第87話 白銀の眼――学長イリスとの対峙
扉が閉まった瞬間、世界が変わった。
――音が、消えた。
さっきまで外のざわめきが聞こえていたはずなのに、ここだけ別の世界に切り離されたような静寂だった。
(……空気が、重い……?)
白い壁。白い床。大きな窓から差し込む白光。
ただ一つの机と、椅子。飾り気の一切ない空間に、銀髪が静かに揺れる。
中央学院学長――イリス・グランディア。
その青い瞳が、ふっとタケルを“観測”するように向けられた。
「大和タケル君ですね。かけて」
「……はい」
タケルはぎこちなく椅子に座った。
と、その瞬間。
「あなた……波長が乱れているわね」
「っ……!」
タケルは反射的にモンマスを隠そうとした。
だがイリスはモンマスを一度も見ていない。
――タケル自身の“内側”を見て言っているのだ。
「心を揺らすものがあるのなら、いずれ聞かせてもらうわ」
その微笑は穏やかだったが、逃げ道はないと告げていた。
⸻
「まずは、あなたにとって“誇れる行動”を教えて」
「誇れる行動……?」
タケルは呼吸を整えた。
「……仲間が危険だった時、逃げずに助けに行ったことです」
「それは“勇気”? それとも“無謀”かしら?」
「僕は……逃げたくなった時があったんです。
でも仲間が『大丈夫だ』って言ってくれた。
その時、初めて“自分を信じる勇気”が出たんです」
イリスの瞳がわずかに和らいだ。
(セレナ。あなたもこういう子を好んだわね……)
⸻
「では――あなたの“夢”を聞かせて」
タケルは迷わず言った。
「……ガイアスみたいなバトルマスターになることです」
「大きい夢ね」
イリスは姿勢を変えず、ただ瞳だけでタケルを射抜く。
「でもあなたは模擬戦で二連敗した。
現実を見れば、“夢が大きすぎる”とは思わない?」
(……刺さる……でも、逃げない)
タケルは拳を握った。
「弱いのは……分かってます。でも、それでも……諦めたくないんだ」
(面白い子……
あの落ちこぼれ――ガイアスと同じ“逆境の中の幸運”を持っている)
「心は見えたわ。聞かせなさい、次を」
⸻
「では、“なぜ学院に入りたいの?”」
「強くなりたい。
でも……その前に、“守りたい”んです」
「守りたい?」
「ミラモンも、大切な人たちも。
守れる自分になりたいから……ここに来ました」
イリスの瞳に、静かな揺れが生まれた。
(……やはり、“彼女”の見た未来と同じ方向を向いている)
⸻
「最後に、一つ試験をしましょう」
机の上に、透明な“波紋球”が現れた。
「これは精神の波を映す球。
乱れているほど、揺れが大きくなるわ」
タケルが手をかざすと――
ブワッッ!!
「っ……!」
球が大きく揺れ、光が乱れた。
「理由を説明しなさい。
心を乱したままでは、この学院では生き残れないわ」
タケルはゆっくり息を吸った。
「……ルー、なんです」
イリスが目を細める。
「波長が不安定で……。
試験前も震えてて……俺のせいだって思ったんです。
怖かった。戦う前に怖がらせたのは……俺の弱さで」
押し殺していた言葉が、こぼれていく。
「でも……逃げたくない。
怖くても、弱くても――ルーと一緒に、前に進みたいんです!」
沈黙。
イリスは、長く、深く、タケルを見つめた。
⸻
「……そして、その……」
タケルは震える指を握りしめた。
「ここで逃げたら、夢も遠ざかる気がするんです」
「夢……遠ざかる?」
「弱音を言っても、バカにされても……
それでも前に進みたい」
胸の奥から言葉が溢れた。
「周りに笑われる夢でも、
笑われる夢のほうが、叶った時――誰かに勇気を渡せると思うんです。」
「……」
「だから俺……弱くても、情けなくても……
立ち止まりたくない。ルーと一緒に、進みたいんです。」
イリスの瞳が、ゆっくりと細められた。
(……セレナ。
あなたが探していた“光”を、この子は持っているわ)
⸻
「最後に、ひとつだけ」
イリスは立ち上がり、タケルの前に歩み寄る。
「――あなたは、人とミラモンが共に生きる未来を信じる?」
タケルは迷わず。
「……はい。絶対に」
青い瞳が、淡く光った。
(観測結果――“肯定”)
⸻
「面談は以上よ。戻っていいわ、大和タケル君」
「ありがとうございましたっ!」
退室したタケルを、二人が迎えた。
「どうだった!?倒れてない!?」
「タケル、顔色……悪くない!」
「……わからない。でも、全部話してきたよ」
三人は息を揃えてうなずく。
「――あとは、結果だな」
――つづく
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
タケルの面談を見届けてくださってありがとうございます。
少しでも「タケル、頑張れ」「この先も応援したい」と思っていただけたら、
いいね、ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
この先も、タケルたちの挑戦を一緒に見守っていただけたら嬉しいです。




