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第77話  試験前夜の約束 ―

 推薦試験の前日。

 中央都市グランディア近くの草原。


 タケルはひとり立っていた。

 風がそよぎ、遠くで鳥型ミラモンの影が飛び交う。


「よし、モチ。もう一回いくぞ!」

 小さく跳ねるスライムが、ぷるんと返事をする。

 タケルは息を整え、再び指示を飛ばした。


「正面! 回避して、体当たり!」


 透明の体が地面を滑るように突っ込み――

 しかし、草原に潜んでいた小型ミラモン《ホーンラット》の角が閃光のように走った。


 衝撃。

 モチは弾かれ、地面に転がる。


「モチっ……! 大丈夫か!」

 スライムが震えるように起き上がり、再び構えを取る。


 だが、次の瞬間――

 ホーンラットの鋭い突進を受け、モチは動かなくなっしまった。


 静寂。


「……くそっ、またか」

 タケルは膝をついた。

「モチ、明日は本番だぞ。これぐらい、なんとかしろよ……」

「モチ、単体では厳しいのか」


 風が吹き抜け、草原の波が広がる。

 その中で、タケルはひとり、唇を噛んだ。


「アキラやサクラは……もう完璧なんだろうな。

 なのに俺だけ……」



「おい、あれ……スライム使いじゃね?」


 背後から声がした。

 タケルが振り向くと、学院制服を着た三人の推薦生グループが立っていた。

 真ん中のリーダー格が、あざ笑うように近づいてくる。


「こいつですよ、サトルさん。スライムで模擬戦受けようとしてるっていう、例の変なやつ」

「へ、変なやつ……?」

 タケルは戸惑いながら立ち上がる。


「違う。俺は真剣だし、モチを信じてる!」


 その言葉に、サトルが鼻で笑った。

「信じてる? そんな雑魚も倒せねぇのに、よく言うよ」


 サトルが指を鳴らす。

「アクセス!アイアンブル」


赤い光とともに、

**鋼の体を持つDランクミラモン《アイアンブル》**が出現した。


 サトルが軽く手を振ると、

 アイアンブルが一歩前へ出て――先ほどモチが倒せなかった《ホーンラット》を、

 一撃で粉砕した。


「これが“現実”だ。……理解できたか?」


 手下たちが笑い声を上げる。


「ははっ、あんなスライム使いまで推薦とか、中央学院もレベル落ちすぎだな!」

「明日、恥かきたくなきゃ帰って寝てろよ、スライム君!」


 彼らの声が遠ざかる。

 タケルは拳を握り締め、震える声で呟いた。


「……バカにするな」

 顔を上げる。

「俺のモチだって、やる時はやるんだ!」


 サトルが立ち止まる。

 にやりと笑いながら振り返った。


「じゃあ賭けるか?」

「……賭け?」

「明日、お前のスライムが不様に負けたら――裸で“ミラリア体操”しながら、中央都市を一周してもらう」


「なっ……!」

「ビビったか? 安心しろ、負けるのは確実だ」


 タケルは一歩踏み出した。

「……俺のモチが勝ったらどうするんだよ!」


 サトルの口角が上がる。

「その時は……なんでも言うこと聞いてやる。

 ――そんなこと、あるわけねぇけどな」


 笑いながら、三人は去っていった。


 静寂が戻る。

 タケルは拳を強く握りしめた。


「モチ、悔しいな……。でも、明日、絶対に見返してやろうな」


 遠くで風が鳴る。

 その音が、まるでモチの返事のように響いた。



 現実に戻る。

 ログアウト光が消え、タケルは静かな部屋で目を開けた。

 胸の奥が熱い。


「……明日こそ、絶対に勝つ」


 そのとき。


「タケルー!」


 窓の外から明るい声が響く。

 顔を出すと、サクラが大きく手を振っていた。

 その隣には、アキラの姿。


「なんで二人がここに?」

「タケルのことだから、またネガティブになってたんだろ」

 アキラの冷静な声に、タケルはギクッと固まる。


「……聞こえてた?」

「顔に出てるわよ、“不安MAX”ってね」

 サクラが笑いながら言った。


「な、なんだよそれ! 俺だって真剣にやってたんだぞ!」


「なら、ちょうどいいわ」

 サクラがにっこり笑う。

「今夜は――前日パーティー!」


「へっ?」

「明日は勝負の日だし、3人で最後の夜を楽しもう」


「……お前ら、マジで自由だな」

 タケルが呆れながらも笑う。

 アキラが頷き、短く言った。


「たまには、そういうのも悪くない」


 三人の笑い声が、夕焼けの空へと溶けていった。


――そして、夜が静かに幕を開ける。



 夜。

 中央都市グランディア――草原のはずれ。


 タケルたちは小さな焚き火を囲んでいた。

 星の光が静かに降り注ぎ、炎が三人の顔を淡く照らす。


「いやぁ……ここ、意外と雰囲気いいな」

 タケルが空を見上げて言うと、サクラが頷いた。

「うん。明日の緊張、少しはやわらぐでしょ?」


 アキラが火に薪をくべながら、短く言った。

「タケル、不安そうな顔……なんかあっただろ?」


「実は今日、ひとりで特訓してたら、三人組に絡まれて、モチをバカにされた」

「そうだったのか」


「そりゃあな。“スライムバカ”呼ばわりされたんだ。

 絶対、明日見返してやる」


「……そうか。その気持ちがあれば大丈夫だ」

 アキラの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。


「モチって、一緒に戦ってた時はそんなに弱くなかったよ? ちゃんと指示したか?」

「相手見ながら、左から、右から攻撃って……」


 アキラが額を押さえた。

「おい、モチの戦い方は一対一の真っ向勝負には向いてないぞ」


「そうよ。真っ向勝負は不利よ」

「いや、やっぱり男ならガチのぶつかり合いだろ」


「タケル、よく考えろ。モチの武器はなんだ?」

「……愛嬌?」

「それは戦闘に役立たないだろう。モチの最大の強みは、防御力と解析能力の高さだ」


「モチは簡易発現(解析)によって、相手の弱点を見つけることができる。

 一対一で相手の弱点が分かるって、強みだと思わないか?」


「弱点攻撃によって、不足している攻撃力を補える。

 ただ真っ向勝負するだけが戦いじゃない。モチの強みを活かしてやれよ」


「……そうよ、タケル」

 サクラの声に背中を押され、タケルは頷いた。



 そこへ、昼間苦戦した小型ミラモン《ホーンラット》が現れた。


「モチ、いけるか?」

 モチはぷるんと震えて、戦うポーズを取る。


「モチ、相手の動きをよく見て、防御!」

 ホーンラットの突進を受け止め、モチの体が弾む。

 衝撃を吸収しながら、タケルが続けた。

「隙を見て、簡易発現!」


モチスキル発動

【簡易発現:何回か攻撃を繰り返すと、動きが鈍くなる】


 モチはホーンラットの動きを読み、攻撃を受けながら吸収を繰り返す。


「モチ、すごい……!」

 サクラが感嘆の声を上げた。


 次第にホーンラットの動きが鈍りはじめる。

「今だ、モチ! 弱点攻撃!」


 モチのパンチが光を帯び、ホーンラットの腹部に直撃。

 一撃で、草原に光の粒が散った。


「やった!」

「すごい! これがモチの本当の力か!」


「いや、割と早い時から習得してたぞ」

 アキラが肩をすくめる。

 モチは誇らしげに身体を上下させた。


「モチも嬉しそうね」

 サクラが笑い、焚き火の炎が優しく揺れた。



「ところで、アキラの依頼試験、どうだった?」

「半分は失敗だ」

「えっ?」

「卵は取れなかった。けど、後悔はしてない」


 その言葉に、タケルは黙った。

 焚き火の音だけが、静かに響く。


「アキラらしいわね。結果より、選んだ行動を大事にするタイプ」

「……まぁな」

 アキラは肩をすくめた。


「サクラは?」

「私は……ママにしごかれたから、練習通りにできれば大丈夫かな」

「ちょっと怖かったけどね。でも、あの人、本気で応援してくれてるの」

 サクラの笑顔には、少しの照れと誇りが混じっていた。


「……みんな頑張ってるんだな」

 タケルが呟く。

 焚き火の炎が、彼の横顔を照らす。


「俺さ、スライムで戦うって決めた時、正直ビビってた。

 でも、モチが必死で頑張るの見てたら、なんか俺の方が励まされてたんだ」


「タケルは、いつも仲間を信じてるもんね」

「……信じるしかないんだ。

 信じなきゃ、明日の模擬戦――勝てるわけない」


 その言葉に、アキラが小さく頷いた。

「信じるってのは、簡単じゃない。

 でも、お前ならできる。……スライムだろうが、お前が信じるなら、それが最強のミラモンだ」


「アキラ……」

 サクラが笑いながら言った。

「かっこいいこと言うじゃない」

「たまにはな」


 三人の笑い声が、夜空に弾けた。



 夜も更け、焚き火が小さくなっていく。

 タケルは空を見上げ、静かに呟いた。


「アキラ、サクラ……明日、全員で合格しような」

「もちろん」

「当然だ」


 三人は拳を突き出した。

 焚き火の光の中で、拳と拳がぶつかる。


 その瞬間――言葉はいらなかった。


 ただ、互いの想いがひとつに重なる。

 この夜、三人の絆が確かに結ばれた。



 翌朝。


 グランディア中央学院の鐘が鳴り響く。

 青空の下、試験会場へと向かう三人の背中があった。


 それぞれの胸には、静かな闘志。


――推薦試験、ついに開幕。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

次回、ついに推薦試験本番です。

タケルとモチの戦いを少しでも応援したいと思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

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