表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
76/98

第75話 孤高の依頼 ― 炎の谷を越えて ―(前半)

 推薦試験まで、あと六日。

 タケルたちに見送られたアキラは、朝から中央学院の依頼センターに並んでいた。


 受付前では、推薦生たちが次々とモンマス端末を操作し、転送された複数の任務カードを確認している。

 空気は張りつめ、足音さえ響かない。


「協力は禁止。制限時間は五日。報告は単独提出のみ」

 試験官の声が冷たく響く。

「途中で中断しても失格にはならないが、未報告は減点対象となる。……覚悟はいいな?」


 受験生たちがごくりと息を飲む中、

 アキラだけは静かに頷いた。

 その瞳には恐れよりも、淡い決意が宿っていた。


「神谷アキラ、任務受領します」


 試験官がカードを差し出す。光が走り、任務内容が浮かび上がった。

 その瞬間、周囲にざわめきが起こる。


「この過酷な追加任務をやるのか……?」

「マジかよ、正気か?」


「神谷アキラ、本当にやるんだな⁉︎」

「――ああ、“卵まで狙う”。俺は与えられた試練は全部、乗り越える主義だ」


 会場が一瞬、静まり返る。

 試験官が口を結び、頷いた。


「……任務受理する」


「あいつ、言い切ったぞ。できなきゃ恥だぞ……」



《任務内容:火蜥蜴サラマンドル群生地の観測データ採取》

《危険度:中/対象区域:炎の谷(旧火山帯)》

《制限時間:二日》


《加点任務:火蜥蜴サラマンドルの卵の採取》

《危険度:高/対象区域:炎の山頂上》

《制限時間:三日》



 ざわめく周囲をよそに、アキラは淡々と任務カードを閉じた。

「観測だけなら安全域だが……卵採取は火口直下。成功すれば加点、失敗すれば減点」


「運悪っ……あんなとこ行きたくねぇ」

「山頂は高温域だぞ、強制ログアウトになるって」

「その後の受験どころじゃねぇ」

 周囲の声を背に、アキラは無言で出口へ向かった。


 吹き抜ける風が、コートの裾を揺らした。



 炎の谷――旧火山帯。

 赤く焼けた岩肌が連なり、熱風が金属の匂いを帯びて吹き荒れる。

 遠くでは、赤い光の影がゆらゆらとうごめいていた。


 アキラはモンマスをブック型に展開し、地図を呼び出す。

「リード! 炎の谷――開始だ」


「ララ! 風の流れを読んで。熱の中心を避けて、群生地を確認するぞ!」


「ラジャー!」

 ララが耳を立て、地表の空気振動を感知する。

 炎の風を裂き、軽やかに跳躍して岩を渡る。

 青いリボンの耳が、風にたなびいた。


「よし、まずは観測だ」


 アキラはララ経由で送られてくる温度・風速・地熱データを解析し、ログを転送していく。

 一歩ごとに靴底が焼けるように熱い。

 それでも、彼の瞳に迷いはなかった。



 二日後の夕刻。

 最後の観測データが収集され、モンマスが通知を表示する。


《観測データ収集完了》

《任務進行率:100%》


 アキラは画面を指でなぞり、データを確認した。


「ララ、こっちに来てくれ」


「どうした? データは取れた?」

「ああ。……そして面白いことが分かった」


 群生地の熱分布が、谷から山腹へ螺旋を描いて上昇していた。

 その中心――山頂の高熱域に、一定の“熱脈”が連なっている。


「サラマンドルは昼間、山頂で卵を守っている。

 山頂は常に高温だ。母体が常駐し、外敵を寄せつけない。……だが、問題は温度だ」


「高すぎるってこと?」

 ララが首を傾げる。


「ああ。卵にとっても、この熱は限界ギリギリだ。

 それを調整しているのが――この“熱取りねっとりそう”だ」


 アキラは画面を拡大し、群生地の端に映る緑の反応を指した。

「地熱を吸収して冷却する特殊な草。サラマンドルたちはこれを群生地で育てている。

 そして夜になると、この草を背負って山頂に上がり、卵の熱を取っているんだ」


「つまり、夜だけ谷と山頂を行き来するってことね?」

「そう。モンマスの風向データにも、夜間の上昇気流が記録されていた。

 この“熱取り草輸送”の時間帯だけ、山頂の風が変わる。

 母体は熱を放出し、仲間たちは草を運ぶ……その一瞬だけ、警戒が緩む」


 アキラの口元がわずかに上がる。

「観測任務は完了だが、この特性を利用すれば山頂の卵に近づける。

 ――チャンスは夜、風が動く瞬間だ」


 ララが風を纏って跳ねた。

「やる気満々じゃないの! 面白くなってきたわ!」

「分析と機動、二人でひとつだ。行くぞ、ララ」

「ラジャー!」


 夕闇の中、二つの影が炎の山を駆け上がった。



 夜が来る。

 風の流れが、ゆっくりと変わり始めていた――。



※後半へ続く


ここまで読んでくださってありがとうございます。

少しでも気になるところがあれば、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ