第80話 控室の出会い――サクラの推薦試験(前半)
――タケルたちとの別れ。
「サクラ、頑張れよ!
俺もモチもルーも、全力でやってくるからな!」
タケルは元気よく手を振った。
アキラも軽く手を上げる。
「サクラ、お前なら大丈夫だ。……落ち着いて、いつも通りやれ」
「うん。二人とも、絶対合格しようね!」
三人は別々の方向へ、それぞれの試験会場へ歩き出した。
サクラは深呼吸し、
静かに張り詰めた空気の“個性入試控室”へ入った。
⸻
控室はいくつもあり、サクラの部屋には三十名ほどの受験生が、緊張でかたまったように座っていた。
紙が擦れる音。
咳払い。
自分の心臓の鼓動。
(大丈夫……大丈夫……。
やってきたことを出せばいい……)
サクラは空いている席にそっと腰を下ろす。
――その瞬間。
控室の空気が、ほんの一瞬だけ“ぱっと明るくなった”。
キラッと光る胸元の金ボタン。
柔らかく揺れる金髪。
花の香りのような甘い気配。
**“周囲の空気が変わった”**のが、サクラにも分かった。
(……え? なんか……すごいの来た……?)
視線を上げると、その“空気の違う影”が、
迷うことなくサクラの前に歩いてきた。
(……え、なに? 王子様イベント?)
⸻
「やあ、そこの君。ひとりかい?」
声まで柔らかかった。
目の前には、
ふわりと流れる金髪、深い青の瞳、立ち姿がいちいち絵になる少年が微笑んでいた。
「え、あ……うん」
少年は胸へ手を当て、優雅に礼をする。
「初めまして。ルイ=フォン=レーヴェルト。よろしく、サクラさん」
「えっ、なんで私の名前……?」
その瞬間だけ、ルイの瞳に“鋭さ”が光った。
「今日の受験者のプロフィールには、一通り目を通したからね。
――『桃坂サクラ』。面白い子だと感じたよ」
(プロファイルとか見れるの!?
なにこの人……完璧超人……!?)
所作も視線も丁寧で、まるで本物の貴族のようだった。
「実は――
君とはいずれ同じクラスになる気がしているんだ」
「えっ、ど……どうして……?」
「直感さ。
……君には“創作の色”がある」
(な、何を根拠に……!?)
ルイは軽く笑みを深める。
「ちなみに僕は《育成名家“レーヴェルト家”》の出身でね。
本国では日本の学院への推薦入学枠をもらっている。
でも日本の受験文化にも興味があって……今回は“あえて”推薦入試を受けてみたんだ」
「め、名家……?」
周囲の受験生たちもざわつき始めた。
「……レーヴェルトって、あの……」
「天才育成士の家系の……本物だ……!」
サクラの背中に緊張が走る。
(やっぱり……すごい人だ……!)
しかしルイは、サクラだけをまっすぐ見つめた。
「でも――名家だとか才能なんて、正直どうでもいいんだ」
優しく微笑んで、
「君の心から滲んでいた“優しさ”のほうが、よほど価値がある」
「!!」
サクラの心臓がドクンと跳ねた。
(な、なにこの人……!
王子様……!? 心まで王子様なの……!?)
その間にも、控室の隅ではヒソヒソ声が止まない。
「ルイ様が女の子と話してる……」
「サクラって子……何者……?」
(うわぁぁぁ……見られてる……!!)
そんなサクラの動揺を読んだように、ルイは柔らかく言う。
「よかったら本番前に意見交換でもどうだい?
個性入試は、創造力と感性が全てだからね」
「え、いや……あ、あの……」
――と、スピーカーが鳴る。
《受験番号47、桃坂サクラさん。
個性入試ブースへお入りください》
「あっ、呼ばれた!」
ルイは静かに礼をする。
「健闘を祈るよ、サクラさん。
君の“色”……楽しみにしている」
サクラは言葉を返せないまま、控室を後にした。
背後を振り返ると、
ルイはまだ微笑みながら、優雅に手を添えて見送っていた。
(……なにこの人……!?
本物の王子様じゃん……!!)
鼓動を押さえられないまま、サクラは試験ブースへ向かった。
――この出会いが、後の学院編で“大きな意味”を持つことを、
まだ彼女は知らない。
⸻
◆ 次回:サクラ、個性入試本番へ――
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