第59話 風の塔 ―中央都市へ再出発― ログアウト不可区域 PART11
塔の風がやわらぎ、倒れていたララの周囲に淡い光が漂っていた。
さっきまで吹き荒れていた暴風は跡形もなく、空気が柔らかい。
「ララちゃん……聞こえる? 目を開けて……」
サクラがそっと手を握る。
アキラが辺りを見渡した。
「風は止んだ。……ゼフィールの姿もないな」
「塔の守護者が……俺たちを助けてくれたのか?」
タケルがぽつりと呟く。
塔の中に、ようやく“生きて帰った”実感が戻ってきた。
壊れかけた壁の隙間から、青空と光の粒。
風の塔がまるで“生き物”のように、静かに呼吸していた。
ふと、塔の壁に小さな紋章が浮かび上がる。
――風の紋。
それは微かに光り、やがて塔の中に溶けて消えた。
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「ふああー……よく寝たぁ。ここは?」
ララが大きく伸びをする。
「ララちゃん、起きた!」
サクラが弾んだ声を上げる。
「ララ、大丈夫か?」
アキラが駆け寄ると、ララは首をかしげた。
「うーん……なんか、誰かに大事なこと言われた気がしたけど……忘れちゃった」
彼女は少しだけ笑ってみせた。
「みんな、戦ってくれてありがとう!」
「いいよ。みんな無事だったんだから」
タケルが照れくさそうに笑う。
ララは軽く跳ねてみせた。
「なんだか身体が軽いの。誰にもスピード勝負で負ける気がしない感じ!」
「……テンペスト・ストームも終わったみたいよ」
「ほんとうに? 早く中央都市いこうぜ。ログアウトして自宅の布団で休みたい」
タケルが笑う。
「もうータケルったら」
サクラがあきれたように微笑んだ。
「ララはもっと休んでもいいんだぞ」
アキラが心配そうに言う。
「ううん、大丈夫。外に出よう!」
ララの耳が、風の音にピンと反応した。
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塔の外に出ると、眩しい光が世界を包んでいた。
「うわっ、あの嵐がウソみたい!」
タケルが目を細める。
「ねえ、あれ……虹? なんか三十色くらい混ざってる!」
ララが微笑む。
「それは《オリンポスの祝福》。テンペスト・スコールが去ったあと、破壊された地を癒す天の現象よ。
すべてを元に戻すための、風の奇跡なの」
「ステキね……」
サクラがうっとりと見上げた。
アキラがふと問いかける。
「ララ、ひとつ聞いていいか? なんで黒影盗団のリーダーのミラモンになってたんだ?」
ララは少し苦笑する。
「……実はね、スピード勝負で負けちゃって。ズルしてたのよ。途中で仲間が妨害してきたの。
“不正よ!”って言ったけど、証拠がないって言われて……。仕方なく、負けを認めたの」
「私は賭けのスピード勝負が好き。賭けが大きいほど、本気で走れる相手と出会えるから。
でも……相手を傷つけたり、無理やり奪う勝負は嫌い」
タケルが眉をひそめた。
「でも、ララに負けたノワール村の青年リオ、物資を奪われて、深い霧の中を倒れてたぞ」
「それは全て私じゃないわ。物資はもらったわよ。でもその後の“深い霧”は別のノラミラモンの仕業。
私は勝っても、負けても、追い討ちなんてかけない。
――それが、“走り屋”としての私の誇りよ」
「なるほど……。尾ひれがついて噂になったのかもな」
アキラが納得するようにうなずく。
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「……中央都市、もうすぐね」
ララが耳をぴんと立てる。
「見て! あれだ!」
タケルが指を差す。
「やった! 長かったなぁ!」
タケルが両腕を上げる。
「みんな無事で……本当によかった」
サクラが微笑んだ。
「みんな、ここまでありがとう。……私はここでお別れね」
「え? なんで?」
タケルが慌てる。
「モンマス★5の最高級ニンジンシチューを食べる約束だったじゃん!」
ララは苦笑して首を振る。
「みんなを危険に巻き込んだのに、報酬なんて受け取れないわ」
「そんなの関係ないだろ!」
タケルが声を上げた。
「……」
一瞬の静寂。
その時、サクラがぱっと顔を上げる。
「そうだ!」
「ララちゃんも一緒に旅しよう!」
タケルとアキラが、驚いたようにサクラを見る。
「今、思いついたの?」
「うん!」
サクラはにこっと笑った。
「でも、その方が絶対楽しいでしょ!」
「いいの?」
ララの青いリボンが風に揺れた。
「もちろん。仲間だろ?」
アキラが笑って差し出した手に、ララはゆっくり手を伸ばす。
「……あなたたちとなら、楽しそうね!」
ララがぱっと笑顔になる。
「決まり! これからもよろしくね!」
風が三人と一匹の間を抜けた。
その瞬間、塔の頂から小さな風の羽が舞い落ちた。
まるで旅の再出発を祝福するように――。
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「待って! その前に重要な問題があるわ!」
サクラがピシッと指を立てた。
「……なんだよ、まさかまた食べ物の話?」
タケルが苦笑する。
ナレーション:
――サクラの“重大発表”が、このあとみんなを騒然とさせる。




