EP 2
命の危機!?……と思ったら、最強のお姉様たちが私のガチ勢になりました。
「……はぁ〜、光合成、最高」
転生して数日が経った。
私――ベビーメロロンこと蒼井雫は、ふかふかの土の上で根っこを投げ出し、全力でダラダラしていた。
ここがどこなのかはよく分からないけれど、空気は美味しいし、お日様は暖かい。
お腹が空いたら(喉が渇いたら?)、土から水分と栄養をチューッと吸い上げるだけ。完全無欠の自給自足スローライフである。
(前世の私、見てる? 今、私、火曜日の午前10時なのに二度寝してるよ。お布団(土)の誘惑に完全敗北してるよ……最高すぎない?)
心の中でガッツポーズを決めながら、うとうとしていると――。
ザッ、ザッ、と土を踏みしめる足音が近づいてきた。
「あら、村長。あそこの畝に、見慣れない変な植物がいますわね」
「本当ですね、スアイさん。……えっ、あれってまさか」
聞こえてきたのは、女性たちの声。
私が根っこでよっこいしょと立ち上がり(メロンに足が生えているシュールな光景だ)、声のした方を振り向くと、そこには二人の美女が立っていた。
一人は、頭にふわふわの白うさ耳を生やした、とびきり可愛い女の子。
ただ、その愛らしいルックスに反して、足元にはゴツい安全靴(つま先に鉄板入り)を履いている。
もう一人は、息を呑むほどの超絶クールビューティー。
長い髪を無造作に束ね、なぜかガテン系御用達の『タローマン』のロゴが入ったオーバーオールを着こなしているが、溢れ出る色気とオーラがただ者ではない。
(わぁ、綺麗な人たち……って、あれ?)
二人の表情が、みるみるうちに険しくなっていく。
「……間違いありませんわ。農業ギルド危険指定植物、魔性の果実『メロロン』です。なぜ我がポポロ村に……」
「メロロンって、あの『農家のおじさんの人生を狂わせて家庭を崩壊させる』っていう最悪の魔植物ですか!? だ、だめです! 村の皆さんが魅了される前に、早く処分しないと!」
うさ耳の女の子(村長と呼ばれていた)が、おもむろに構えたのは、両手に持った物騒な『トンファー』。
オーバーオールの美女が取り出したのは、どう見ても冷気を纏った『巨大な片手斧』。
(えっ!?)
待って待って待って。
処分? 処分って言った!?
転生してまだ数日なのに、私のバラ色ニート生活が終わっちゃうの!?
「ごめんなさいね。村の平和のためですわ。……凍りなさい」
美女が斧を振り上げる。殺気が冷たい風となって私の丸いボディを撫でた。
逃げなきゃ!
でも、私の短い根っこ足じゃ、二歩歩くのが限界だ。鈍足すぎる。
(嫌だ、死にたくない! 私はただ、ダラダラ光合成して生きていたいだけなのにーーっ!)
パニックになった私は、必死に短い根っこをジタバタさせながら、前世の営業スマイル(※メロンなので顔の模様が歪んだだけ)を浮かべ、ありったけの声を絞り出した。
「おみず……ほしい、の……。おねえちゃんたち……だめ……?」
その瞬間。
ふわり、と。
私の体から、ベビーメロロン特有の『微弱な甘い香り』が放たれた。
「「…………え?」」
振り下ろされようとしていた斧が、ピタリと止まる。
トンファーを構えていたうさ耳の女の子の動きも、完全にフリーズした。
「いじめないで……。ぽかぽか……いっしょに、する……?」
私は上目遣い(※メロンの模様です)で、二人をじっと見つめた。
……沈黙が落ちる。
あれ、怒らせちゃったかな。やっぱり植物が喋るのってキモいか――
「「…………っっっっ!!!!(ズッキュウウウウウン!!)」」
「か、っ、可愛いいいいいいいいいッッ!?」
「な、ななな、なんて愛らしいんですの!? この片言! 短いあんよ! ぷるぷる震えるまん丸ボディ!! 破壊力が高すぎますわーッ!!」
ガシャン! と、二人が持っていた凶器(斧とトンファー)が地面に投げ出された。
「おねえちゃんって言いました!? 私のことおねえちゃんって!! ああっ、なんてことでしょう、私、こんなに尊い命をトンファーで砕こうとしていたなんて……万死に値します!!」
「落ち着きなさいキャルル! まずは私がお抱っこしますわ!! ああっ、ダメです、手触りもスライムみたいで最高ですわ……っ!」
二人の美女は、争うように私に駆け寄り、その豊かな胸の谷間に私をムギュウウウッと抱きしめた。
(……え? あれ? 処分は?)
「スアイさん! この子、お水が欲しいって言ってました! 私、最高級の『陽薬草』の朝露を絞ってきます! ああっ、喉が渇いていたのね、ごめんねぇぇ!」
「ええ、急ぎなさい! この子のベッドも必要ですわね。私のキャンプ道具の中から、一番ふかふかな最高級シュラフを持ってきますわ!」
二人の目は、完全にハートマークになっていた。
これが、父性や母性、庇護欲を限界まで狂わせる『ベビーメロロン』の恐るべき種族特性だということを、この時の私はまだ知らない。
「いいですかキャルル。この子は私たちが全力で育てますわ」
「当然です! もしこの子に手を出そうとする不届きな男がいたら、私の『超電光流星脚(マッハの飛び蹴り)』で宇宙の果てまで蹴り飛ばします!!」
「私の『絶対零度の鎖』で八つ裂きにしてからね」
(……ひぇっ)
なんか、とんでもなく物騒な声が聞こえた気がするけれど。
でも、斧を下ろしてくれたし、どうやら私は助かったらしい。
「ほら、お水よ〜。いっぱい飲んで、大きくなるのよ〜♡」
うさ耳のお姉ちゃん(キャルルさん)が、甘い甘いお水を口元(?)に運んでくれる。
クール美女のお姉ちゃん(スアイさん)が、ふかふかの布で私を優しく包み込み、頭(ヘタの部分)を優しく撫でてくれる。
(…………最高じゃない?)
自分で土から吸い上げるお水も美味しかったけど、美女に飲ませてもらう高級水は格別だ。
それに、なんだかものすごく強そうな二人が、私を「全力で守る」と宣言してくれた。
つまりこれ、私が絶対に傷つかない『最強の安全圏』を手に入れたってことだよね?
「おいちい……。おねえちゃんたち、すき……♡」
「「あばばばばばばばっ♡♡♡(尊死)」」
私は極上のお水で喉を潤しながら、ふかふかのシュラフの中でそっと目を閉じた。
あぁ、やっぱり私の目に狂いはなかった。
異世界植物スローライフ、万歳。
こうして私は、ポポロ村の最強のお姉様たちを瞬殺し、絶対的な庇護下に入ることに成功したのだった。




