表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/73

第57話 風の塔 ―崩壊の兆し― ログアウト不可区域 PART9

 ――風が、荒れていた。

塔の中に吹きこむ突風が、戦場の熱をさらにかき立てる。


 タケルたち三人と黒影盗団。

 中央制御室が、完全なバトルフィールドと化していた。



「モチ! いけぇっ!」


 タケルの声とともに、粘着弾が飛ぶ。

 床を這うように広がり、黒狼ダークハウンドの足元を固めた。


「チヨちゃん、今よ!」


「心得たでござるっ!」


 チヨが分身を繰り出し、スネアバインの根を誘う。

 動きを読んだクロウルガーが風刃を放ち、三体目の《ガーグロウ》を吹き飛ばした。


 風と粘着と分身――完璧な連携。

 短い間だけど、まるで三人の呼吸が一つになっているようだった。


「……見たか、アキラ。俺たち、強くなったよな!」


「うん。今の俺たちなら――!」


 サクラも嬉しそうに笑う。

 希望の光が、確かに差し込んでいた。



 しかし、それも束の間だった。


 黒狼ダークハウンドが低く唸る。

 その動きが急に速くなり、粘着弾を難なくかわした。


 それと同時に、背後の《ガーグロウ》が石の翼を広げ、空気を震わせる。

 塔の天井付近で、三体の影がトライアングルのように陣を取った。


 続けて、蔦の魔獣スネアバインの根が壁と連動して動き出す。

 塔そのものが呼吸しているかのように、根が床を這い、チヨの分身をまとめて飲み込んだ。


「なにっ!?」


「チヨちゃん、下がって!」

 サクラの叫びも届かない。


 《ガーグロウ》が翼を打ち鳴らし、石の破片を撒き散らす。

 衝撃波のような風圧がクロウルガーを襲い、一瞬ふらつかせた。


「……くっ!」


 アキラが顔をしかめる。

 連携が崩れ、息が合わなくなっていく。


 K-47が冷笑を浮かべた。

「それで限界か? “経験不足”ってやつだな」



「まだ終わってない!」


 アキラはモンマスをバインダー型に展開した。

「オープン!」


 指先でカードを一枚、上へと放る。


「《戦闘カード:成長する刃》!」


 光が走り、木の棒のような武器が手の中に現れる。


「なんだ? その棒? おもちゃかよ!」

 盗団たちが笑い声を上げた。


 アキラは静かに構えた。

「……笑えばいい。これは、俺の覚悟の形だ」


 棒が淡く光り、金属音を鳴らす。

 刃が形を変え、短剣へ――そして長剣へと進化していく。


 まるで意志を持つかのように刃がうなり、風の流れさえ切り裂いた。

 アキラの目に、かすかな希望の光が宿る。


 アキラが踏み込み、スネアバインの根を一閃。

 クロウルガーの周囲を覆っていた束縛を切り裂く。


「やった――!」


 だが、切断面がすぐに再生した。

 アキラの瞳が見開かれる。


「くそっ……再生が早すぎる!」


 再生した根が逆にしなり、成長する刃を叩きつけた。

 金属音が鳴り、刃が軋み――そして光を失う。


 パキンッ。


 音を立てて木の棒へと戻り、そのまま光となってモンマスへと吸い込まれていった。


「くっ……強すぎる……!」



 スネアバインの根が鞭のように振り下ろされ、サクラに迫る。

 チヨがその前に飛び出した。


「サクラ殿っ、逃げるでござるぅぅ!」


 直後、激しい光が弾けた。

 チヨの体が砕け、抱きしめたサクラの腕の中で光の粒子となって消えていく。


「むねんでござるぅぅぅぅ!!」


 消えた光の一粒が、ララの足元へと流れ、淡く揺れた。

 ララの耳が一瞬だけぴくりと反応する。


「チヨーーーッ!!」


 サクラの悲鳴が塔に響く。

 彼女の手と声が、激しく震えていた。


「ア、アクセス……リ、リリーフェア、出て! お願いっ!」


 サクラがリリーフェアを召喚するも、先ほどの一撃でみんなの体が固まっていた。

 恐怖と疲労で、動きが鈍い。


 しばらく防戦したが――

 攻撃が遅れ、モチも傷だらけの体を丸める。


「もういい……モチ、これ以上は戦えない……」


「リリーも……動けない……」


 アキラも膝をつき、歯を食いしばる。

「……ここまで、か」



 K-47がゆっくりと前に出る。

「遊びは終わりだ。情はいらん。――俺らに楯突いた怖さ、骨に刻め」


 その声と同時に、敵ミラモンの刃がタケルたちを襲う。

 その瞬間――


「待って!!」


 ララが前へ飛び出した。

 青いリボンが激しく揺れる。


「私を連れていって! 奴隷にでも、何でもする!

 だから、この子たちには手を出さないで!!」


「ララ……っ!」

 タケルが目を見開く。


 サクラも叫んだ。

「そんなの、ダメよララちゃん!」


 K-47は冷たく笑う。

「最初からそうすりゃ良かったんだよ。

 ララ、お前の心意気に免じて、当初の要求通り――ミラとお前をもらう。

 それとな、当面は馬車馬のようにこき使うから、そのつもりでいろ」


「……わかった。だから、もう攻撃はやめて」


 ララの声は小さく震えていた。

 その表情を見て、タケルは拳を握りしめる。


「くそ……! 俺、何も出来なかった……!」



 その時だった。


 塔の奥で、

 何かが軋んだ。


 ゴゴ……ッ、

 と腹の底に響くような低音が、壁の内側を這う。


 次の瞬間。


 塔全体が、ひとつ息を吸った。


 ひび。


 壁に、白い亀裂が走る。

 そこから、細い光がにじんだ。

 遅れて、風が吹き出す。


 冷たいのに、

 どこか熱を帯びたような、妙な風だった。


 床の紋様が、淡く明滅する。


 ひとつ。

 またひとつ。


 まるで、

 眠っていたものが、順番に目を開けていくみたいに。


「な、なんだ……!」

 K-47が、初めて一歩退いた。


 返事はない。


 ただ、

 空気だけが震えていた。


 裂け目から吹き出した風が、

 ララの青いリボンをふわりと持ち上げる。


 その青だけが、

 暗くなりかけた塔の中で、不自然なくらい鮮やかだった。


 ――ピタリ。


 風が、止む。


 音も消えた。


 誰の息遣いも、

 装置の唸りも、

 さっきまで確かに鳴っていたはずの戦いの名残すら、消える。


 静寂の底で。


 ドクン。


 塔の奥から、

 何かの鼓動だけが響いた。


 もう一度。


 ドクン。


 ララの耳が、ぴくりと揺れる。


 誰も、声を出せなかった。


 まるで塔のどこかで、

 ずっと眠っていた“何か”が、

 今になって、こちらを見たような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ