第62話 中央学院推薦試験 ― リヴァイアバーガーと貴公子 ―
結晶研究ラボを後にした三人。
塔のような建物群を抜ける風が、どこか冷たく、それでいて心地よかった。
「これでリオとバーヤさんとの約束は果たせたわね」
サクラが少し安心したように言う。
「ああ」アキラが頷く。
「さて……次はどうする?」
「次はご飯か?」タケルの即答に、アキラは苦笑した。
「お前の頭の中、食べ物のことしか詰まってないな。
……次はまた事務局に戻って、“推薦試験”の提出と内容を聞くぞ。ご飯はそのあとだ」
「や、やべ……つい忘れてた……」
タケルが頭を抱える。
「推薦申込書の提出期限、ガロスさんが言ってただろ」
アキラが呆れたように言う。
「たしか……あと一日、二日だったはずだ」
「マジか! やばいやばい!」
タケルが慌てて立ち上がる。
「よし、急ごうぜ!」
⸻
三人は再び、中央学院の事務局へ向かった。
高い天井の下、昆虫型ミラモンたちがカサカサと音を立てて動き回り、書類の山を次々と積み上げていく。
前回来たときよりも、さらに忙しそうだ。
「すみませ〜ん!」
アキラが声をかけると、受付の女性が顔を上げた。
「あら、またあなたたちね。さては道に迷って戻ってきたのね? 特別にあと一回だけよ、説明してあげるの」
「ち、ちがうんです!」アキラが慌てて手を振る。
「無事に薬は届けられました!」
「まあ、それはよかったわね。……で、今回は何の用かしら?」
アキラは一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。
「実は──始まりの町でギルドから推薦をもらいまして。
その“推薦申込書”を提出しに来ました」
「推薦申込書を? はいはい、見せてちょうだい」
受付の女性は書類を受け取り、手際よく確認する。
「……ふむ、内容も問題なし。
それじゃあミラネットに登録するわね──」
指を走らせ、魔導端末に情報を入力していく。
「……はい、正式に受理いたします。推薦試験、頑張ってくださいね」
その一言に、タケルの胸が一気に熱くなった。
「……っ、ありがとうございます!!」
思わず声が上ずり、言った本人が驚くほどだった。
「あらあら、そんなに喜んでくれるなんて。よほど頑張ったのね」
受付の女性が、優しく微笑む。
アキラも深く礼をした。
「それで……もう一つ。推薦試験について、詳しく聞きたくて」
「なるほど、試験の説明ね。もちろんしたいんだけど──」
受付の女性は後ろを振り返り、溜め息をつく。
そこには、書類の山と、それをせっせと運ぶ無数の小型ミラモンたち。
小さな羽音が、まるで悲鳴のように響いていた。
「見てのとおり、職員が足りなくて……今しがた、仕事が山ほど舞い込んできちゃったのよ」
「ありゃ、これは大変だな」タケルが目を丸くする。
「そうなのよ〜。ごめんね、あとで必ず説明――」
そのとき。
タケルたちの横から、一人の青年が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「受付のお姉さん、忙しいとこ悪いけど……今日が参加期限の《ミラモンと論理回路》講座の申し込みをしたいんです」
「クレイン君、ちょうどいいところに来たわ!」
受付の女性の顔がぱっと明るくなる。
「あなた、生徒会所属でしょ? この子たちに“グランディア中央学院の推薦入試”の説明をしてあげてくれない? 代わりに、あなたの申し込みを最優先で処理してあげる!」
「……なるほど。交渉成立ですね」
青年――クレインは苦笑し、肩をすくめた。
「中央学院をサポートするのも、生徒会メンバーの務めですからね。了解しました」
彼は髪を整えながら三人へ向き直る。
その身のこなしはどこか貴族的で、背筋がまっすぐに伸びている。
「もうすぐ昼時だし、せっかくだから飯でも食いながら説明しよう。
近くに《リヴァイアバーガー》を出す店があるんだ。
リヴァイアフィッシュの肉を使った中央都市名物でね――淡水魚とは思えないほど旨味が濃くて、噛むたびにジュワッと溢れる。
一度食べたら忘れられない味だよ」
「学院生は特別価格で食べられる。君たちの分も、割引で頼めるようにしてあげよう」
「ご飯食べたい!」
タケルが即答する。
「すごく気になる……行きたい!」サクラの目が輝く。
「クレインさん、お願いします」アキラが頭を下げた。
「よし、決まりだ。ついてきたまえ」
クレインが軽く手を振り、スタイリッシュに歩き出す。
――リヴァイアバーガーの香ばしい匂いが漂う先で、
三人は“推薦試験”の真相に少しずつ近づいていくのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しでも続きが気になった方は、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




