EP 9
ついに【完熟メロロン】に進化! 〜ただ挨拶しただけなのに、お世話係たちが次々と倒れていきます〜
「ふふっ。我が主、今日の土のブレンドは最高傑作です。東の森の腐葉土に、微細な魔力結晶を練り込みました」
「甘いな執事。私はさらに、アバロン城の専属錬金術師に作らせた『究極の日焼け止め(UVカット)魔力ミスト』を持参したぞ」
「ふはははっ! ガキ共が細かいことで争っておるわ。俺は西の山を削って、雫専用の純金製パラソル(自動追尾機能付き)を建ててやったぞ!」
私の花壇の周りは、今日も今日とて大騒ぎだった。
冷徹執事のリバロンさん、インテリ魔族のルーベンスさん、そして最強のイケオジパトロンこと竜王デュークさん。
この超絶ハイスペックな男三人が、朝から晩まで「いかに私を快適に甘やかすか」で熾烈なマウント合戦を繰り広げているのだ。
(あぁ〜、快適すぎる。三人がかりで貢がれる栄養と愛情……これ、間違いなく私のメロンボディに還元されてるわ)
最近、自分の体に変化が起きているのを感じていた。
毎日極上のお水と魔力、そして古代竜の魔宝石による完璧な温度管理を受けたことで、私の中にエネルギーがパンパンに満ち溢れているのだ。
「すぅぅぅぅ……んんっ……!」
私は、朝の光を全身で浴びながら、大きく、大きく深呼吸(?)をした。
その瞬間。
――ぽふんっ!!
弾けるような音と共に、私の体がひとまわり大きくなった。
ただ大きくなっただけではない。
まん丸だったボディは、より艶やかに、なめらかに。触れると『ぽよんっ、ぽよんっ』と極上の弾力を返すような、豊潤な形へと変化したのだ。
そして。
私自身も驚いたのは、その『香り』と『声』の変化だった。
「……ふわぁ、よく寝たわぁ。おはよう、みんな」
「「「ッッッッ!!??」」」
挨拶をした瞬間、男たち三人がビクゥッ! と肩を震わせ、同時に後ずさった。
これまでの舌足らずな「ベビーメロロン」の声ではない。
耳元で囁かれるような、甘く、とろけるような、大人の女性(お姉さん)の極上ボイス。
それが、私のちんまりとした口から放たれたのだ。
同時に、私のボディから周囲10メートルに広がる、濃厚で甘美な香り。
それは、ベビー時代の「庇護欲をそそる匂い」とは次元が違う。脳の理性を直接ショートさせ、思考をフワフワの綿あめに変えてしまう『究極の魅了』だった。
そう。
私、蒼井雫は、転生してたった数週間で、魔植物の第二形態――**【完熟メロロン】**へと進化を遂げてしまったのである。
(おっ。なんか体も軽くなったし、声も出しやすくなった! これなら相槌打つのも楽ちんね!)
自分の恐るべき変化(フェロモン爆発)に全く気づいていない私は、前世の『優秀なOLの気配り(※基本は適当)』を発動させ、三人に優しく語りかけた。
「朝から私のお世話、ありがとうね。ふふっ、三人とも、今日もすっごく頑張ってて偉いわ♡」
ぽよんっ、と体を揺らしながら、極上の甘い声で労う。
「無理しちゃだめよ? 疲れたら、私のそばで全部忘れて……甘えていいのよ……♡」
――ドサッ!!
――バタッ!!
――ガクンッ!!
「「「…………っっっっ(声にならない叫び)」」」
見ると、さっきまでいがみ合っていた最強の男たち三人が、全員仲良く地面に膝をつき、胸を強く押さえて悶絶していた。
「な、なんという……甘美な声……。脳髄が、溶けそう、だ……っ!」
リバロンさんが、震える手でメガネを外しながらうわ言のように呟く。その狼の尻尾は、もはや千切れそうな速度でプロペラのように回転している。
「あぁ……っ、この香り……。城の公務などどうでもいい……今すぐ、私の領地をすべて売り払って、彼女の肥料を買わなければ……っ!」
ルーベンスさんが、白目を剥きかけながら国家への反逆(横領)を口走っている。
「ふ、ふははは……っ! 竜王たるこの俺の闘気が……一言で、霧散するだと……? たまらん……もっと、もっと俺を褒めてくれ……っ!」
イケオジのデュークさんに至っては、地面に額を擦り付けて謎の悦びに打ち震えていた。
(えっ。なにこれ、どうしたの?)
私がただ「おはよう」と挨拶して労っただけなのに、ハイスペック男たちが揃いも揃って畑の土に這いつくばっている。
「ちょっと貴方たち!! 何を雫ちゃんに近づいてるんですの!!」
「スアイさん、雫ちゃんの香りがヤバいです! これ、【完熟】になってますぅぅ!!」
そこへ、買い出しから戻ってきたキャルルちゃんとスアイさんが、物凄い勢いで飛んできた。
二人は手になぜか『鼻栓』と『耳栓』を握りしめている。
「貴方たち、早くこれをつけなさい! 完熟メロロンの香りと声を直接浴びたら、男は社会生活に戻れなくなりますわよ!」
スアイさんが男たちに耳栓を投げつける。
しかし、男たちは――全員、それを手で払いのけた。
「……断る! 我が主の極上の労いを遮断するなど、執事の恥だ!!」
「そうだ! この声と香りを浴びるためなら、私は魔皇国を捨てても構わん!!」
「この俺に鼻栓をつけろだと? 笑わせるな、俺は死ぬまでこの甘い空気を吸い続けるぞ!!」
(えぇ……なんか急に三人が結束して、謎の反抗期迎えてるんだけど……)
「あぁっ! もう手遅れです! 完全におじさん達の脳が《キャバクラに来た常連客》みたいになってますぅぅ!」
キャルルちゃんが頭を抱えて絶望の叫びを上げる。
私はふぁぁ、と色気たっぷりの(?)欠伸を一つして、ふかふかの土に身を沈めた。
(なんかよく分からないけど、皆が喜んでお世話してくれるなら、それが一番よね)
完熟メロロンに爆誕した私。
どうやら私の『無自覚キャバ嬢無双』は、ここからさらに加速していくらしい――。




