの悩み)を聞いてくれ」
「うんっ! まかせて!」
(適当に相槌打つだけで最新エアコンがもらえるなら、いくらでも聞くわよ!)
かくして。
執事と魔族の冷戦状態だった私の花壇に。
圧倒的な財力と権力(と大人の余裕)で私を甘やかしまくる『最強のイケオジ(シュガーダディ)』が、新たなお世話係として堂々の参戦を果たしたのだった。




