第90話 レーヴェルト家訪問――五大貴族の威光とルイ登場
翌日。
タケルたちは、ミラリア市街の中でもひときわ静かな“貴族区画”へ足を踏み入れた。
サクラは周囲を見上げながらつぶやく。
「ここ……ミラリアの中でも、別世界みたい……」
石畳は光沢があり、街路樹は整然と刈り込まれている。
庭付きの大きな屋敷がどこまでも並び、
まるでゲームの王都エリアを歩いているようだった。
アキラがぽかんと口を開ける。
「おいおい……デカくね?全部屋敷じゃん」
タケルも息をのむ。
「普通の家ってレベルじゃないぞ……これ」
サクラは指先を胸にそっと添えながら言う。
「この奥に……レーヴェルト家の“別邸”があるんだって……」
そして、視界の先に現れたのは——
屋敷という言葉では足りない、まるで小城のような建物だった。
門扉には《レーヴェルト家 別邸》の紋章。
三人はしばし立ち尽くす。
アキラが半ば震えた声で言う。
「……サクラ。本当にここで合ってるんだよな?」
サクラは困ったように笑う。
「う、うん……一度だけ話しただけなんだけど……
覚えててくれてるといいな……」
アキラはぼそっと呟く。
「サクラは知り合いでも……
タケルと俺は完全に初対面なんだよな……貴族こえぇ……」
タケルは喉を鳴らしながら苦笑した。
「いや……ほんとに緊張してきた……」
サクラがインターホンに指を伸ばし、
応対した執事が静かに扉を開けた。
屋敷の中は広々とした玄関ホール、
磨かれた大理石の床、
壁には格式ある絵画がずらりと飾られている。
「……学院より高級感ある……」とアキラが小声で漏らす。
タケル(心の声)
「サクラと知り合いだから来たけど……
これ、完全に場違いじゃないか俺……」
アキラ(心の声)
「貴族ってここまで生活レベル違うのか……」
そんな二人の緊張をよそに、
サクラだけはどこか落ち着いた顔で歩いていた。
その横顔には、
“必ずタケルの力になりたい”という静かな決意がにじんでいた。
✦✦✦
広間に案内されると――
柔らかい光を背に、ひとりの少年が立っていた。
ふわりと揺れる金髪、澄んだ青い瞳。
所作ひとつひとつが上品で、まるで“絵から抜け出した”ような存在。
「よく来たね。サクラさん」
彼はサクラに向けて微笑み、
その後でタケルとアキラに視線を移す。
「そして……君たちは初めましてだね。
僕はルイ=フォン=レーヴェルト。よろしく」
その丁寧で柔らかな声に、タケルとアキラは反射的に背筋を伸ばした。
二人とも、普段の戦闘よりも緊張している。
タケルは慌てて頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします!」
アキラもぎこちない動きで続いた。
「は、初めまして……!」
貴族区画の空気に圧倒されながら、
二人の声はどこか上ずっていた。
ルイはにこやかにうなずき、タケルをじっと見つめた。
「……ところでタケル君。君、適道は何だった?」
「え、バトルだけど」
ルイは目を細め、タケルの全身を一度見渡す。
「……おかしいな。
君から“育成寄りの波”が漂っている気がするんだ」
タケルは少し照れながら答えた。
「実は……“若干育成”って出たんだけど、
バトルで行きたいから、バトルを選んだ」
するとルイはぱっと笑った。
「なるほど、道を選んだわけだ。
それはなかなか厳しい判断だね。
だけど……僕はそういうの、好きだな」
ルイは続ける。
「もし育成を目指すなら、
一年うちで修行をすれば育成適道に転じることもできる。
レーヴェルト家は実績も制度も整っているからね」
タケルは慌てて手を振った。
「いや、ありがたいけど……俺はバトルで行くって決めてる。
ありがとう、ルイ」
ルイは満足そうにうなずいた。
「うん、その強い意志は好きだよ。
──で、何の用件で僕のところへ?」
⸻
タケルは深呼吸し、ルーの波長異常について説明し始めた。
ルイは途中から真剣な表情を浮かべる。
「……普通のミラモンではまず起こらない波の乱れだ。
特に新人の段階では“起きないはず”の現象だよ」
ルイの視線が鋭くなる。
「君たち、何か隠しているんじゃないか?」
タケルは覚悟を決めた。
もう隠しておく意味はない。
「ルーは……フェンリルなんだ」
ルイの目が一瞬で輝いた。
「フェンリルだって!?
──素晴らしい!これはもう協力せざるを得ないじゃないか!」
あまりの食いつきに、アキラは心の中で突っ込む。
(理由そこ!?)
サクラも思わず小声でつぶやく。
(いや、でも……頼りになる……!)
ルイは興奮を隠しきれないまま、すっと立ち上がり、
懐から端末を取り出した。
その所作は洗練されていて、しかしどこか少年らしい勢いもあった。
「話は理解した。
レーヴェルト家として、全力で協力しよう!」
そのまま父へ連絡を取り始め――
数分後、振り返った。
「南都セレノフラートのゲートタワー使用許可。
──取れたよ」
端末をしまいながらルイがそう告げた瞬間、
タケルとアキラは目を丸くした。
タケルは思わず声を漏らす。
「す、すげえ……!」
アキラも震えるようにつぶやいた。
「これが……五大貴族の力ってやつか……」
二人の驚きをよそに、
ルイはどこか誇らしげに、しかし気取らず微笑んだ。
「もし迷惑でなければ、僕も同行しようと思っている。
ただし……」
ルイは指をひとつ立てた。
「波層洞は“波長適正のない者”を拒む場所だ。
最奥に行けるのは君とルーだけ。
僕は途中までしか入れないだろう」
タケルは深くうなずいた。
「それでも……来てくれるなら嬉しいよ。
本当にありがとう、ルイ」
ルイは手を差し出し、タケルもそれを握り返した。
「礼はいらない。
珍しい“波”を見るのは、研究者でも貴族でも……つい夢中になるものだからね」
その言葉に、アキラは内心で思わずつっこむ。
(いや、理由そこなの!?)
対照的に、ルイはどこか楽しげな笑みを浮かべた。
まるで心からワクワクしているような、純粋な光だった。
「では――明朝、南都セレノフラートへ向かおう」
ルイの言葉を聞いた瞬間、
タケルは思わずルーの端末をそっと握りしめた。
いつも揺れて見えた波が──ほんのわずかに落ち着いた気がする。
高貴な声に背中を押されるように、
タケルの胸には、静かな熱が灯っていた。
「必ず……ルーを救う」
そんな確かな想いが、波のように広がっていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ルイの登場で、物語がまた少し大きく動き出しました。
ここからの旅も楽しみと思っていただけたら嬉しいです。
タケルとルー、そして仲間たちのこれからを応援したいと少しでも思っていただけたら、
いいね、ブックマークで応援していただけると励みになります。
この先も一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。




