第73話 試験科目選択 ― 冒険者への第一歩 ―
推薦試験まで、あと一週間。
――この日は、試験科目登録の最終日。
中央学院の本館は、朝から受験者たちでごった返していた。
ロビーには受験者たちが列をなし、それぞれの隣ではミラモンたちが静かに待機していた。
壁面には光る文字――《推薦試験 科目選択受付開始》の文字が躍っていた。
「すごい人ね……」
サクラが人混みを見て肩をすくめる。
「まだ試験本番まで一週間もあるのに」
「全国から集まってるんだ。これくらい、当然だな」
アキラが腕を組んで言った。
タケルはモチを肩に浮かべながら笑う。
「なんか文化祭の受付みたいだな」
列の中、受験生たちの声が小さく響く。
「うわ、スライム連れてる推薦生がいる……」
「まさか模擬戦型とか選ばねぇよな」
「スライムで模擬戦? 当たった相手ラッキーだろ。勝ち確じゃん」
タケルは気づかないふりをして笑った。
(……言わせとけ。俺は俺のやり方で行く)
⸻
やがて、受付前に一人の青年が現れた。
冷静な眼差し、白の制服の胸には〈学院試験官章〉と
〈ギルド紋章〉の二つが並んでいる。
――中央学院・特任試験官、ゼクト。
「静粛に」
彼の一声で空気が引き締まる。
「推薦組の諸君、筆記と面接を除き、三つの実技試験から一つを選択してもらう。
どの道を選ぶかで、君たちの評価基準は変わる――
“見られ方”を意識して選ぶことだ」
ゼクトが腕を動かすと、モンマスのホログラム画面に三つの選択肢が浮かび上がった。
① 依頼クリア型(冒険実務)
② 模擬戦型(実技戦闘)
③ 個性入試(自由課題)
「選択後は、それぞれの説明会場に移動してもらう。
A-1ホールが依頼クリア型、B-1ホールが模擬戦型、C-1ホールが個性入試だ。
では、受付を始める」
⸻
「私は個性入試! ミラモンの衣装演出とか特技を活かせそうだし」
サクラが楽しそうに言う。
「俺は依頼クリア型だ。現場判断と戦略、両方試せる」
「じゃあ……俺は模擬戦型にする!」
タケルは笑いながら指を伸ばす。
「ルーとモチで勝って、名を上げてやる!」
「諸君ら、模擬戦は一番人気だ。派手だが、冷静さを欠くと一瞬で終わる」
ゼクトが推薦生全体に向けて言う。
「構わない。俺たちは練習してきたからな」
タケルの笑顔に、ゼクトの瞳がかすかに光った。
「……受ける者は心して挑め。忘れるな。“勝つ理由”が問われる試験だ」
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B-1ホールへ入ると、ざわめきが広がった。
「おい、スライムの推薦生だ」
「本当に模擬戦受ける気か?」
「負けフラグすぎるだろ……」
タケルは気にせず、空いている席へ歩いた。
(……うわ、満員。後ろしか空いてねぇ)
座ろうとしたそのとき――隣から声がした。
「タケル?」
「え?」
顔を上げると、そこにいたのはブロルホーン討伐で共闘した青年――ユウマだった。
「ユウマ⁉︎ 身体、大丈夫だったのか!?」
「おかげさまで。強制ログアウトになった後、ギルドから特Aランクのハイポーション支給されてさ。次の日にはこの通り」
元気に腕を曲げてみせるユウマ。
「良かった……全然知り合いいないから、ちょっと安心した」
「俺もだよ。前回は何もできなかったから、今回はリベンジするつもりなんだ」
ユウマの目に宿る闘志を見て、タケルは自然と笑った。
「じゃあ一緒に頑張ろうぜ」
⸻
やがて、試験官が入室し、場が静まり返る。
「よし、集まっているな。説明を始める」
ホール中央に試験概要が投影される。
《模擬戦型(実技戦闘)》
試験日は一週間後、午前八時より中央学院アリーナにて開催。
対戦カードは当日抽選。
午後から筆記試験、翌日以降に学長面接を実施。
バトル形式は1vs1、2vs2、3vs3の三種。
同じミラモンでの連戦は禁止。
なお、無様な試合は減点対象。
当日の遅刻は失格とする。
「……質問は?」
会場が静まり返る。
「ないようだな。では、今からモンマス端末へVS形式と出場ミラモン登録通知を送る。
登録は三十分以内。終わった者から解散していい」
ざわめきが戻る中、ユウマが立ち上がる。
「じゃあ、また本番で!」
「ああ。負けないぞ!」
タケルは笑って手を振った。
⸻
夕方。
帰り道の途中、アキラが肩を回しながら言った。
「タケル、ちゃんと試験内容聞いてたか?」
「大丈夫だって。……それよりユウマに会ったよ。元気そうだった」
「そっか。良かった」サクラが微笑む。
「さて、今日聞いた情報をまとめるぞ」アキラが腕を組んだ。
「これから試験日までの作戦会議だ。場所は――」
「俺んち?」
「当然だ」
アキラの笑みに、タケルとサクラは顔を見合わせた。
⸻
タケルの家。
キッチンから、香ばしい匂いが漂ってくる。
「あら、今日も来たのね。ゆっくりしていってね」
タケルの母がエプロン姿で笑う。
「ありがとうございます!」アキラが頭を下げる。
その横から、小さな妹サトが顔を出した。
「サクラお姉ちゃんだ! あとで遊ぼうね!」
「いいわよ、サトちゃん」サクラが優しく微笑む。
「母ちゃん、サト、これから大事な話するんだから、邪魔しないでね」
「はいはい。アキラ君、サクラちゃん、タケルのことよろしくね」
「もう、母ちゃんやめてくれって!」
母と妹がリビングに去ると、部屋は静かになった。
「……良い家族だな」アキラがぽつりと呟く。
「そうかな」タケルが笑う。
「それじゃ、今日聞いた試験内容を整理しよう」
机にモンマス端末を並べ、アキラがメモを取り始めた。
ホログラムに浮かぶアリーナの地図。サクラは頬杖をつきながら真剣に聞いている。
「――ここが、俺たちの第一歩だな」
タケルが呟いたその言葉に、二人は黙って頷いた。
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「よし、それぞれの試験は決まったな。明日から動くぞ」
アキラが端末を閉じながら言った。
「明日から?」タケルが首を傾げる。
「ああ。俺は“依頼クリア型”だから、学院指定の依頼を明日から一人で受ける。協力は不正扱いだ」
「そっか……じゃあ残り六日、俺とサクラで準備か」
「そういうこと」
サクラはうなずいた。
「私の“個性入試”は当日朝八時集合。順番待ちだから、意外と時間かかりそうなのよ」
「で、全員共通の学力試験が午後、面接が翌日以降――だな」
「そう。……もう逃げ場はないぞ」アキラが笑う。
タケルは拳を握った。
「上等だ。俺たち全員で――絶対、合格してやる!」
窓の外では、夜風がそっと庭の木々を揺らしていた。
静かな家の中、三人の端末だけが淡く光を放つ。
――それぞれの試験が、静かに始まろうとしていた。
――試験まで、あと6日。
それぞれの“牙”が、静かに研がれ始めていた。
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