第81話 育成創作と“ブランドの血”――サクラの推薦試験(後半)
広いホールの一角。
三名の試験官が静かに並び、受験者を見つめていた。
空気が冷たい。サクラの心臓だけがやけにうるさかった。
深く息を吸い込み、一歩前へ出た。
試験官A
「それでは――【個性入試】を開始します。
テーマは“あなたらしいアプローチ”。好きに表現してください」
「……はい!」
試験官B
「お題を提示してください」
サクラは震えそうになる指先を押さえ、ゆっくり宣言した。
「育成カード《ブースト・イマジネーション》を使って……
ミラモンの“服”を作ります!」
ざわり、と試験官の視線が動いた。
⸻
(……失敗したらどうしよう。でも、逃げちゃダメ。
ここまで来たんだもの。見せたい、自分の力……)
胸の奥がぎゅっと締めつけられ、
足の先まで緊張が流れ込んでくる。
試験官Aが、柔らかい声で言った。
「サクラさん。落ち着いて大丈夫ですよ。
あなたの“ありのまま”を見せてください」
サクラは胸に手を当て、こわばった肩を一度だけ落とした。
(――ママとあれだけ特訓したんだ。大丈夫、できる。
私ならできる……!)
震える指先をそっと握りしめた。
その小さな動作が、サクラの背中を押す。
顔を上げる。
「……それでは――
《IA=イメージ・アリーナ》、展開します!」
サクラが育成カードをセットすると、足元に淡い光が広がる。
キィン――。
空間が波打ち、小型IAが展開された。
「チヨ、出ておいで!」
チヨが出た瞬間、
光の粒子がふわりと浮き、目の前のチヨを包み込むと同時に、
《チヨ》がもう一体、IA内に具現化する。
「わ、ワタシがふたりいるでござる……!」
「驚かないの! 練習したでしょ!」
「あいさ!」
試験官の端末が一斉に動く。
試験官C(小声)
「……自分のミラモンの“コピー体”をここまで精度高く具現化……?
これ、育成適性が相当高いぞ」
⸻
サクラはIAに布を具現化し、
チヨを見て、
風の流れを想像した。
(……跳ぶとき袖が絡む。背中は蒸れる。
木の枝を渡るから、布は軽くて丈夫……)
そして迷いなく宣言した。
「今日作るのは――
チヨの“戦闘服”です!」
試験官A
「戦闘服……?」
「はい。
服は育成です。
その子の魅力も、動きも、個性も引き出す。
服はミラモンの“一番身近なサポート”なんです!」
試験官たちがピクリと反応する。
(ただの服作りではない、“育成論”がある)
⸻
サクラはIAを巧みに操る。
《イメージ操作》
《動作解析》
《フィット調整》
IA上に、チヨの動作データが次々と浮かび上がる。
・跳躍
・枝渡り
・回避
・滑空
サクラはそれらの動きに合わせて、布を切り、縫い、形を変えていく。
「サクラぁ、袖ちょっと長いでござる!」
「大丈夫、今すぐ直すから!」
ふたりのやり取りを見ながら、試験官は思わず息を漏らした。
試験官C
「……これは裁縫じゃない。“育成”そのものだ」
試験官A
「動作データを服に反映……?
完全に新しいタイプの受験者だな……」
IA内で、布が風に揺れ、データラインが走る。
サクラの表情は真剣そのもの。
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やがて――。
「……できた!」
淡い青を基調にした
《風色のミニ戦闘コート》が完成した。
IAの中で具現化したチヨがそれを身につけ、軽やかに跳ねる。
「軽いっ! 風が通る! 落ちても痛くなさそう!」
そのとき、実体のチヨが小型IAを覗き込みながら、ぷくーっと頬を膨らませた。
「あんなカッコいい服着てるなんて……
もうひとりのチヨ、ズルいでござる!!
サクラぁ、こっちのワタシにも着せてほしいでござるぅ!」
サクラは苦笑しながらチヨの頭を押さえる。
「ちょっと黙ってて。今いいところだから!」
その何気ないやり取りに、試験官たちの目がふっと和らぐ。
そして――次の瞬間、試験官Aの表情が一変した。
試験官A
「……すばらしい。
ミラモンの動き、成長方向、個性……
すべてを服に落とし込んでいる」
試験官B
「まったく新しい“育成アプローチ”ですね」
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試験後、審査室にて。
試験官たちがタブレットを見ながら口を開いた。
試験官A
「今回の個性入試……粒ぞろいだったけど……」
試験官Bがサクラのタブレットを見て、小さく息を呑む。
試験官B
「サクラさん。
“育成×服飾”の融合……これは新しい。
発想力、観察力、IA制御、すべて上位クラスです。」
試験官C(専門家)
「服を作ったんじゃない。“ミラモンの未来を調整”したんだ。
これは……才能だよ」
試験官A
「プロフィールを見ると……“育成で有名になって、母のブランドを広めたい”?」
試験官B
「……桃坂サクラ……桃坂……?」
試験官A
「あっ!! MOMOブランドのデザイナーの娘よ!!
SNSで大バズりしてる“あの桃坂”!!」
試験官B
「マジですか!?」
試験官Aはスマホを取り出し、テンション爆上がり。
試験官A
「私、BLACCフライデーで新作バッグ買いました!
見てくださいこれ!めっちゃ可愛くて……!」
試験官C(冷静)
「……でも今日の結果を見る限り、血筋じゃない。
本当に“本人の力”だ」
試験官B
「学院広報も動きますね……。
“桃坂ブランドの娘が、育成でも才能開花”。
これは学院でも話題になりますよ……!」
試験官B
「そして今年は……レーヴェルト家のルイさんまで参加している。
グランディア中央学院としては――“世界育成大会”の優勝も現実的に狙えますね」
試験官C
「ミラリア各国の精鋭校が集まる、あの世界大会か。
我が校は長く決勝に届いていないが……この先は違うな」
試験官A
「サクラさんとルイさんが加わるなら、
グランディア中央学院の評価は一気に跳ね上がりますね!」
試験官C
「ふたりが揃えば……新時代になる」
試験官A
「……今年のグランディア中央学院は、歴史が動く年になるかもしれない」
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試験官A
「――個性入試・自由創作。
桃坂サクラさんの評価は……《A評価以上》で異論ありません。」
試験官B
「賛成」
試験官C
「異議なし」
静かだが確かな熱が、審査室に満ちていた。
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サクラが控室に戻ると、ルイがすぐ立ち上がった。
「お帰り、サクラさん。
……試験、素晴らしかったようだね。」
「え……どうして」
ルイは柔らかく微笑む。
「君の“色”が変わった。
さっきより……ずっと濃く、美しくね。」
(えっ……
ちょ、ちょっと……それ……
反則級に王子様なんだけど……!)
「……ルイ、ありがとう」
(どっかのバトル脳とは違う……!
王子様がここにいた……!)
サクラは胸の鼓動を押さえながら、控室を後にした。
自分の力で、何かが変わった気がした。
──その頃、タケルはまだ知らない。
“サクラの才能が学院全体を揺らす未来”を。
⸻
◆ 次回
――タケル第2戦
《ルーの闘い》が幕を開ける。
つづく。
◆ ミラリア用語解説◆
【IA=イメージ・アリーナ】
《適道:育成》を選択した者だけが使用できる、
思考と育成力を直接反映するバーチャル空間。
使用者が指定したミラモンを“具現体”として呼び出し、
動き・成長・適性を視覚化できる。
※育成適性が高いほど、具現体の精度は上がる。
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【育成カード《ブースト・イマジネーション》】
IA内でのみ使用可能な、育成特化カード。
使用者の“育成力”に比例して、
イメージ補助・動作再現・調整作業の質が向上する。
※表現できる範囲は個人差が大きく、
一流の育成士はIAを“創造の工房”として使いこなす。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
サクラの力や才能が、少しずつ形になっていく回でした。
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この先も彼女の活躍が広がっていきます。




