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第78話 模擬戦開始――運命の抽選

 ――午前七時。


 タケルたちは、ついに《グランディア中央学院》の巨大な門をくぐった。


 見上げるほど高い三重結界の壁。

 雲を貫く白塔。

 そして――試験の朝にだけ開く“特別開門”。


 門前には、アルセリア大地各地から推薦された十歳の挑戦者が押し寄せていた。


 一週間前の科目選択試験の三倍以上。

 ざっと三千……いや五千はいる。

 人の海が学院前の広場を埋め尽くし、地面が揺れるほどのざわめきが広がっていた。


「……す、すごい人……」

 サクラが目を丸くする。


 タケルは喉を鳴らした。

「たった十日ぐらい旅しただけで……こんな世界最大の舞台に……心臓ついていかねぇ……!」


 アキラは淡々と会場マップを確認しながら言った。

「タケル、深呼吸だ。緊張で負けるな。まだ始まってもいない」


「……お、おう……!」


 それぞれの試験は別会場。


 タケルはアリーナ。

 サクラは個性入試会場。

 アキラは午後の学科試験から合流する。


「じゃ、皆……がんばろ」

 サクラが二人の手を握る。


「行ってくる!」

「後で会おう。タケル、最初の戦いだし全力で行け」


 三人は別々の方向へ歩き出した。



 タケルがアリーナの集合エリアに到着した瞬間、

 “戦う者だけが漂わせる空気”が肌を刺した。


 緊張。

 敵意。

 期待。


 推薦生たちが互いを牽制し、静かな殺気が走る。


(え……ばり場違いじゃん……!)


 そこへ柔らかな声がした。


「やぁタケル君。今日は一緒に頑張ろう」


「ユ、ユウマ……!」


 ユウマは優しく微笑みながら言った。

「もし僕と当たったら、そのときは全力で行かせてもらうよ!」


「……ああ、全力で来いよ!」


(……言っちゃったぁぁ!

 心の準備ぜんっぜん出来てねぇぇぇーっての!!)



 アリーナ中央の空中スクリーンに重たい文字が浮かぶ。


《8:00 開始》


 試験官が歩み出た瞬間、空気が凍りついた。


「時間だ。これ以降の到着者は――失格とする!」


「ま、待ってくれぇ!!」

 ひとりが息を切らして走り込む。


 試験官は無感情に時計を確認した。


「八時〇分三十二秒。失格!」


 会場中にざわめきが走る。


「ひぇ……」

「シビアすぎ……」

「推薦試験って、こんな厳しいのかよ」


 タケルの背中にも冷たい汗が落ちた。



「では――形式に基づき、1vs1、2vs2、3vs3の抽選を行う!」


試験官が声を張る。


「推薦生よ、モンマスを前に掲げよ!」


 数千の子供たちが一斉にモンマスを掲げる。


 次の瞬間――

 《モンマス核》がふわりと浮かび上がる。


 タケルのモンマス核も淡い光を帯び、空へと舞い上がる。


(な、何これ……!)


 そのとき――


モンマス核(心へ)

『……ホンマ、バトルやりよるんやな。気張りや、タケル』


(え……応援……!?

 こ、こいつ……めっちゃいいやつじゃん……!!)


 光の粒となった数千のモンマス核がスクリーンへ吸い込まれ、

 巨大モニターがシャッフルを開始する。


「うわ……緊張する……」

 タケルの膝が震える。


(頼む……ユウマじゃありませんように……!

 あとサトルだけは……絶対当たるな……!)


 ――しかし運命は、それを許さなかった。


試験官の声が響く。

「《2vs2・第5試合》の対戦カードを発表する!」


「一人目――タケル!」


「種族 《スライム・モチ》

 種族 《特殊犬族・ルー》」


会場がざわつく。


「スライムで受験!?」

「チャレンジャーすぎる……!」

「逆に見たくなってきた」


試験官が続ける。


「二人目――サトル!」


「きたー!」

「サトルさん勝ったわこれ!」


 サトルがガッツポーズ。


「よし! 最弱スライム君じゃん!」


「裸のミラリア体操、楽しみですね!」

「やつのミラリア体操拝ましてやんよ。」


(昨日……あんな約束したのに……

 なんでよりによってコイツ……!!)



 全カードが決まった瞬間、アリーナ中央が震えた。


 光のラインが走り――


 ガガガガガガ……!


 床が沈む。

 壁が立ち上がる。

 砂、岩、氷、草原――

 複数の地形が同時に構築される。


「す、すげぇ……!」


「各自、割り当てられたエリアへ移動せよ!

 監督生の合図で試験を開始する!」



 合図と同時に、各エリアで試験が始まった。


 遠くの会場から、歓声や衝突音が断続的に響いてくる。

 端末には次々と試合結果が表示され、番号が更新されていった。


〈第1試合 終了〉

〈第2試合 進行中〉

〈第3試合 準備中〉


 観客席には、こっそり見に来たアキラがいた。


「……次がタケルの試合か」


 本当は筆記の準備をするつもりだった。

 だが、タケルが気になってどうしても離れられなかった。


 ふと、周囲を見渡し――息を呑む。


 ――学院の制服を着た上級生たちがズラリと並んでいた。


 生徒会。

 研究班。

 戦闘班。

 特進クラス。


(……品定め、か?)


 その中で、白いマントの少女だけが、

 じっとタケルのエリアを見つめていた。


(……誰だ?)


 学園編へと続く“学院内部の影”が静かに動き始めていた。



試験エリアの中央で、

 黒い制服を着た上級生──《監督生プロクター》が静かに手を上げた。


「――《2vs2・第5試合》、準備につけ」


 空気が張りつめ、観客席も息を飲む。


「各自、ミラモンの待機を確認。

 ……よし」


 監督生は一歩前に出て、

 まるで刃のような声で告げた。


「――それでは、《第5試合》を開始する」


 タケルの鼓動が一気に早まる。


(……そうだ。

 昨日、三人で誓ったじゃないか。

 “明日は全員で合格しよう”って)


 タケルは震える手をぎゅっと握りしめた。


「モチ……行くぞ」


 ぷるん、とスライムが応える。


 タケルは一歩、戦場へ踏み出した。


 サトルが挑発するように笑う。


「負けたら“アレ”だからな、スライム君!」


(負けられねぇ……絶対に!)


 タケルはバトルエリアへ足を踏み入れた。


巨大スクリーンが点滅する。


《3》


《2》


《1》


――――始まる。


つづく


ここまで読んでくださってありがとうございます。

ついに推薦試験が始まり、タケルの初戦の相手も決まりました。


ここからは緊張も熱さも一気に増していきます。

タケルとモチの挑戦を少しでも応援したいと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

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