EP 5
冷徹執事、メロロンの前に完全陥落す。〜有能なお世話係(専属)が増えました〜
「すぅ……すぅ……」
リバロンさんに「一緒に寝よ?」と声をかけてから、数十分後。
私は心地よい日差しの中、うっかり本気のお昼寝をしてしまっていた。
(んん……よく寝たぁ。あれ? そういえば、さっきのメガネのイケメンお兄さん……)
ハッと目を覚まし、短い根っこで体を起こす。
処分されるかも、と少しだけ焦ったけれど、私の目の前に広がっていたのは、予想だにしない光景だった。
「お目覚めですか、我が主」
「……え?」
そこには、私の花壇の横に純白のテーブルクロスを敷き、アンティーク調のティーセットを優雅に並べているリバロンさんの姿があった。
さらに驚くべきことに。
さっきまで「感情を殺した冷徹な処刑人」のような目をしていた彼が、今はまるで『神の奇跡を目の当たりにした熱狂的な信者』のように、キラキラと潤んだ瞳で私を見つめているのだ。
そして何より――彼の背中にある大きな狼の尻尾が、ブォンブォンッ!と千切れんばかりの勢いで左右に振られている。
(し、尻尾の自己主張が激しい……! さっきまでの殺気どこいった!?)
私がポカンとしていると、リバロンさんは美しい所作でティーカップを持ち上げ、そっと私の口元(?)へと差し出した。
「お目覚めの一杯に、ポポロ村特産の陽薬茶を淹れさせていただきました。貴女様のデリケートな根に負担をかけぬよう、温度は人肌より少し温かい38.5度に設定しております。さあ、どうぞ」
「あ、うん……ごくごく……。わぁ、おいちい……♡」
「――ッ!!(尻尾がさらに加速)」
私が一口飲むたびに、リバロンさんは胸を強く押さえ、天を仰いで深い感嘆の息を漏らした。
「ああ……なんという無垢、なんという慈愛。ただお茶を飲んでおられるだけなのに、私の荒みきった心が洗われていくようだ……。私が今まで仕えてきた強欲な豚(前世の主人たち)とは次元が違う」
リバロンさんは恭しく膝をつき、私の丸いボディにそっと額を擦り付けた。
「貴女様こそ、私が生涯を懸けてお世話すべき真の君主。このリバロン、己の命と執事の矜持に懸けて、貴女様の『究極の光合成ライフ』を死守することをお誓いいたします」
(……ん? なんかよく分からないけど、めっちゃ重い誓いを立てられてる?)
要するに、「お茶出しとかお世話をしてくれる」ってことだよね?
前世では、上司のコーヒーを淹れるためにわざわざ給湯室まで走らされていた私が、今は超絶イケメンの執事に、適温のお茶を口元まで運んでもらっている。
(最高。やっぱりこの世界、天国だわ。このイケメン、有能だし採用!)
私が「おにいちゃん、すき……♡」と適当な営業スマイルを向けると、リバロンさんは「もったいなきお言葉!」と涙ぐみながら私の葉っぱ(ヘタ)をハンカチで磨き始めた。
「――ちょっと待ちなさい!! 何をしているんですの、リバロン!!」
「し、雫ちゃんに何してるんですかこの変態執事!!」
そこへ、会議から戻ってきたスアイさんとキャルルちゃんが血相を変えて飛び込んできた。
スアイさんは巨大な片手斧を構え、キャルルちゃんはトンファーを握りしめている。
「貴方、村の害悪だと言って雫ちゃんを処分しに来たはずでしょう!? なぜ雫ちゃんにお茶を飲ませて、葉っぱを磨いているんですの!?」
「それにその尻尾! 気持ち悪いぐらい振ってますよ! 雫ちゃんから離れなさい!」
激怒する最強のお姉様二人。
しかし、リバロンさんは全く動じることなく、メガネのブリッジを中指でスッと押し上げた。
「お静かに。我が主が驚かれるでしょう」
「「はぁ!?」」
「それに、貴女方の『土の温度管理』は甘すぎます。メロロンの幼生が快適に眠るには、土壌の湿度は42%を保つべきだ。……まったく、私が専属としてつかなければ、我が主の安眠が守られないとは」
リバロンさんはやれやれと首を振り、キャルルたちを「素人はすっこんでろ」とばかりに鼻で笑った。
「なっ……! 私とキャルルで、雫ちゃんのふかふかベッドを整えていたんですのよ!」
「そうです! ぽっと出の執事に、雫ちゃんの何がわかるんですか! お水係は私です!」
「ふっ。では、どちらが我が主に相応しい極上のお世話を提供できるか……勝負と行こうではありませんか」
私の頭上で、パチパチと青白い火花が散る。
ポポロ村の最強戦力(スアイ&キャルル)と、最強の頭脳が、なんと『私をいかに甘やかすか』という謎のテーマで冷戦状態に突入してしまった。
「しずくちゃん! 今すぐ最高級のハニーかぼちゃスープを作ってきますからね!」
「私は世界樹の森から、一番柔らかい苔のクッションを調達してきますわ!」
「私は、主が退屈なさらぬよう、極上の子守唄を歌いましょう」
三人が猛ダッシュで私のお世話のために散っていく。
「…………」
残された私は、ぽかぽかのお日様の下、リバロンさんが淹れてくれた極上のお茶の余韻に浸りながら、大きな欠伸をした。
(なんか騒がしくなったけど、お世話してくれる人が増えるなら、いっか)
今日も私は、一切の労働をせず、最強の庇護者たちから圧倒的な愛(とお世話)を搾取し続けるのだった。




