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第85話 静かな夜に走る光――面談通知の行方

 学科試験を終えた控室には、ほっとした息と、言葉にならない不安が混ざっていた。


 椅子に座り込んだタケルは、脱力した体を預けるように天井を見上げる。


(……終わった。

 けど……ここからが、本番なんだよな)


 周囲からは、受験生たちのささやきが絶えない。


「判断テスト、全然できなかった……」

「波長検査、俺だけ反応遅かった」

「面談が決め手って聞いたぞ……」


不安が伝染するように広がっていく。


「タケル、よく頑張ったよ」


 隣のユウマが、優しく声をかけた。


「もう、ここからは待つしかないね」


「……ああ」


 タケルは深く息を吸うと、そっとモンマスを開いた。


《波長:不安定(小)》


(昨日より……少しだけ、良くなってる?)


「……ルー。ゆっくりでいいからな」


 画面の向こうで、小さく“きゅ……”と鳴いた気がした。


 弱い声なのに、不思議と胸が温かくなる。



 その夜。タケルの家には三人が集まっていた。


「筆記はまあまあ……かな?」

「いや、アキラは絶対受かってるだろ」


 軽口を叩きながらも、全員が耳を澄ませている。


 そして――


ピコン。


 部屋の空気が止まった。


「……!」


 最初に響いたのはアキラのモンマスだった。


《学長面談の日時を通知します》


「きた……!やったなアキラ!!」


「うおお……!マジか!

 やっぱ、依頼クリア型は前日までに試験が全部終わってたから、通知も早いんだな!」


 部屋がぱっと明るくなる。


 タケルも笑顔で肩を叩いたが、

胸の奥が、きゅっと痛む。


(……次は俺か? それともサクラか……?)



 翌日。三人はミラリア草原で軽いレベル上げをしていた。


 穏やかな風が吹く中――


ピコン。


「ん……? あ、私だ!」


 サクラのモンマスが光っていた。


《学長面談の日時を通知します》


「よし!あとはタケルだけだな」

「タケルなら絶対いけるよ!」


「……ああ。ありがとう」


 笑って返したつもりでも、指先がほんの少し震えていた。


(本当に……俺だけ受からなかったら?)


胸の奥に、冷たいしこりが残る。


その後も通知は来なかった。


昼も、夕方も、夜も。

 何度画面を見ても――沈黙。


(アキラは来た。サクラも来た。

 なのに……なんで俺には……?)


 自分を落ち着かせようとするほど、

 焦りだけがじわじわと広がっていく。


 そして――


 ついに最終日が来てしまった。



 面接通知最終日。タケルの家。


 時計は21:00を回っていた。


「……来ない」


「まだ一時間ある」

「絶対、大丈夫だから」


 だが――

21:30

21:45


 通知は来なかった。


「……ダメなんだろうな。俺だけ、実力足りなかったんだ」


「タケル……」

「信じろよ。最後まで」


 タケルのモンマスが、かすかに光った。


「……!」


 タケルが思わず身を乗り出す。

「おっ――?」


 だが、すぐに光は消えた。


「……勘違いか」

「今は最後まで信じましょう」


 サクラが、静かにそう言う。


(……ルー?)


 しかし、反応はない。


 ただのノイズかもしれない。

 それでも、胸に小さな鼓動だけが残った。



 同じ頃。


 グランディア中央学院・選考会議室。


「以上で今年の面談候補者の選出を終了します」

「学長、よろしいでしょうか?」


 白銀の髪を結い上げた女性――

中央学院学長、イリス・グランディアが静かに頷く。


「……ええ。今年はこれで――」


 その時だった。


会議室中の端末が一斉に震えた。


『(速報)結晶研究ラボ所属

 リナ・クローヴァ博士、意識回復』


「本当に良かった……!」

「事故からずっと危険状態だったのに……!」


 安堵の声が広がる。


 イリスの端末に、ひとつのメッセージが届いた。

差出人を見た瞬間、その場の空気がわずかに変わる。


――――――――――

《至急:イリス学長へ》


学長様。


長らく意識の戻らなかった私ですが、

本日、ようやく目を開くことができました。


……奇跡でした。


そしてその奇跡は、

《三名の若者が危険を顧みず薬を届けてくれた》おかげです。


私は、彼らに命を救われました。


事情を聞けば、彼らは現在“推薦入試”を受験中とのこと。

もし彼らが試験評価において不利な状況にあるのなら――

どうか、彼らの勇気と善意が正当に評価されることを願います。


若者たちの名を、ここに記します。


桃坂サクラ

神谷アキラ

大和タケル


どうか、未来を繋ぐ彼らにもう一度、

道を開いていただけませんでしょうか。


心より感謝を込めて。

リナ・クローヴァ博士

(結晶研究ラボ主任)

――――――――――


メッセージを読み終えると、

イリスはゆっくりとまぶたを伏せた。


白銀の睫毛がわずかに震え、

次の瞬間――瞳が静かに開く。


透き通るような青の奥で、“観測者の光”がかすかに揺れた。


「…………なるほど」


その声は誰にも聞こえないほど小さく、

しかし確かな温度と確信を帯びていた。


(その三人……

 ただの受験生ではなさそうね)


イリスは端末をそっと閉じ、

会議室を見渡した。


その表情は、学長としての厳格さと――

未来を見通す“観測者”としての眼差しが重なっていた。


 その青い瞳が、一瞬だけ淡く光る。


(……ああ。

 あなたたち、あの時――こんな“目”をしていたわね)


「選考委員の皆さん。追加で……一名、面談候補者に加えます」


「学長!? 今から??」

「しかし……学長がそう判断されるならば……」


 静けさが訪れ、やがて誰もが同意していた。



21:57。


 秒針の音だけが、部屋の空気を切り裂くように響いていた。


 タケルは拳を握りしめたまま、ぽつりと呟く。


「……もういいよ。

 アキラ、サクラ……先に行ってくれ。

 俺は一般入試で――」


 その声は強がりの形をしていたが、色は薄い。  


(ふたりの光が、遠くに感じた。

 取り残されるって、こういうことなのか……)


 沈黙が胸を締めつける――その瞬間。


 ピ——コン!!


「……え?」


 タケルの手の中で、モンマスが淡い光を放った。

 いつもと変わらない通知音のはずなのに、酷く大きく聞こえる。


「タケルっ……それ……!」

「まさか……不合格通知じゃないよな?」


 震える指で、タケルは画面を開いた。


《学長面談の日時を通知します》

あなたは推薦入試 学長面談に進みます。


「………………っ!!」


 読み終えた瞬間、

 胸の奥に張りつめていた糸が、一気にほどけた。


 息が漏れ、視界がにじむ。


「やった……っ!!

 本当に……!!」


サクラ「よかったぁ……!!」

アキラ「これで三人だ。全員で進める!」


 タケルは震える腕でモンマスを抱きしめた。

 まるで、この一瞬を逃したくないかのように。


 画面の光が、泣きそうな顔を優しく照らす。


――こうして三人は、未来へ進む扉の前に立った。


つづく




ここまで読んでくださってありがとうございます。

通知を待つ時間の長さと、三人で進める喜びを感じてもらえていたら嬉しいです。


ここまで一緒に見守ってくださった方は、ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


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