EP 3
日課は光合成とお昼寝。ただ息をしているだけで褒められる、これが究極のスローライフ。
「すぅ〜……はぁ〜……」
ポカポカのお日様の下。
私、蒼井雫(現:ベビーメロロン)は、今日も元気に光合成にいそしんでいた。
葉っぱ(頭のヘタ)を広げて、太陽の光を全身で受け止める。
ただそれだけで、体の中にじんわりと甘いエネルギーが満ちていく。
疲労感ゼロ。ストレスゼロ。ノルマも納期も存在しない。
「……はぁ、生きてるって素晴らしいわ……」
前世の私よ、見ているか。
満員電車で他人のカバンが肋骨に食い込む痛みに耐え、エナジードリンクで胃を荒らしながら徹夜でエクセルと格闘していた日々は、もう終わったのだ。
今の私の『お仕事』は、こうしてふかふかの土の上で日向ぼっこをして、眠くなったら寝ることだけ。
「しずくちゃーん! ああっ、今日も立派に光合成してますね! 偉いです、天才ですぅ!」
「見てごらんなさいキャルル。あのお口の開き方……無防備で最高に尊いですわ。ああっ、写真、魔導通信石のカメラ機能で連写しなくては……ッ!」
そして、私の周りには、四六時中私を甘やかしてくれる最強のお姉様たちがいる。
月兎族の村長・キャルルちゃんと、元氷魔将軍の超絶美女・スアイさんだ。
彼女たちは、すっかり私の『限界オタク(保護者)』と化していた。
「おねえちゃんたち……おみず……」
私がちんまりとした口で甘えるように呟くと、二人は「ヒュッ」と息を呑んで秒で動く。
「はいっ! 今日は世界樹の森から取り寄せた『朝露の特上マナウォーター』です! 少し甘みがあって美味しいですよ〜♡」
「日差しが強くなってきましたわね。雫ちゃんのお肌(皮)が乾燥しないように、私が特製のUVカット魔導パラソルを立てますわ!」
至れり尽くせりとはまさにこの事。
キャルルちゃんがスポイトのようなもので丁寧に極上のお水を飲ませてくれ、スアイさんが涼しい風を送ってくれる。
(……やばい。お水飲んだだけで「偉い」って褒められる人生、最高すぎる)
前世では、熱が38度あっても「で、代わりは誰がやるの?」と上司に詰められ、這うようにして出社していたというのに。
今は「お水をゴクゴク飲んだ」「光合成をした」「寝返りを打った(転がった)」だけで、二人の美女からスタンディングオベーションが起きるのだ。
「雫ちゃん、見てください! 雫ちゃん専用のふかふか花壇、増築しましたよ!」
「害虫や外敵が近づかないように、周囲10メートルに『絶対零度の不可視トラップ』と『対戦車用地雷』を交互に埋めておきましたわ。これで安心してお昼寝できますわね」
(……対戦車用地雷?)
物騒な単語が聞こえた気がするけれど、気にしないでおこう。
私はただのメロンだ。小難しいことはわからないし、わかりたくもない。
「むにゃ……ぽかぽかして、ねむく、なってきた……」
私がとろんとした目で欠伸をすると、二人は顔を見合わせて静かに頷いた。
「しーっ……スアイさん、雫ちゃんがお昼寝の時間です。私たちは少し離れて警備を……」
「ええ。もしこの神聖な寝顔の邪魔をする輩がいたら、私がこの斧で微塵切りにしてポポロ村の肥料にしますわ」
二人はそっと私に毛布(最高級シルク)を掛け、花壇の周囲を巡回し始めた。
……なんだか、某国の要人よりも厳重な警備をされている気がする。
(まあ、いっか。私は私のお仕事を全うするだけだもの)
私はふかふかの土とシルクの毛布に包まれながら、幸せな眠りの世界へと落ちていく。
もう、誰も私を縛れない。
この完璧に守られた究極の温室で、私は一生、愛でられながらダラダラと生きていくのだ。
――そう、思っていた。
けれど、私のこの『怠惰の極み』のような生活が、外の世界の異常な者たちを引き寄せる事になるなんて。
『……ほう。あれが、村長たちが囲い込んでいるという未知の魔植物ですか』
私がすやすやと眠りこけているその時。
花壇から少し離れた木陰で、冷たい銀縁メガネを光らせる『影』が一つ。
『執事たるもの、主の脅威となる不確定要素は見過ごせません。……さて、どのように処分してくれましょうか』
ポポロ村の裏を牛耳る冷徹な人狼執事・リバロンが、私の排除に向けて静かに動き出していたのだった――。




