EP 15
完璧なる光合成ライフの幕開け。〜絶対に働かない魔植物は、今日も世界を平和に支配する〜
「すぅ……ふぁぁ……よく寝たぁ……」
ポポロ村の中央にそびえ立つ、国家予算と神々の奇跡で建造された『究極のVIP温室』。
そのど真ん中にある、純金とミスリルで縁取られた特製花壇の上で、私――蒼井雫は、極上の目覚めを迎えていた。
「おはよう、しずくちゃん。ふぁぁ……天界よりこの土の方が寝心地いいわぁ……」
「お肌の調子が最高ですわ。月の裏側なんて二度と帰りませんわよ」
「アイドルの新曲、最高……もう魔王軍の指揮とかどうでもいいわ……」
私の右隣では、ジャージ姿の女神ルチアナ様、ハイブランドを着崩したカグヤ様、ゴスロリ魔王のラスティア様の三人が、完全にダメ人間(神)の顔でポテチをつまみながらゴロゴロしている。
神様すらも堕落させる、最強のふかふかベッド。
「おはようございます、我が女王」
カツッ、と軽快な足音と共に、私の最強の専属お世話係たちがやってきた。
「本日のポポロ村は快晴。温室内の湿度は42%、室温は25.0度に完璧に保たれております。さあ、朝の『極上マナウォーター(ルナミス帝国の国庫三年分)』をどうぞ」
完璧な所作でティーカップを差し出すのは、ポポロ村宰相にして冷徹な人狼執事・リバロンさん。その後ろで、狼の尻尾がブォンブォンと千切れそうな勢いで振られている。
「よく眠れたか、私の癒やしよ。昨日、三大国が正式に『軍事力完全放棄・農業(メロロン栽培)全振り条約』を締結した。これで世界中の資産は、すべてお前を快適に光合成させるためだけに使われる」
徹夜で世界統一の書類仕事を終わらせてきたインテリ貴公子・ルーベンスさんが、疲労すらも悦びに変えたような恍惚の表情で私を見つめる。
「ふはははっ! さあ雫、俺が三日三晩煮込んだ『究極の黄金豚骨スープ(一番搾りクリアウォーター)』だ! これを飲んで、さらに艶やかな果肉になってくれ!」
世界最強の竜王デュークさんが、もはやラーメン屋の親父なのか神なのか分からないテンションで、極上のお水(?)をジョッキで差し出してくる。
(あぁ……最高。朝からこんなに至れり尽くせりなんて)
「ぷはぁ〜っ♡ みんな、ありがとぉ♡」
私がちゅぅ〜っと極上のお水を吸い上げ、満足げに体をぽよんと揺らすと、男たちは「「「おおぉぉ……っ!!(合掌)」」」と揃って天を仰ぎ、感涙にむせび泣き始めた。
そこに、私の最初のお友達(保護者)であるキャルルちゃんとスアイさんもやってくる。
「雫ちゃーん! 今日は世界樹の森から、一番柔らかい新緑の葉っぱをベッドのシーツ代わりに持ってきましたよ!」
「私の冷気魔法で、雫ちゃんのティアラ(黄金のお花)が一番美しく見えるように光の屈折を調整しておきましたわ」
「わぁい、ふかふか! キャルルちゃん、スアイさん、だーいすき♡」
私が二人にすりすり(体を傾けるだけ)すると、二人は「「あばばばばっ♡(尊死)」」と抱き合って崩れ落ちた。
(……うん。本当に、天国だわ)
私は、太陽の光を頭のティアラ(花)でいっぱいに受け止めながら、ふぁぁと欠伸をした。
前世の私。
毎日終電まで働き、上司に怒鳴られ、コンビニの冷たいお弁当を泣きながら食べて、最後は過労で倒れてしまった私。
『もし次があるなら、絶対に働きたくない。ただ日向ぼっこして、お水を飲んで、寝ていたい』
死ぬ間際に願った、あの切実な想い。
まさか『魔植物』に転生して、男たちを無自覚に狂わせ、神々を堕落させ、結果的に世界から戦争を無くしてしまうなんて、誰が想像できただろうか。
「ねぇねぇ、みんな」
私が甘く、とろけるようなクイーンボイスで呼びかけると、温室にいる全員(執事も魔族も竜王も神々も)が、ビシッ!と直立不動になり、私に熱烈な視線を向けた。
「いつも、しずくのために……いーっぱい、おせわしてくれて、ありがとうね……♡」
ふわぁぁぁぁぁぁぁぁん……♡♡♡♡♡♡
私の体から、最大出力の【女王のチャーム(極上の癒やしと労い)】が温室中に解き放たれる。
「みんな……がんばりやさんで、とってもえらいよ……♡ だから……ずっとずっと、しずくと、いっしょに……ぽかぽか、しようね……?」
――バタバタバタッ!!!
「「「「ああぁぁぁぁぁぁぁっっっ(浄化)」」」」
その一言で。
この世界を統べる最強の権力者たちは全員、顔を真っ赤にして涙を流し、あまりの多幸感に膝から崩れ落ちて気絶(尊死)してしまった。
「ふふっ。みんな、おやすみなさい♡」
気絶して幸せそうに眠る皆の顔を見下ろしながら、私はふかふかの特製ベッドに身を沈める。
労働ゼロ。責任ゼロ。
圧倒的な権力と財力と武力を持ったイケメンたちから、神様のように崇拝・保護・溺愛される日々。
絶対に働かない魔植物(元社畜OL)の、究極に優雅で怠惰な光合成ライフは、今日もこの世界を圧倒的な平和と愛で支配し続けるのだった――。




