第98話 試験合格発表前のある日① ――日常の中で
合格発表まで、あと数日。
その日、タケルたちは日本にいた。
ミラリアではなく、現実世界。
モンマスも、ミラモンも、今日はそばにいない。
「たまには、こういうのもいいよな」
タケルは、境内を見上げながら呟いた。
学問の神様として知られる神社。
この時期になると、合格祈願の学生でにぎわう場所だ。
境内では縁日が開かれていて、屋台がずらりと並んでいる。
「おい、聞いたか。今年もゲーム開催されるって」
「今年は二人一組のタッグ戦らしいぞ」
「しかも優勝賞品が激レアらしい。なんでも……運が絶好調になるって」
「まじかよ!」
通行人たちの会話に、サクラがぴくっと反応した。
「ねえ、聞いた? ゲームだって」
「面白そうだけど……誰が参加する?」
そう言って、サクラは首をかしげる。
「じゃんけんで決める?」
「いや、タケルは足でまといだからな」
アキラがさらっと言う。
「ひどくない? ちょっと!」
即座に抗議すると、アキラは肩をすくめた。
「事実だろ」
「うぅ……確かにそうだけど」
タケルは苦笑いしながら、後頭部をかいた。
「どんまい、タケル!」
サクラが、ぽんっと背中を叩く。
「……励ましになってる?」
そんなやり取りをしていると、背後から声がした。
「良かったら、タケル。僕と組まない?」
振り向くと、そこにはユウマが立っていた。
「ユウマ!」
「いいの!? ありがとう!」
タケルが素直に喜ぶと、ユウマは少し照れたように笑った。
その瞬間――
ドンッ。
「いった……」
誰かとぶつかった。
「ご……ごめんなさい……」
小さな声。
帽子を深くかぶった男の子が、俯いたまま立っている。
さらにその隣から、元気な声が飛んできた。
「ちょっと! ちゃんと前見なさいって言ったでしょ」
明るい声の女の子が、男の子の背中をぽんっと叩く。
「え、えっと……モゴモゴ……」
「……何言ってるか、分からないな」
タケルが正直に言うと、
「シー! そういうことは黙っとくのよ」
サクラがすっと割って入った。
女の子は苦笑いする。
「ほんとごめんなさいね。この子、人見知りがひどくて」
「悪気はないの」
そう言ってから、胸を張った。
「でもね! この子、天才なのよ」
全員の視線が集まる。
「今やってるグランディア中央学院の推薦試験。
学長面談まで進んでるんだから」
「俺らと一緒だな、アキラ」
「ああ」
アキラは短く頷いた。
「君たちも、あのゲームに参加するんでしょ?」
「だったら、尚更負けられないわね。全力でいくわよ」
女の子――エリカが、にっと笑う。
「このゲームに勝つ確率は……モゴモゴ……
FCの二乗にXを代入して……斜辺が……」
男の子がぶつぶつと呟き出した。
「……見えた」
そう言って、帽子のつばをくるりと後ろに回す。
ポケットから取り出したゴーグルを、静かにかけた。
空気が変わった。
さっきまで縮こまっていた雰囲気が、一気に消える。
「……あーあ。入っちゃった」
エリカが肩をすくめる。
「ユズル……こうなったら、手がつけられないのよ」
「何か分からないけど……やべーぞ」
タケルは笑いながら、拳を握った。
「でも、負けない」
優秀チームには、縁日特製のお守りが贈られるらしい。
幸運の道真公は誰の手に――。
その少し離れた場所で。
「……いたぞ」
サトルの仲間が、ひそひそと声を潜めた。
「サトルさん、あのスライム君、いましたよ」
「次こそはコテンパンにしてやりましょう!」
「試験じゃ中途半端な勝ちでしたし!」
サトルは、にやりと笑った。
「ギャフンと言わせてやるか」
「……それと」
視線が、タケルに向く。
「あのワンコ、もう一回触らせてくれないかな」
「サトルさん、しっかりしてください」
「俺は正気だ。でもほんと可愛いんだよな」
「……これ、だめだ」
こうして。
推薦試験とは違う形の、
もう一つの真剣勝負が――静かに始まろうとしていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
合格発表まで、あと少し。
束の間の日常でしたが、新しい仲間との出会いもありました。
この先もタケルたちを一緒に応援していただけたら嬉しいです。
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