第71話 子フェンリル ― 名を得た相棒 ―
販売所の外。
朝の光がゆっくりと街を染めていく。
子フェンリル――いや、もう“彼”には新しい名が必要だった。
「名前つけよう。このままでは不憫よ」
サクラが言う。
「たしかに。フェンリルなんて呼んだ瞬間、周りの視線集めるな」
アキラも頷いた。
タケルはしゃがみ込み、子フェンリルの目をのぞき込む。
小さな身体。けれど瞳の奥には、確かに強い光が宿っていた。
「名前かぁ……」
タケルは唸りながら腕を組む。
「うーん……ポチでいいっか!」
「タケル、なにふざけてるの!」
サクラが即ツッコミ。
それに呼応するように、子フェンリルも全力で首を横に振った。
「わふっ!」
「おいおい、子フェンリルも嫌がってるぞ」
アキラが苦笑する。
「わかってるよ! 今ちゃんと考えてるんだって!」
タケルは頭を抱える。
「私、考えてもいいけど?」
「ちょっと黙ってて、今いい感じに浮かびそうなんだ!」
「なによその言い方!」
「まあまあ」アキラが笑って肩をすくめる。
「タケルなりに、ない頭ひねってるんだ。見守ってやれよ」
タケルはしばらく考え、そして――ふっと笑った。
「……お前は、牙を隠した勇者だ。
フェンリル……ルーヴァ……
そして、好きな食べ物はカレーのルー。
共通点、見つけた! ――“ルー”。で、どうだ?」
子フェンリルが「わふっ!」と鳴き、しっぽを大きく振った。
その反応にサクラが微笑む。
「気に入ったみたいね」
「やっぱりカレーから取ったのね……」
サクラが呆れながらも笑う。
「でも、悪くない」アキラが頷いた。
「短くて呼びやすいし、タケルらしい名前だ」
タケルは胸を張る。
「よし決まりだ。――これからよろしくな、ルー!」
「わふっ!」
小さな鳴き声が、朝の空に響いた。
その瞬間、何かが始まったような気がした。
⸻
「せっかくだし、ステータス確認してみるか」
タケルはモンマスを展開させた。
光のパネルが浮かび上がり、データが映し出される。
【ミラモン名:ルーヴァ《フェルリル》】
名前 :ルー
種族:特殊犬族《フェンリル(幼体)》
ランク:C《A》
レベル:8
HP:42《60》
攻撃:19《32》
防御:18《30》
特性:月牙(満月時に攻撃上昇・新月時に感覚強化)
スキル:月嗅覚(気配感知・敵の位置を特定)
状態:タケルに心を開いた
備考:特殊契約個体。波長共鳴によりステータス補正が変動する。
※《》内は偽装前の本来値
⸻
「おおっ! ちゃんと“特殊犬族”になってる……! Cランクだ!」
タケルの目が輝く。
ロイドがうなずいた。
「ええ、見た目は完全に一般登録情報です。
――ただし、“本当の姿”を見られるのは、主人であるあなた一人だけでしょう。
契約の波長が一致した者にしか、真実は映りませんからね」
タケルはモンマスの画面を見つめた。
そこには確かに――“フェンリル”の名が、淡く揺れていた。
「そっか……お前と俺だけの秘密、ってことだな」
ルーが「わふっ」と鳴き、タケルの足に頭をすり寄せる。
その仕草に、タケルも静かに笑った。
その視線の先。
ルー――フェンリルの瞳が、ほんの一瞬、青く光った。
「なんだか分かんねぇけど……いい目してるな、ルー」
タケルが笑う。
ルーは静かに尻尾を振り、タケルの手を舐めた。
⸻
その瞬間、
“少年と獣”の間に、確かな絆が結ばれた。
――牙は、まだ眠っている。
だがそれは、守るための牙。
タケルとルーの旅は、ここから本当の始まりを迎えようとしていた。
タケルは見上げた空に、小さな月を見つけた。
「……行こう、ルー。ここからだ」
その声に応えるように、ルーが軽く鳴いた。
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