第61話 グランディア到着 ― リオのお使い ―
中央都市グランディア――。
巨大なミラ結晶の柱が街の中心で脈動し、その光が雲を貫いて空へと伸びていた。
上空では、鉄道型ミラモン《スパーズ部隊》が列を成して走り、車窓の中では乗客たちが楽しげに手を振っている。
――塔のような自然神秘とは対極の、“人工の神域”。
「……なんだこの光景。まるで未来都市だな」
タケルが思わずつぶやくと、隣でサクラが目を輝かせた。
「ここが“ミラリア文明”の中心よ」
「塔が自然なら、ここは知恵の集積体ね」
「サクラ、初めて来たのに詳しいな」
「ふふん、実はね。ママが“ミラプラ”契約してて、わたしのモンマスにアカウント貸してくれてるの」
「えっ、ミラプラ!? プレミア会員ってやつ!?」
タケルの目が丸くなる。
「おまけにママ、たまに“ミラ雑誌”にも出てるし」
「……サクラの母ちゃん、芸能人じゃん」
「だから情報はバッチリ! ちなみにモンマス★5のスイーツパラダイスもあるのよ!」
「やれやれ……」アキラが苦笑した。
「無駄口はほどほどにして、まずはリオとバーヤさんに頼まれた用を済ませよう」
⸻
三人は中央学院の事務局へ向かった。
高い天井、ガラス張りの廊下。
壁沿いには情報パネルが並び、青白い光で文字が流れていく。
書類を運ぶのは、小型の昆虫型ミラモンたち。
カサカサと翅を鳴らしながら、空気を読むように人の間をすり抜けていく。
「すみません〜」
アキラが声をかけると、受付の女性が顔を上げた。
「あら、見ない顔ね。どうしたのかしら?」
「ノワール村のリオに頼まれて、リオの姉さんに薬を届けに来ました」
そう言って、アキラはバーヤから受け取った紹介状を差し出す。
「中央学院はいろんな機関と連携しているから、ミラネットのデータベースで調べてみるわね……」
受付が端末を操作する。
「……あったわ。リナ・クローヴァ博士。結晶研究ラボ所属ね。場所を教えるから、地図を出して」
「リード、中央都市!」
アキラがモンマスを掲げると、本型に展開し、光の地図が空中に描かれた。
「今いるのがここ。研究ラボはこの区域よ。ただ……少し前に事故があって、まだ稼働してないはず。
立入禁止のはずだから、気をつけてね」
「了解!」タケルが拳を握る。
「よし、結晶研究ラボにレッツゴー!」
⸻
グランディア北区・結晶研究ラボ。
入口には“立入禁止”のホログラムがゆらめいていた。
かすかに機械音が響き、内部の光が淡く明滅している。
「……事故現場って感じだな」タケルが息をのむ。
そのとき、中から白衣姿の女性が現れた。
眼鏡の奥の瞳が少し赤い。
「あなたたち……リオくんの知り合いなのね」
女性は、手紙の差出人を見て小さく息をのんだ。
「名前だけは、何度も聞いていたわ。
リナ博士が、研究の合間によく話していたの。
“弟がいるの”って……」
少し懐かしむように、視線を伏せる。
「直接会ったことはないけれど、
あの子のことは、ずっと身近に感じていたわ」
「これを渡してほしいと頼まれました!」
タケルが薬を差し出す。
女性はそっと受け取り、薬に添えられていたメモを見つめた。
「この字……震えてるけど、優しい字ね。
すぐに読めなくても、きっと想いはちゃんと届くわ」
「はい。『姉ちゃんを絶対治してやる』って、ずっと言ってました」
タケルの声が、少しだけ震えた。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
女性――マーニャは微笑み、涙をぬぐった。
⸻
「博士が倒れる直前、こう言ったの。
“結晶が、私に話しかけている”って」
「えっ?」サクラが目を瞬かせる。
「まるで、それ自体が“生きている”みたいに……。
それ以来、研究室も封鎖されたままなの」
静かなラボの奥で、
青白い結晶がかすかに鼓動するように光っていた。
アキラは一歩近づき、その光を見つめた。
「……生きた結晶。ミラリアの中枢に関わってるかもしれないな」
「リナ博士の研究ノートも見つかってないの。
でも、あの人が残した“共鳴の記録”が何かを呼び覚ましている気がしてならないの」
マーニャは小声で続けた。
「ごめん、これ外部の人に漏らしちゃいけない内容だった。お願いだから、他言無用で。
情報漏洩は……減給だけじゃ済まされないわ」
「風の塔とは異なる、もう一つの“声”が、そこに確かにあった。」
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