第79話 スライム反撃――揺れたアリーナ
――第5試合エリア。
砂地のフィールドに二つの影が向かい合った。
サトルのミラモン《アイアンブル》は、鋼鉄のような体格をした巨大な牛獣。
肩の装甲からは熱が漏れ、赤く脈動する角は、戦闘欲を示すかのように震えている。
対するタケルのミラモン《モチ》は――ぷるぷるのスライム。
並んだだけで、迫力の差は歴然だった。
観客席からは驚きと困惑が交じった声が漏れる。
「スライム……?」
「相手、アイアンブルだぞ……」
「さすがにキツいだろ……」
タケルはゆっくり息を吸い、モチを見つめた。
「モチ。絶対にやれる。胸張っていこう」
その声に、モチがぷるんと弾む。
⸻
「両者、構えッ――!」
監督生の手が振り下ろされる。
「試合開始ッ!!」
開始の瞬間――
アイアンブルが大地を砕く勢いで突進した。
ゴッ! 鈍い衝撃音がフィールドを揺らす。
モチの体が大きく沈む。
しかし、地面に叩きつけられる寸前で、ぐにゃりと曲がりながら踏みとどまった。
観客席にどよめきが広がる。
「……立ってる……? 」
「アイアンブルの初撃に耐えたぞ……!」
驚いた顔が次々とモチへ向けられた。
タケルの胸が熱くなる。
(よく耐えた……! 本当に……!)
サトルは噛みつくように眉をひそめた。
「しぶとい……! もう一度だ!」
アイアンブルが荒い息を吐き、二撃目・三撃目と畳みかける。
だが――
モチは防御姿勢のまま、またしても一歩も下がらなかった。
観客席に“驚愕”から“興味”へ変わる空気が漂い始める。
そこかしこで、モチの粘りに目を見張る様子が広がっていく。
アイアンブルは突進、踏みつけ、角の薙ぎ払いを連続で仕掛ける。
砂が爆ぜ、衝撃が波打つ。
それでもモチは――
潰されそうになりながらも形を変え、吸収し、耐え続けた。
観客の視線が変わり始めた。
「あいつ……折れない……」
「スライムなのに根性やば……」
⸻
アイアンブルの攻撃の合間、体が一瞬だけ硬直した。
強烈な突進を繰り返した反動で、動きが鈍る。
(……いける。絶対に隙は生まれる!)
タケルの声が届く。
「モチ! まだ耐えろ! その先に絶対チャンスが来る!」
その声に応えるように、モチがさらに体を固める。
気づけば、観客の方から声が飛び始めていた。
「踏ん張れ青いの!」
「負けるなスライム!!」
スライムの健闘に心を奪われたのだ。
その空気の変化に、サトルは苛立ちを隠せない。
「……チッ、調子に乗るなよ、雑魚スライムが」
⸻
サトルが叫んだ。
「……もういい!アイアンブル! 大技で終わらせろ!」
アイアンブルの角が赤熱化し、空気が震えた。
観客席がざわめきを飲み込む。
次の瞬間――
地面を割らんばかりの突進がモチへ直撃した。
「モチーー!!」
砂嵐が巻き起こり、視界が白く染まる。
観客が思わず息をのむ。
「あれ……やばくないか……」
「普通のスライムなら確実に粉砕される……!」
視界が白く揺れる―その中心で。
モチは潰れかけながらも、まだ立っていた。
観客席が大きく揺れた。
「……耐えた……!?」
「スライムが……大技を止めた……!」
⸻
アイアンブルの脚がわずかにふらつく。
大技の反動で、動きが鈍っていた。
モチの体が淡い光を帯びる。
《簡易発現:弱点データ取得》
《対象:アイアンブル》
《弱点:右前脚・関節部》
タケルの目が開く。
「……きた! モチ! 右前脚だ!!」
モチが跳んだ。
小さな体が弾丸のように飛び、弱点へ渾身の一撃を叩き込む。
ドッ!!
アイアンブルがうめき声を上げる。
観客が爆ぜるように沸き立つ。
「効いてるぞ!!」
「スライムの反撃だ!!」
モチは止まらなかった。
弱点へ、正確に、無駄なく、連撃を叩き込む。
タケルも叫ぶ。
「行けモチ!! 押し切れ!!」
サトルの顔色が変わる。
「嘘だ……スライムが……なんで……!」
観客席がタケル側の大熱狂に包まれる。
「青いやついけ!!」
「本当に勝てるぞこれ!!」
⸻
「……チッ。こうなったら――!」
サトルがモンマスを構え、1枚のカードを取り出す。
《オープン!セット!強化カード〈ヘビーアーマー〉!!》
アイアンブルの体が黒鉄に染まり、角が凶悪に巨大化した。
観客席から怒りの波が走る。
「反則ギリギリだろ!」
「卑怯すぎ……!
サトルは薄く笑う。
「うるせぇ。ルール違反じゃねぇよ。強化は自由なんだよ」
監督生が一瞬だけ眉をひそめるが、
「……有効。試合続行」
冷静に告げた。
サトルは獲物を仕留めるように言い放つ。
「終わりだ、スライム」
⸻
アイアンブルが角を振り下ろし――
ドガァッ!!
爆音とともに、モチはタケルの足元まで吹き飛ばされた。
「モチ!!」
タケルが抱き上げる。
(本当に……ここまでよく……)
タケルは強く抱き寄せる。
「最高だったよ。あとはルーに任せよう。ゆっくり休め」
モチは安心したように光となり、モンマスへ戻っていった。
観客席の何人かは目頭を押さえていた。
静かな感動が、フィールドを包む。
⸻
監督生の声が響く。
「勝者――アイアンブル!」
サトルの勝ち誇った声が飛ぶ。
「ハッ、これが実力だ。覚えとけよ、スライム君!」
タケルはゆっくりと立ち上がった。
負けてなどいなかった。
その瞳には、炎が灯っていた。
「次は負けない。絶対にだ」
ルーが一歩前へ進み、サトルを鋭く睨む。
観客席がざわりと揺れた。
その中で――ただ一人、静かに息を整える少年がいた。
アキラだった。
(……次はルーの番か)
小さく頷き、低くつぶやく。
「……ここからだ。タケルの本気は」
タケルの瞳には、揺らぎが一切なかった。
⸻
つづく
ここまで読んでくださってありがとうございます。
モチの粘りと反撃、少しでも熱く感じていただけたなら嬉しいです。
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次はルーの番です。




