第88話 波長の揺らぎ――導かれた先の名前
タケルの家に戻った頃には、夕暮れがすっかり夜へと溶けていた。
玄関を開けると――ふわりと優しい匂いが迎えてくれる。
「いらっしゃい。三人とも、面談お疲れさま!」
笑顔で出迎えるタケルの母。
奥から「おー、みんなよく来たな!」と父の声。
その隣で妹のサトがぴょこっと顔を出す。
「にぃに! アキラくん! サクラねえちゃん!」
サトは跳ねるように駆け寄り、三人をぎゅっと抱きしめた。
「ははっ……サト、押すな押すな!」
「賑やかになったな……」とタケルの父がテーブルへ案内する。
食卓には湯気の立つ料理がずらりと並んでいた。
唐揚げ、煮物、サラダ、味噌汁……どれも家庭の温かさがあふれている。
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「みんな、試験本当にお疲れさま。
結果がどうであれ、よく頑張った。父さんはそれだけで誇らしいぞ」
「何言ってるの。あれだけ毎日頑張ってるんだから、きっと大丈夫よ」
母が優しく笑う。
「サクラちゃん、この煮込みどう? 子供たちに人気でね」
「すごい……本当においしいです。
うちは両親忙しくて、いつも一人で食べてるから……こういうの、嬉しいです」
「まあ……サクラちゃん、いい子だわぁ。タケルのお嫁さんに欲しいぐらい!」
「か、母ちゃんっ!?」
「タケル、結婚する?」
サクラがわざと真顔で言う。
「えっ……あ、いやっ、その……!」
みんなが吹き出し、笑いの波が広がった。
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食事が落ち着いた頃、父がふと尋ねた。
「ところで、肝心の合格発表はいつなんだ?」
アキラが端末を確認する。
「今日中に、発表の日程が通知で届くみたいです」
「そうか……ドキドキだな」
その時だった。
ピコン――!
タケルのモンマスが震え、画面が光る。
《本日の学長面談の合格発表は、
1か月後、中央アリーナにて行います。
開始時刻:10時》
「1か月後かぁ……」
タケルは天井を見上げ、長く息をついた。
「長いな……気が休まらない一ヶ月になりそうだ」
アキラが苦笑する。
「でも、その間にできることもあるよね」
サクラがタケルの肩に手を置く。
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夕食後、三人はタケルの部屋に集まった。
「合格発表まで1か月……どうする?」
アキラがベッドに腰かけながら言う。
タケルはモンマスを開いた。
ルーのアイコンが、また“歪んだ波”を示していた。
《波長:不安定(中) →(中+)》
「……また悪くなってる」
サクラも覗き込み、眉を寄せた。
「ルー……こんな状態でずっとはかわいそうだわ」
アキラ「何とか手を打たないとな」
タケルは唇を噛む。
「……みんな、俺……ルーを助けたい。
このままじゃ、合格発表どころじゃない。
どうしたら……ルーの波長を安定させてあげられるんだろう」
胸の奥がきゅっと縮む。
焦れば焦るほど、答えが遠ざかっていく気がした。
アキラがそっと言う。
「タケル、一人で抱え込むなって。三人で考えようぜ」
サクラも静かに頷く。
「うん。絶対、何か方法があるよ」
「……方法……」
タケルは視線を落とし、握った手に力を込める。
思考が空回りして、胸が苦しかった。
「……分からない。どうしたらいいんだ……?」
その弱い呟きに、アキラが腕を組んで考える仕草を見せた。
「……ルーを買った店。
つまり、ロイドさんのところで聞いてみるのはどうだ?」
タケルは顔を上げた。
「ロイドの……おっちゃん」
サクラの目がぱっと輝く。
「それだ! ロイドさんなら、何か知ってるかもしれない!」
「よし、決まりだな。明日にでも行ってみよう」
その瞬間、タケルの表情にふっと光が差した。
「……うん! 行こう。ルーのために」
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店の扉を開けた瞬間――
バッ!!
と、まるで待ち構えていたかのようにロイドが飛び出してきた。
「おやおやおやぁ〜!?
また来ましたね、ワンダフルな三人組!!」
ロイドは腕を大きく広げ、まるで舞台俳優のように一礼した。
「タケルくん! お嬢ちゃん! そしてアキラくん!
いやぁ〜今日も波長がキラキラしてますよ!
商売人冥利に尽きるとはこのことです!!」
タケルは思わず苦笑した。
「ロイドのおっちゃん……相変わらずテンション高いな」
「もちろんですとも! ミラリアに陰気は似合いませんからね!!
で?今日はどんな素敵なご用件で!?」
ロイドの目がきらりと光る。
タケルは思わず前に出る。
「ロイドのおっちゃん、相談があるんだ!」
「ほう……相談、ですか。タケルくんがそんな顔をして来るのは珍しい。」
さっきまでの大げさな笑みがすっと消え、
ロイドは三人の表情とモンマスを交互に見つめた。
「……なるほど。ルーくんの波長が不安定、ですか」
ロイドは声を落とし、静かにモンマスへ手を伸ばす。
覗き込んだ瞬間、表情がわずかに引き締まった。
「……ふむ。やはり、そうきましたか」
「な、何か知ってるの!?」
タケルがぐっと身を乗り出す。
ロイドは軽く片手を上げ、三人を静止した。
先ほどまでのハイテンションとは対照的に、声が低く落ちる。
「ええ。“普通”のミラモンとは違う反応ですね。さて……どこから話しましょうか」
言葉の続きを――ロイドは口にしなかった。
店内に、ひやりとした空気が落ちる。
「ロイドのおっちゃん……?」
タケルが不安げに呼ぶ。
ロイドは三人の顔を順に見つめ、ゆっくりと目を細めた。
「……タケルくん。
本気でルーくんを救いたいのなら――
あなたたちにも“覚悟”が必要になります」
アキラが眉をひそめる。
「覚悟って……どういう意味だよ」
「簡単に済む話ではありません」
ロイドは静かに言った。
「情報を扱うには、こちらにも準備が必要なんです。
あなたたちが聞いていい話なのかどうか……その確認も」
サクラが息を呑む。
「そんなに……深刻なことなの?」
ロイドは微笑み、しかしその笑みに“重さ”が混ざっていた。
「三人とも、今日はひとまず帰りなさい。
頭を冷やして――明日、もう一度来てください」
「ロイドのおっちゃん……」
タケルの声は少し震えた。
ロイドは静かに頷くだけだった。
「大切な相棒のためでしょう?
なら、急がずに。
急ぐべき時は――こちらから呼びますよ」
三人の胸に、不安とも期待ともつかぬ熱が広がる。
――つづく。
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「くぅん……わふっ」




