第91話 南都セレノフラート――渓谷へ誘う風
南方へ伸びる大通りの先。
塔のようにそびえ立つ巨大建造物が姿を現した。
幾本もの結晶柱が中心へ向かってねじれ合い、
内部では淡い光が脈打つようにめぐっている。
「うわ……デカすぎ……」
アキラが口を開けたまま固まる。
サクラも息をのむ。
「これが……ゲートタワー……
ミラリアの主要都市をつなぐ、空間転移の塔……」
タケルはごくりと喉を鳴らす。
「これが……ゲートリンク……!」
その圧倒的な存在に、三人が近づいていくと――
✦✦✦
塔の入口。
管理人室らしき窓口で、新人のような青年職員と、
恰幅のいい管理人が話していた。
「すみません。今日、急にゲート申請があったんですが……」
新人が書類を差し出す。
管理人は不機嫌そうに眉をしかめた。
「この忙しい時期に?誰が通したんだよ、そんなの。
急な申請なんて突っぱねろ。却下だ、却下」
「承知しました」
新人が入り口へ向き直ったと同時に――
タケルたちが駆け寄ってくる。
✦✦✦
「すみません! ゲートを使いたいんですが!」
タケルが元気よく声をかける。
新人は三人を見て、完全に子供扱いした。
「はいダメ―!急な申請は受け付けてません!
ほら帰った帰った!」
「え……」
サクラが肩を落とす。
アキラが怒り気味に前に出る。
「ちょっとくらい聞いてくれよ!」
「ダーメだって言ってんの!今日忙しいの!」
そこへ――
落ち着いた声が響いた。
「僕が申請したんだけど、通ってないかな?」
振り返ると、金髪の少年――ルイが歩いてくる。
どこか柔らかい気品が漂っていた。
新人はチラッと見ただけで鼻で笑った。
「はいはい、君も子供でしょ?
今日は無理。帰った帰った。ほら次の人――」
だが次の瞬間。
管理人が入口から出てきて、ルイの姿を見た途端――
「……………………は?」
絶句した。
新人「管理人、これでいいですよね?急な申請は――」
管理人は新人の肩をわしっとつかんだ。
「おい……お前……何やってんだ……!」
新人「え?」
管理人の顔がみるみる青ざめていく。
「レ、レーヴェルトおぼっちゃまに!
なんて口を聞いてんだ貴様!!
クビじゃ済まされねぇぞ!!!」
新人の顔も真っ青になった。
サクラ&アキラ&タケル
(おぼっちゃま……!?)
ルイは困ったように微笑んだ。
「いいんだよ。急に来た僕たちが悪いんだ。
どうしてもゲートを使わせてほしくてね」
管理人は土下座しそうな勢いで頭を下げた。
「も、もちろんでございます!!
今すぐご用意いたします!!!」
✦✦✦
5分後。
ゲートタワー内部の中央ホールにて。
「レーヴェルトおぼっちゃま。
ご出発の準備、すべて整いました!」
結晶柱が光を放ち、塔全体が淡く震える。
ルイは軽く会釈すると、三人へ向き直った。
「行こうか。
――南都セレノフラートへ」
タケルは思わずつぶやいた。
「……ルイ、カッコよすぎだろ……」
サクラも小声で頬を染める。
「ほんと……ステキよね……」
アキラだけが呆れていた。
「貴族パワー、マジ恐るべし……」
そして、塔全体が低く唸った瞬間――
視界が光に包まれ、空間が折れ曲がったように揺らぐ。
次の瞬間。
タケルたちの足元の風が変わった。
湿った、南国の匂いが満ちていた。
✦✦✦
光が弾けるような感覚の後、
タケルたちの視界は一気に開けた。
目の前に広がるのは、眩しいほどの日差しと、強い潮風。
湿った空気が肌にまとわりつく。
「……暑っ……!」
アキラが襟元をぱたぱた扇ぐ。
周囲を見渡すと、黒髪よりも茶髪・金髪の人々が多い。
南国特有のゆったりとした服、鮮やかな植物、
魚市場の威勢のいい声が港まで響いている。
サクラはきょろきょろと目を輝かせた。
「すごい……ミラリアって、場所によってこんなに違うんだ……!」
タケルも、胸に広がる世界の広さに息を呑む。
「……空気が違う。
ミラリアの“別の大地”に来たって感じだ……!」
ルイは心地よさそうに風を感じながら説明する。
「ここは南都セレノフラート。
ミラリア南部の商都で、文化も人も混ざり合う場所だよ。
でも僕たちの目的地は――もっと南だ。急ごう」
三人はうなずき、港町の大通りを進む。
✦✦✦
市場を抜け、町外れへ向かう途中。
ひとりの行商人の声が耳に入った。
「おい、お前ら……今日は南の渓谷に近づくなよ!」
タケルたちは足を止める。
アキラ「渓谷……?なんで?」
行商人は肩をすくめ、声をひそめた。
「あそこは風が強いんだ。
最近は特に変でな……
日本ミラリンピックの決勝で映ってた“あの場所”と同じくらい、
空気が荒れてるらしい」
サクラははっと目を見開いた。
「……あの時の……!」
タケルの胸がざわついた。
あの光のスクリーンに映った渓谷――
まさにこれから向かう場所。
行商人は手を振った。
「まぁ、お前ら観光客が行くところじゃねぇさ。
あの風は……普通じゃない」
その言葉に、タケルは無意識にルーの端末へ触れた。
端末の波は微かに揺れている。
ルイは穏やかな笑みを見せた。
「心配ないよ。案内は僕に任せて。
――風の荒れなんて、昨日今日始まったことじゃない」
そう言って、渓谷方面へ歩き出す。
タケルたちもその背中を追いながら、
胸の奥に熱いものが込み上げてくる。
いよいよだ。
ルーの波が求める場所へ――近づいている。
✦✦✦
そして三人が南へ向かう道に踏み出した瞬間――
渓谷の方角から、
低く、風とも声ともつかない揺らぎが聞こえた気がした。
タケルはその音に胸を高鳴らせた。
「……行こう。
波が、呼んでる」
――その先に、“波層洞”がある。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ついに、タケルたちは南都セレノフラートへ辿り着きました。
ルーのための旅が少しずつ大きく動き始めています。
ここから先も、一緒にこの冒険を追いかけてもらえたら嬉しいです。
少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。




