EP 14
私の安眠のために世界が統一されました。〜戦争禁止の理由は「お昼寝の邪魔だから」です〜
「すぅ……ふかふか……むにゃ……」
神様と魔王が私の温室にダイブしてきてから、数日が経過した。
リバロンさんたちが爆速で床面積を三倍に拡張した『究極の温室』は、今や完全に【神々の堕落部屋(ニートの聖域)】と化していた。
「あぁ〜……この土、最高ね。もう天界の固い玉座なんて座れないわ。リリス、タローソンでポテチと缶ビール買ってきて」
「ルチアナ様! クレジットの限度額超えてますよ! ぁぁもう、私が魔法で出しますから!」
天界のトップ・ルチアナ様は、すっかりジャージ姿が板につき、私の隣のふかふかの土に寝転がりながらゴッドチューブの動画をダラダラ見ている。
「ルーベンス〜、月人くんの新しいプロマイド出た? 城の経費で箱買いしておいてって言ったわよねぇ? むにゃむにゃ……雫ちゃんの匂い、落ち着く……」
アバロンの魔王ラスティア様は、私のぽよんとした果肉に頬ずりしながら完全に夢の世界だ。
(うんうん、皆しっかりダメ人間(神)になっててよろしい。労働なんてするもんじゃないわよ)
私が保護者気取りで神々のお昼寝を見守っていると。
温室の外、ポポロ村の広場が、何やら物々しい雰囲気になっていることに気がついた。
(ん……? なんだろ、あの集まり)
ガラス越しに覗いてみると、そこには見たこともないほどの数の軍勢と、豪華な馬車、そして豪華な衣装を着たお偉いさんたちがズラリと並んでいた。
ルナミス帝国のマルクス皇帝、レオンハート獣人王国のアーサー獣王。各国のトップや重鎮たちが、なぜかこの辺境のポポロ村に一堂に会しているのだ。
そして、その中心にある巨大な円卓で、彼らを完全に見下ろしているのが――私の専属お世話係(狂信者)である、リバロン、ルーベンス、デュークの三人だった。
「――以上が、『ポポロ村・絶対聖域化及び、大陸恒久平和条約』の全容です」
リバロンさんが、銀縁メガネを光らせながら分厚い書類を円卓に叩きつけた。
「第一条。今後、ルナミス、レオンハート、アバロンの三カ国間における一切の武力衝突を禁ずる。……大砲の音や兵士の怒号は、我が主の繊細なお昼寝の妨げになりますからね」
「第二条! 各国の軍事予算の80%を直ちに削減し、それをポポロ村の『農業開発』及び『温室の空調維持費』に充てること! 彼女が少しでも暑い(寒い)と感じたなら、貴様らの国ごと海に沈めるぞ」
ルーベンスさんが冷徹な声で宣言する。
「第三条! 雫の『お水』の調達は三国がローテーションで担当しろ! 万が一、水質が落ちるようなことがあれば、この竜王のブレスで国庫ごと灰にしてくれるわ!!」
デュークさんが葉巻をふかしながら、圧倒的な暴力で脅しをかける。
(えっ。なにそれ。私のクーラー代のために軍事費削るの?)
私は温室の中からドン引きしていた。
だが、円卓に座る各国のトップたちも、当然ながら猛反発した。
「ふざけるな! たかが魔植物一つに、我ら三大国がひれ伏すなどあり得ん!」
「そうだ! 軍事費を80%も削れば、国家の威信が――」
各国の首脳陣が怒号を上げようとした、まさにその瞬間だった。
「ふぁぁ〜……」
温室の中で、私が大きな欠伸をした。
そして、「ちょっと喉が渇いたな」と思い、短い根っこでガラスをコンコン、と叩いて、外にいるリバロンさんたちに甘く呼びかけた。
「おにいちゃんたち……おはなしちゅう、ごめんね……? しずく、おみず……のーみーたーい……♡」
ふわぁぁぁぁぁぁぁぁん……♡♡♡♡♡
換気口を通じて、私の【クイーンメロロン】の超絶フェロモンが、広場全体にフワリと流れ込んだ。
「「「ッッッッ!!!!???」」」
瞬間。
怒号を上げていた各国の首脳陣、そして彼らを護衛していた数千の兵士たちの動きが、一斉にピタリと止まった。
「な、なんだ、この香りは……っ! 頭の奥が、とろけるように……!」
「声……今、ものすごく甘くて、慈愛に満ちた声が聞こえなかったか……!?」
歴戦の王たちや将軍たちが、次々と武器を取り落とし、フラフラと温室のガラスへと引き寄せられていく。
そして、ガラス越しに私の『ぽよんとした丸いボディ』と『頭の黄金の王冠(お花)』を見た瞬間。
バタバタバタッ!!!
広場にいた数千人の屈強な男たちが、ドミノ倒しのように一斉にその場に崩れ落ち、私に向かって平伏したのだ。
「あぁ……なんという神々しさ……! 私の長年の肩こり(国家運営の重圧)が、たった一呼吸で消え去った……!」
マルクス皇帝が涙を流して懺悔を始める。
「間違っていた……! 領土など広げている場合ではなかった……! 我々が本当に守るべき国境線は、この温室のガラス一枚だったのだ!!」
アーサー獣王が、ライオンの耳をペタンと寝かせてひれ伏している。
(……えぇ? なんか、みんな急に素直になったね)
私は驚きつつも、「えらいえらい」と葉っぱを揺らして微笑みかけた。
「おしごと……おつかれさま。みんなでなかよく……しずくの、おせわ……してくれる……?」
「「「喜んでェェェェェェェェッッッ!!!!」」」
大地を揺るがすほどの、数千人規模の野太い歓声(オタクの雄叫び)。
こうして、100年にわたり泥沼の覇権争いを続けていたマンルシア大陸の三大国は、『クイーンメロロンに極上のお水(肥料)を貢ぐ』というたった一つの目的のために、完全なる平和的統一を果たしたのだった。
「ふふっ。さすが我が主。愚民どもも、貴女の尊さの前ではひれ伏すしかありませんね」
「さあ雫。お前のために、ルナミスの最高級浄水魔法でろ過したお水だ。たっぷり飲んでくれ」
リバロンさんとルーベンスさんが、満面の笑み(ドヤ顔)で温室に戻ってきて、私に極上のお水を与えてくれる。
「ぷはぁ〜っ♡ おいちい♡ ……ん? そいえば、外、すっごく静かになったね」
私が不思議そうに言うと、男たちは優しく私の頭(王冠)を撫でた。
「ええ。もう二度と、大砲の音も、戦争の怒号も、貴女様の安眠を妨げることはありません。……この世界は今、貴女様のお昼寝のために一つになったのですから」
(そっかぁ。静かなのは良いことね。じゃあ、遠慮なく……)
私は、神様たちと一緒にふかふかの土に身を沈め、世界で最も平和で、最も安全な二度寝へと落ちていく。
私のただの「お昼寝」が、世界から戦争という概念を完全に消し去ってしまったことなど、夢にも思わずに――。




